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社保庁の45分-15分問題に欠けている視点

社保庁のパソコン作業に対する労組の関与について,2chなどでよく,ZAKZAKの記事 (ウェブ魚拓の記事)が参照されています.

88年5月31日に総務課長と事務局長が交わした覚書には、≪窓口装置を連続操作する場合の1連続操作時間は45分以内とし、操作時間45分ごとに15分の操作しない時間を設ける≫とある。1時間のうち15分も休憩できるとすれば、かなり楽な仕事というしかない。かつて、国鉄は37兆円もの巨額負債を抱えながら、職員の態度は横柄で、労働条件優先のストライキを繰り返した。今回入手した内部資料とずさんな年金記録の管理を見る限り、屋山氏の「社保庁=第2の国鉄」という指摘はうなずける。

Webを見渡す限り,労組批判ばかりです.口汚い表現が目立ちます.以下は「yes, but構文」で,まだましなほう.

村瀬長官は就任早々、それまで労使間で結ばれていた100以上にのぼる協約を一切、破棄したという。この協約の中には、例えば成績を競わせないというものや、社会保険事務所間の競争はさせない、というものもあったという。もっと驚くのは、45分間、パソコン業務をした場合には、15分間の休憩を設けるといったものまであったという。
言うまでもなく、労働組合の目的とするところは組織員の生活向上であり、職場環境の整備である。組合員の利益を守ることにこそ、その存在理由がある。過酷な労働や、健康を害する残業、あるいは危険な労務から労働者を守ることがその責務だ。だが、それと同時にその組織がかかわる人びと、社保庁で言えば、この組織に自分の老後を委ねている納付者や受給者のみなさんの利益を守ることも、労組の大きな役割のはずだ。

http://homepage2.nifty.com/otani-office/scrap/0607ms.html

昨夜の報道ステーションでも,この「45分-15分問題」のほか,打鍵数は「1日5000回」以内にするとか,パソコン作業の時間は1日あたり「180分」以内だとかいった労組の方針が出てきました.これらに対するキャスターやコメンテーターの意見を聞きたかったのですが,特になく,別の話題に移ったので,テレビを消して寝ました.
労働組合の役割,弊害,現代社会の位置づけはある程度理解しつつも,「45分-15分問題」に限定すると,Webで見かける情報では,2つほど視点が欠けているようでなりません.
一つは「VDT作業」です.
VDT作業としては,http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.htmlが最も基礎となる情報だと思います.これが改訂されたと聞いたことはありません.*1
上の「作業時間管理」が重要なのですが,表なので引用しにくいです.他のページを引用しておきます.

●単純入力型・拘束型の人は一般に自由裁量度が少なく疲労も大きいため、一連続作業時間は1時間を超えないようにする必要があります。また、1日の作業時間も他の作業とのローテーションを組むなどして、なるべく短くなるように配慮が必要です。
●技術型、対話型については作業者の自主的時間管理が重要ですが、きわめて長時間の作業となる場合が多いので管理監督者がその点を留意し指導することが必要です。

http://www.aogiri.org/data/data_vdt.html

さて「45分-15分問題」に立ち返ると,以下の点が指摘できます.

  • 不慣れな人はもちろん,慣れている人でも,業務*2として1時間もぶっ続けでパソコンに向かって作業をすると,目や手などに疲労が蓄積されていくでしょう.VDTガイドラインなどでは「1時間-10分」となっていますが,これを「45分-15分」と安全側に倒すことを,労働者を守る側が提案するのには,違和感を覚えません.
  • 88年に覚書が交わされた当時は,VDT作業や,それに対する労働衛生管理の概念はなかったと想像します.ただし,パソコン作業の労働者に及ぼす影響は,国外か海外か分かりませんが,当時から知られていて,労組が覚書として明記した根拠にしているのではないかとも推測します.当時の,パソコンを使用した勤務の状況(社保庁に限らず)やその対策について,文書化されているものをもっと調べれば明らかになるとは思いますが,いわば「先見の明」として,この協定を理解したいと考えます.

以上により,『窓口装置を連続操作する場合の1連続操作時間は45分以内とし、操作時間45分ごとに15分の操作しない時間を設ける』という覚書については---強調しますが,他の覚書内容や,労使のあり方などは無視して---この内容を支持したいです.
ここで,VDT作業という観点で,この問題を,自分の研究室に当てはめてみます.研究室で活動をする学生にとって,活動は業務ではなく,ノルマはない*3ので,マシンに向かう向かわないは自主性に委ねられていますが,しかし,彼らの健康を守る義務が指導教員にあるwe have a duty to keep the students' good healthと考えるからです.
といっても日常,難しいことはしていません.学生室に顔を出したとき,集中しすぎている学生がいれば,一声かけて,リラックスさせます*4.「まあ,根を詰めんようにな」と言うこともあります.
「45分-15分問題」の報道やブログ批評に欠けているものの2点目は,将来への見積もりの不在です.「45分-15分」協定を廃止したときに,「現場職員はどれだけ働けるのか,そしてどれだけの期間にどんな効果が挙げられそうか」が見積もられている情報が見当たりませんでした.ここでいう効果には,『自分の老後を委ねている納付者や受給者のみなさんの利益を守る』ことに関係するもの,平たく言うと「どれだけ,国民のためになるか?」はもちろんですが,社保庁内部*5の職場環境の改善につながるのかどうかも問われます.
これまた研究室運営に適用すると,「研究室での活動について,学生にどれだけの期間,負担をかけ,一方でどれだけの効果になりそうかを見積もった上で,学生にやってみるかと持ちかける」となります.私自身,研究室内のミーティングの中で,あるいはいわゆる一本釣りとして,学生に負担のかかる作業を依頼することがよくあります.作業期間と,その間に手間を要する他の作業や行事がないかは,常に確認するようにしています.

*1:本学部でも,VDT作業をする際の指導は,定期的に(半年に1回)行っています.私も,夏休みにシステム情報学センター主催の集中講義に関わるようになり,パソコンを触って1時間前後になるまでに,これの注意書きを読んでもらっています.

*2:趣味のプログラミングや,罵倒を目的としたあら捜しなら,何時間でもできる? それらと区別したいものです.

*3:発表日や論文締切といった「期限」はありますが.

*4:学生室のドアを私が開けた瞬間に,たいていの学生は,手を止めます.これも「小休止」になっているでしょう.

*5:私を含む「社保庁の外の人」は,社保庁内部のことだから,と無視するのではなく,自分は1日どれだけパソコンに向かっているかを見つめ直し,業務となると大変なのだろうなあとか,自分のパソコン時間を増やすこと/減らすことで日常生活がどう変わるかなあとか,思いをいたしたいものです.