わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

新語,書き換え,教育格差

3冊の新書を,いつものようにつまみ食いレビュー.

新語

みんなで国語辞典2 あふれる新語

みんなで国語辞典2 あふれる新語

大部分の「新語」は,初めて知りました.しかし自ら使うことも,また幸いにして耳にすることもありません.
ともあれ一番びっくりしたのは:

【パ】
「中途半端」の略.人に対して批判的に使われることが多い.「おまえパじゃん」
本書にも【きよぶた】(略),【ときとば】(略)を載せていますが,これを超える省略語はありません.
※第一回「もっと明鏡」大賞の応募作品より
(p.39)

あと,「シクる」は,小学校か中学校のころから,使っていましたね.「しくじる」の意味で.
今はsecretが語源で「秘密にする」という意味になっているんですか(p.48).

スッキリしない書き換え

全体として良書です.読み手に配慮した表現を追求するというのは,『論理的にプレゼンする技術 聴き手の記憶に残る話し方の極意 (サイエンス・アイ新書)』と重なるところがあります.

たとえば,次の例を見ていただきたい.ある新聞からの抜すいの文章だが,じっくり考えながら読まなければ,意味が通じないのがわかるだろう.
(略)
教育の質を保つことを目的に10年に1度の講習,試験を課す教育免許更新制で,今年4月のスタートを前に昨年度,130の大学などで試験的に予備講習が行われ,延べ4万5000人の教員が受講し,このうち同248人(0.55%)が不合格とされたことが20日文部科学省のまとめで分かった.
(略) 新聞記事としては合格でも,わかりやすい説明文としては失格になる.
要領のよい説明文にするなら,情報量を削る他ないわけで,そうすれば,次のようにスッキリするのである.
(略)
教育の質を保つことを目的とした教育免許更新制が4月にスタートするが,これを前に昨年度試験的に行われた予備講習では,4万5000人が受講し,248人(0.55%)が不合格だったと文部科学省20日発表した.
(pp.73-74)

書き換え後のほうがスッキリするかというと,必ずしもそうは思えません.『スタートするが』の“が”が,順接なのか逆説なのか,曖昧なのです.読む際のリズムとしても,『教育免許更新制“が”4月にスタートする“が”』と,意味の異なる“が”が並ぶのは,どうも親しめません.
自分なりに書き換えてみました.

教育免許更新制の予備講習の状況について20日文部科学省が発表した.それによると,延べ4万5000人が受講し,248人(0.55%)が不合格とされた.教育の質を保つことを目的とした教育免許更新制が4月にスタートする.予備講習は,これを前に昨年度,試験的に行われた.

教育格差

新しい「教育格差」 (講談社現代新書)

新しい「教育格差」 (講談社現代新書)

この本で一番「引き込まれた」のは,第四章のいじめ事例です.

父親は子どもたちを前にしてこう言った.
「みんな,自分たちがどんなにひどいことをしたか,わかっているよね? 自分の子は自分の分身だから,本当に可愛い.みんなのお父さんやお母さんだって,私と同じ気持ちだよ.だから,そんなに可愛い子が,みんなによってたかって蹴られた,なんて姿を想像するだけで,気が狂いそうになるほど辛いんだ.
(p.114)

校内で,いじめ(野球部での集団暴力行為)に関与した生徒とその親,先生方(校長,副校長,保健体育の女性教師,生活指導の教師,部活動の顧問)が一堂に会したところの一節です.各キャラの書き分けが明瞭になされています.
その後と著者の所感は:

(略)もう「出来上がってしまった」教師をある意味更生させる,というのは容易ではないと思う.しかし,T先生がどうしてこんな無責任な行動をとってしまったのか,という根本的な部分をはっきりさせなければ,問題は何も解決しないだろう.今回のような暴力行為によるいじめが起こり,保護者が教育委員会に乗り込んでいかなければ,学校も教育委員会も教師の指導ができないのか.先生のモラルや資質によって教育の格差が広がるようでは困る.(略)
(pp.120-121)

そこにインパクトがあったためか,この第四章を除けば,人にお勧めしたいと思うものはほとんどありませんでした.
公立中高一貫校の適性検査が,PISAの試験問題と類似している件(pp.20-21)は初めて知りましたが,その一方で大学入試を「テクニック」(p.48)とする旧態依然ぶりは,大学に身を置いている者として,残念な思いです.
国学力テストについて,第二章のはじめと,終章で言及がなされています.序章がないのに終章というのは不自然ですし,第一章から第六章までで述べてきたことが,この終章に集約されるようにも見えません.さらに,終章タイトルに「全国学力テストの歴史をひもとく」とあるものの,本文はわずか,文献も2つで,「ひもとく」は言い過ぎでしょう.
全体として,子どもたちにどのような問いを与え,答えさせ,成長させていくのかという視点が弱いように思えました.むしろ,授業や学校生活より前のところについて,先生方だけでなく,社会や制度に「教育格差」が生じていて,そこに焦点を当てた,ということでしょうか.