- 作者: 志水宏吉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/01/09
- メディア: 単行本
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ここで,全国学力テストの実施を正当化する論理として語られているものを整理したい.さまざまな議論をまとめると,おおむね次の四つの「理由」を,そこに認めることができる.
1 全国の学力水準・格差の実態を把握し,成果と課題を取り出す.
2 子どもたちの学習の進歩を捉え,指導の改善に役立てる.
3 教育成果の中心的なものである学力の状況を,市民に目に見える形で伝える.
4 テスト結果をめぐる競争によって,全体の学力向上を図る.
ここでは,1を〈実態把握〉の視点,2を〈教育評価〉の視点,3を〈説明責任〉の視点,そして4を〈競争主義〉の視点と名づけておきたい.(略)
(p.61.なお本文中の丸囲み数字は算用数字にしている.)
本日はこの紹介だけで終わってもいいくらいなのですが,各項目について,著者と私の評価を比較を試みることにします.
各項目の著者評価は,数ページ続くのですが,結論だけまた引用します.
先に述べてきたように,筆者自身は,最初の〈実態把握〉の視点が最も大切で,三番目の〈説明責任〉の視点がそれに次ぐ意味を有していると考えている.他方,二番目の〈教育評価〉の視点を生かすためには全国悉皆調査である必要はない,というか全国調査でない方がむしろよい.そして,四番目の〈競争主義〉の視点は明らかに適切ではなく,有害ですらあると言いたい.
(p.67)
私はというと,むしろ一番目の〈実態把握〉こそ全国悉皆調査である必要はなく,数%の抽出調査*1のほうが,コストパフォーマンスの面でより適切ではないかと考えます.なお,『実施した二年分の全国悉皆調査のデータを徹底的に分析すること』(p.68)については賛同します.
その反面,二番目の〈教育評価〉が,4項目の中では*2,全国悉皆調査を行うべき理由としてふさわしいと考えます.小学校なり中学校なりに入学してから,何を学び考え活動し身についたかを,全国共通のA問題・B問題で確認しようということです.「確認」するのは,児童生徒,教師と学校,もう少し広げても教育委員会までです.
三番目の〈説明責任〉が機能するためには,条件をつけたいところです.平成21年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領 別紙 p.5に書いている,
エ 調査結果の公表にあたっては,本調査の目的や,調査結果が学力の特定の一部分であることなどを明示すること。
です*3.この明示がない報告は論外と考えます.当然,「学力の特定の一部分である」と書くだけというのも,逃げ口上にすぎないでしょう.分析結果や公表内容が,学力に関して何を意味するのか,その説明が添えられていてはじめて,きちんと読もうかとなります.
ちょっとだけ自分の専門になぞらえて言うと,数値だけ出す全国学力テストの公表は,コメントの一切ないソースコードや,設計方針などの説明のない実体関連ダイアグラムのようなものです.
なお,説明責任についても,抽出調査ではできないのかの検討が不可欠です.
四番目の〈競争主義〉は,私も著者に同意で,益するものはないと考えます.