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「個人の研究」と「組織としての研究」

これから何回かに分けて,私のもとで研究をしていく学生のためのアドバイスを書いていくことにします.
はじめに言葉の注意ですが,私と,私が直接指導をする学生の集合を「(私の)研究室」と書くことにします.「(我々の)研究グループ」と書けば,学科内のデータエンジニアリング研究グループの教員と,そのもとでの学生*1の集合になります.私独自のルールと,研究グループ内のルールに違いがあり得ます.
さて,これからこの話題について読んでもらう直接の対象者は,私の研究室の,4年,M1,またはM2の学生になります*2
4年生なら,1年間で卒業研究を完了させることが求められます.大学院のマスターコースでは,2年間で修士論文を完成させます.この4月から大学院入学の人は2年間,これからM2の人は残り1年です.
これらは「自分自身の研究」となります.当学部・当大学院では,グループで研究をしても最終的な成果の取りまとめは個々人でするルールになっています.研究テーマの切り分けは指導教員次第ですが,私の場合は,比較的早いうちから,テーマを分けています.卒業研究に関して,過去には,年度の前半はグループでひとつのシステムを開発し,後半にテーマを分けて,深く研究する*3ことがありました.
それと別に,組織としての研究,すなわち「研究室/研究グループの研究」というのがあります.
学会発表はその一例です.大学院生にとって,学会で口頭発表し,分野の専門家から意見を得ることが,修士論文の要件となっています.なので,学会発表はいわばノルマquotaのように捕らえているかもしれません.この考え方はある意味で妥当ですが,もしそうならば,発表は単著,すなわち学会発表では自分ひとりの名義で,論文なり予稿なりを書き,発表に関する責任を自分ひとりが負うことにするのが自然かもしれません.
しかし当研究グループによる学会発表では,著者名は複数人の連名(共著)にして,発表する学生を最初に書き,途中に指導教員の名前が入っています.これは,そこに書かれている著者全員が,発表に関する責任を負うという意味です.
連名にすることの効果はいくつかあります.研究報告会やシンポジウム発表などで,申込みに対して審査が行われることがありますが,学生一人では,俗に「どこの馬の骨とも分からない」ということが起こり得ます.共著にすることで,研究内容や発表に対する信頼性が上がります.主催する側では,研究内容だけでなく,「きちんと期限までに原稿を提出してくれて,当日発表してくれるか」を含めて,発表を許可するか否かを決めます.教員との共著というのは,提出や発表を担保することになります*4
また当日の発表で,学生の発表に対して,その学生の知識を超えるような質問が起こることがあります.「専門家の洗礼を受ける」ということです.このときに,指導教員は「共同研究者の○○です*5.ご質問についてですが,…」と言って返答するのが一般的です.学生にとっては渡りに舟というやつですが,指導教員の側では,学生をかばうというよりはむしろ,研究の信頼性をアピールするために行っているというのを,知っておいてください.
話が拡散してしまいました.そろそろまとめましょう.
研究室で行われる研究のゴールは,大きく分けて二つあります.一つは,修士論文または卒業論文です.これは「自分の研究」に属するものです.もう一つのゴールは,学会において学術論文として公表することです.学会発表(口頭発表)は,学術論文の途中の段階です.それと別に,何らかのシステム*6を完成させ,ユーザに使ってもらうことが挙げられます.これら2番目のゴールは,「組織としての研究」に関わるものです.
二つのゴールのための研究活動は,密接に関係しています.学会発表は,修士論文のためのノルマといういう意味では「個人の研究」ですが,共著にしていることで,「組織としての研究」の成果にもなります.システムの開発においても,個人の研究の面と,組織としての研究の面があります.もし個人の研究のみでシステムを開発しているのなら,その有効性評価のための実験をするのが,うんと難しくなります*7
私に限らず指導教員は,学生の「個人の研究」と,自分の属する「組織としての研究」のバランスを取って,学生に何をすべきか指示しています.その指示に従うほうが*8,学生もwin,組織もwinに近づけることになります.

*1:要はA505の学生です.学科外の人のために補足しますと,A505とは室番号のことです.

*2:ドクターコースの学生には,また異なる心がけが要求されますが,当面,私のところで指導することになるドクターコース学生は,いそうにありません….

*3:年度前半で作ったものに機能上の問題点を見つけ,それを解決するよう,システムを改良する,というのが代表的です.

*4:私自身の経験で,学生ではなく教員としてのお恥ずかしい話ですが,単著で発表に応募し,OKとなったのですが,原稿を書き上げる見通しが立たず,取り下げたことがあります.

*5:最近ではむしろ「共著者の○○です」のほうが多いかな.まあ同じ意味ですが.

*6:「システム」は「アプリケーション」と書かれることもあります.個人的には,単なる動くものを「アプリケーション」と呼び,この意味でのアプリケーションと,データ,コンピュータ,使う人を含めた全体を「システム」と呼ぶようにしています.

*7:「自分で研究テーマや実施内容を決める」ことは否定しませんし,自主性があるということで歓迎をします.しかし,実証実験や,論文とりまとめまでを自分ひとりで行おうと思わないように.定期的に,あるいは必要なときに,指導教員からアドバイスを得るべきでしょう.

*8:単に「はい」というのではなく,分からない点は質問して理解することにすれば,なおよしです.