わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

ドクターコース学生の心理

先週,アスターはバーバラをオフィスに呼んで,とりとめのない話をしたあげく,バーバラは科学研究に生きるタイプの人間ではないのではないかという趣旨のことを言った.「ある種の女性は,家庭に入って子供を持つ方が幸せになれるのよ.バーバラ,あなたもそちらの部類の人なのではないかしら?」というアスターの言葉にバーバラはショックを受け,すっかり狼狽してしまった.私にこの話を打ち明けているときにも,彼女が取り乱し,感情に圧倒されそうになってくるのが見てとれた.
(ラボ・ダイナミクス―理系人間のためのコミュニケーションスキル, p.125)

登場人物は以下のとおり.いくつか日本式にアレンジしています.

  • バーバラ:ドクターコース学生.既婚女性.
  • アスター:大学教員.女性.バーバラの主指導教員として1年半.
  • 私:大学教員.男性(p.126のイラストから察するに).バーバラの副指導教員.

もう一つ背景があって,それは研究にかける時間についてです.教員のアスターは,学生・ポスドクは「1日12〜18時間」「週6〜7日」研究に当たるのが当然という見方.一方,学生のバーバラは「研究室の外の生活も大切」で,そのため「自分で合理的と思う時間にしか研究に割いていなかった」,という違いがあります.
ストーリーとしては,「私」の

アスターはおそらくストレスでいらだっていたのだろう.彼女の言葉を真に受けてはいけない.私は君の論文審査委員会のメンバーだから,君の研究が,アスターの希望ほどではないかもしれないが,着実に進んでいることは知っている.君は,1週間以内にもう一度アスターのところへ行き,前回の話の続きをしたいと申し出るんだ.そして,自分と定期的に面会して,もっとアドバイスをしてほしいと頼むといい.自分が長い間このプロジェクトに打ち込んでいて,研究を完成させる意思があることを,はっきりと言わないといけないよ」
(p.127)

というアドバイスにより,指導教員を替えることなく,その1年半後に学位論文を書き上げた,というハッピーエンドになっています.
『ラボ・ダイナミクス』は大学生協で見かけ,のちにAmazonで購入して,一つひとつのエピソードやアドバイスに感銘を覚えました.
想定する読者は大学教員や研究者ですが,大学2〜3年のうちから就職活動の本を読み,キャリアについての考え方を持っておくのが効果的であるように,教員あるいは研究者としての地位の確立を目指すドクターコースの学生が,研究の息抜きとして読んで,研究室の運営や,大学教員の抱えているもの,そして研究者の卵である自分が認識しておくべきことを広く知るのにも,非常にいい本です.
私がこの本から学んだことは,すぐ上と重複しますが,以下の点です.

  • 冷静に,自分というものを理解すること.
  • トラブルに関係する,自分の周囲の人に,どんな背景事情があるかを理解すること.
  • トラブルが二者間で解決できないと思ったら,適切な第三者に相談すること.相談できる人を持っておくこと.

加えて,自分の経験をもとにアドバイスできそうなことを.

  • ドクターコースの研究活動は孤独にならざるを得ない*1.孤独を楽しみ,孤独を論文執筆の糧とすること.孤独になりがちな学生(あなた)を理解し,適宜アドバイスがもらえる指導教員を,主副問わず最低1人持つこと.
  • ドクターコースは学生の階層としては「てっぺん」だが,研究者の階層としては「ぺーぺー」である.謙虚さを忘れずに.

*1:特にコースドクターの場合,学部から合わせて6年間,仲良くしていた友人が,修士を得て去ってしまい,研究室の下の学年とは心から打ち解けて仲良くするのがなんとなくできない,となりがちです.