わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

タイプA学習,タイプB学習

高校までの学習と,大学での学習の違いには違いがある,とよく言われます.
ある本で整理されていた情報をもとに,2種類の学習の考え方の違いを説明したいと思います.
高校までの学習を「タイプA」,大学で期待される学習を「タイプB」と呼ぶことにしましょう.
なお,ひとつ前提を置きたいと思います.すなわち,学習というのは,何らかの知識を得ることのほかに,何らかの技能を持つことも,含めることにします.コンピュータで,ショートカットキーを使って効率よく操作できる,というのは技能であり,これは学習の成果と言っていいでしょう.

タイプA学習とは

さて,まずは,タイプAの特徴を挙げていくことにします.タイプAでは,「自分にはできるか・分かるか」「知識や技能を活用することで,人から良く見られるか」に関心があります.
学習する際に起こる,不確かなこと,学習を阻むものは,「脅威」と解釈されます.
タイプAで,学習できたかを測る,評価方法は,「他人との比較」です.もうちょっと具体的に言うと,テストの点数です.1問の正解不正解では,学習できたかが十分に測れず,たいていは,数問から数十問の問題に解答して,それぞれの正解不正解,あるいは部分点を与えるなんてことがあって,その積み重ねによって,理解度としてのテストの点数が求められます.
なのですが,問題によって,十分に努力したのに50点しか取れなかっただとか,予備知識がなくても90点取れてしまうだとかいったことが起こり得ます.それを補正するため,他人との比較が入ります.有名なのは,偏差値ですね.
またその評価は,ペーパーテストの解答の結果として得られる,「短期的」,客観的それゆえに「硬直的」なものと言えます.
タイプAの学習において,教師は,正誤あるいは成否を判定する,「審判」となります.
最後に,タイプAの学習において,誤りは,単純に「失敗」であり,望ましくないこととされています.

タイプB学習とは

次にタイプBの学習はどんなもんかですが…こちらは,「どうすればできるか・分かるか」「その学習から何が身につくか」を重視します.
これに基づく学習では,不確かなこと,学習を阻むものは,当然起こるものであり,「意欲がそそられる」と解釈されます.
評価方法ですが,ペーパーテストは使いません.使えません.自分で,うまくいったか,いかなかったら何が悪かったかを,検討します.「内省」というのが適切でしょう.
そして,前に学んだことが生かせるかも,という考え方で,新しいことにどんどんチャレンジしていきますから,「長期的」なものであり,その適用状況に応じた「柔軟」なものとなります.
タイプBの学習において,教師はですね,「知識の供給源」と言えます.すなわち,自分で十分考えたり手を動かしたりして…ノートに書く,パソコンでタイプするだけでなく,辞書を引いたりGoogleで調べたりすることを含めるべきでしょうね…ここまでうまくいった,だけどここが何かおかしい,というときに,先生に報告・相談すれば,おかしそうな箇所を根拠付きで指摘してくれたり,これこれをキーワードに調べてみるとどうかなといった提案がもらえたりします.
最後に,タイプBの学習において,誤りは,「当然」であり,正しく理解・習得するためには「役に立つ」こととされています.

正解vs妥当解

あとですね,タイプAの学習において,正解はあらかじめ必ず一つ定められ,隠されていて,それを,それまでの知識や技能を活用して,効率よくその「正解」を見つけていこう,という側面があります.
一方,タイプBの学習に適しているのは,正解が一つでない状況です.正解が複数かも知れず,すべてを網羅することが求められるかもしれませんし,その中の一つを見つければ十分ということもあるかもしれません.正解が一つでない状況というのは他にも考えることができて,100%完璧な解を,だれもが作ることができないというものです.このときは,学習者の持つ知識や技能,もちろん外部にあるそれらも組み合わせたりしながら,現実的なリソースや時間のもとで,まあこれならいいんじゃないでしょうかという,「妥当解」を求めることを目指すものとなります.
「妥協解」ではありませんよ.

タイプA学習とタイプB学習は,水と油ではなく,重ね合わせ

ということで,もし皆さんのこれまでの学習,いや「学習観」が,正解を求めることを目指し,他人との比較や競争が常であり,教師はイコール審判であると思ってきた人は,それは一つの学習観,「タイプA学習」なんだと理解して,大学では「タイプB学習」というもう一つの学習に対する考え方,すなわち1個の正解ではなくむしろ妥当解を目指し,自分の中で知識・技能と成果を省み続け,教師を知識の供給源として活用するような活動スタイルがあるんだと思ってくれると,今ここでしゃべっている甲斐があったというものです.
とはいっても,大学の学習がすべてタイプBではないことは,付け加えないといけないでしょうね.普段の授業や,授業後の質問受け付けでは,僕は知識の供給源であり,すなわちタイプBの学習を支援する者ですが,レポートや試験の答案を書いてもらい,そこを評価する際には,審判という役割を演じます.レポートは期限から1日,いや1時間でも遅れたら,提出を受け付けない,というルールにしているのは,公平性を保ちたいからです.
他の観点についても,ある学習において,タイプAに近い要素があったり,タイプBに似た要素があったりします.
タイプA学習とタイプB学習は,水と油の関係,ではなく,学習においてどちらも起こり得るんだと思うのがいいでしょう.波のように,「重ね合わせ」ができるのです.

付記

「タイプA学習」とは,統計,速さ - わさっきで書いた,「遂行目標志向」のことであり,「タイプB学習」は,「学習目標志向」のことです.実のところ,そこのエントリで書いたことを膨らませて*1,授業中のトークの形式にしたのでした.
「タイプA」「タイプB」という表記から,http://www8.plala.or.jp/psychology/topic/typea.htmを想像する人もいるかもしれません.実際,名称については,この概念を参考にしました*2.ただし,タイプA学習が,タイプA行動パターンと重なるかというのは分かっていませんし,タイプA学習は,医学的観点に由来しないというのは,指摘しておきたいと思います.
(2008年10月30日: あちこち書き換えました.)

*1:正解と妥当解,重ね合わせについては,元の本にないオリジナルの要素です.ただし,本を見ると,遂行目標志向・学習目標志向には元ネタがあるそうで,そこまでは参照していませんが.

*2:個人的に,「タイプA」「タイプB」の概念は,大学生のときの英語の教材で知りました.