わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

要求工学の話題から

一昨日の講演について.
EIS-Cluster第6回研究交流会として,NTTデータ山本修一郎先生が「要求工学の話題から」と題して2時間,講演をされました.
個人的に,2年に1回の国際会議で面識があります,というより,毎回何かとお世話になっています.
さて講演内容のメモにいきましょう.「発言順」ではなく,いくつかの話題に分けました.

  • 開発心得
    • 従来の開発は,業務上の電子化(何を情報システムにするか)が明確だった.しかし現在は,電子化がほぼ終わり,何をすればいいか見出しにくい.
    • 新しいデバイスを使って,どういう価値を提供するかが大切.ビジネスになるか? 売上の見通しは? コストは?
    • テスト環境で動いたが,運用環境でうまく動かない.原因は,サーバの能力にあった(サーバ仕様は文書に残していた).サーバの能力が低いので動かないのに,なぜ開発側が怒られなければならないのか.
    • 一つのことができれば,「もっと」と要求が出てくる.これが「要求の高度化」.
    • 「製造品質の向上」には,簡単に修正できることも含まれる.
    • 事故の可能性や,回収コストは,デバイスが増えれば増えるほど大きくなる.
    • ISO9126は,ソフトウェアの品質特性に関する規格であり,IEEE830は,ソフトウェア仕様の標準である.重なりもあるが,対象は少し異なる.
    • 自然環境システムは,モニタリング(計測)できるがコントロール(制御)できない.人口システムの中の制度システムは,法律や,組織内のルールを含む.
    • 少数の専門家が使ってきたので問題がなかったシステムも,今後,多数の非専門家が使うことで,問題が発生することがある.
    • 経営層は夢のようなことを言う.開発現場では実現できないか,開発規模が膨れ上がることになる.SI (システムインテグレーション)も同じ.
    • 何を実現できればいいか,確定していないことがある.そのとき,客のせいにするのではなく,開発側で何を作るかを明確にし,何をするか,それをすると何ができるかを示していくとよい.
  • 技術的なこと・製品など
    • WebBASEは今でも使われており,パッケージビジネスの成功例といえる.
    • モニタリングシステムを病院の医師に見せ,「医師がどこにいるかわかりますよ」とアピールしたら,「わかられたくない」と叱られた.
    • センサデバイスの接続はWebサービス*1すべきだろう.
    • バイスを作りながら使うのは,既存のデバイスを使うのよりずっと大変.
    • 車は内部で様々な機器と通信しており,巨大なLAN環境といえる.
    • 車の電子制御システムは,7M (700万)行に及ぶものがある.携帯端末も7〜10M.ゼロクスコピー機で多いもの12M,内蔵マイコンは100個になる.
    • ネットバンクは,リアルな世界で使われている,バーチャルなもの.これを実現しているのが,情報技術である.
  • 要求工学について
    • ゴールとソフトゴールの違いについて.ゴールは定量quantitative*2なもの.一方ソフトゴールは定性的なもので,これまでの要求定義では書かれていなかった.
    • ゴール分析の図は,分析者と開発者との対話に使う.分析者と開発者との間では,この図をベースにして要求仕様を作ってこちらで合意を得るとよい.
    • 図に曖昧さ(図の作成者とシステムの開発者で,解釈が異なってしまうこと)がないか? ゴールには属性を明記する.またゴール間の関係は論理的なので複数の解釈に至ることはない.
    • 会話構造モデルを適用して図にすると,正常系・異常系を網羅的に記述でき,それぞれを突き詰めて検討できる.
    • どのように具体的に提案・再提案を進めるかを,図により客観化するとよい.
  • 展望
    • 「要求工学」は,従来はエンタープライズ系で考えられてきたが,今後,組込みにも波及していくだろう.
    • ヒトとコンピュータを直接つなぐと,「同じ情報」が様々な人に「同じ意味」として瞬時に浸透する?
    • セキュリティに絶対はない.技術には限界がある.より高度なセキュリティを,暗号技術が変わっても利用可能とするようなシステムが必要.

*1:通信において独自のプロトコルを作るのではなく,HTTPを用いることです.その上で,どんな情報を送るべきかは,標準化がなされていない限り,仕様として決めるべきでしょうね.

*2:「仕様として定量的に書ける(1000同時接続可能,など)」という意味よりもむしろ,それが達成できるかどうかが客観的に判断できるものではないか(そしてそういうゴールの数を分母として,達成度という数値を計算できる)と考えました.科学の分野で言う「検証可能」です.そうすると,ソフトゴールは「必ずしも検証可能ではない(が抜きにすることのできない)ゴール」と表現できそうです.