わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

1年目

幼稚園の先生になることを夢見て大学で学び,晴れて幼稚園教諭普通免許状を取得して幼稚園に就職したのに,一年も経たずに辞めてしまう無責任きわまりない大学卒業生が増えているそうだ.辞める理由は,「幼稚園の先生がこんなに大変だなんて知りませんでした」ということらしい.また,そのような卒業生を輩出している大学は,幼稚園からのクレームに対して,「すみません.最近の学生は我慢ができなくって」と回答するらしい.ふざけるなと言いたいところだが,未熟な学生に免許状を与えているのは国が定めた制度である.現在の教員養成は制度的に破綻しているということを認めないといけない.
まず明らかに問題なのは,仕事の内容を全く把握せずに,妄想だけで教育職に就いているという事実だ.教員として為すべき責務を理解し,自分に適正があるかどうかを見極める機会を提供するために,長期教育実習が必要なのではないだろうか.(略)

まともな教員を養成できなくなっている大学: 長期教育実習の必要性 | Chase Your Dream !

正面切って反論できるだけの情報は持っていない.ただ,1年目で苦労し,幸いにも乗り越え,(本人から聞く限り)信頼される先生になっていったという人物を知っている.人物を特定されないよう配慮しつつ,聞いたことを書いておきたい.
彼女は公立小学校の教諭である.教員採用試験に受かるまでにかなり苦労をしたらしいが,本日の話にはあまり影響しないだろう.彼女の祖父と母もまた,小学校教諭だった.祖父は校長まで勤め上げた.彼女が採用試験に受かったのを見届けるかのように,この世を去った.なので私自身は面識がない.ってのはどうでもいいか.
彼女から聞く,小学校の先生としての祖父や母の姿については,良くない話ばかりが耳に残っている.祖父が校長をしていた学校で,児童が列車事故に巻き込まれたときには,親御さんの代わりに,現場で体の一部を回収していったという.兵役の経験がものを言ったのだとか.ここで,そういうのは救急や警察のすることじゃないのかと突っ込んではいけない.次に,彼女の母は,働き者である.「産前産後」8週とか6週とかいったルールがあって,詳しくはwikipedia:産前産後休業を見てほしいのだが,要は,彼女を産むに当たって最小限の期間だけ休み,あとは勤務していたという.それだけだと,自分の子供はほったらかしかいという突っ込みがあるだろうから,もう少し書いておくと,担任する児童にも,一人っ子である彼女にも,親類・ご近所の「お子さん」にも深い愛情を持って接している.それは,卒業生から頻繁に手紙が来る(と彼女が自慢する)ことや,彼女の家の倉庫(通常入らないところ)の中の,一番良いところに,おそらく小学校に入学する前の彼女をだっこしている彼女の母の写真が額に収められていることから,うかがい知ることができる.
さて彼女を中心にしよう.教員採用試験に合格するのに,そういった彼女の祖父や母が影響していた…コネがあったか…については,試験の内情を知らないので,分からないとしか言いようがない.しかし,赴任する小学校が決まってからの勤務は,家族血縁とは一切無関係である.大学の教育学部で学んだことも,アテにならなかったと言う(大学・大学院で学んだことがそのまま使える大学教員と違うのは,自戒せねばならない).現場第一である.
彼女から何度も聞いた.赴任した最初の年から,クラスの担任を務めたこと.その中で,ある児童のお母さんに執拗に攻撃されたこと.未熟者と強く罵られたこと.自分は悪くないと言い,そう表明することがいわば火に油を注いでしまったこと.意思に反して,主任の先生と謝りに行ったこと.幸いにも,学年の終わるときには,そのお母さんとの間で信頼関係が得られたこと.
それよりひどい,つらい経験は,したことがないという.これは書き残す妥当性が十分にあるのか分からないが,ともあれ書いておくと,あるときの担任で,要注意の児童がいたという.悪いことをしたらその都度叱り,また正式名称は忘れたが記録に残して,次の年度へ申し送りをした.翌年はその児童を担任しなかったが,そうすると,その子を中心として学級崩壊が起こったとのこと.彼女の性格や,仕事ぶり(直接見たわけではないが)から推測するに,学級崩壊のモトは,彼女が担任していたときからあったと思う.彼女は,そうならないよう,十分に配慮をして防いでいたのだろう.
彼女が小学校教諭として成功したのは,1年目を上手く乗り越えられたからである.そこには,上述の主任の先生の理解や指導と,勤務校のサポートがあったからこそだろう.
逆に,こういうシナリオはどうだろうか.校長から見ると,ある新任教諭を受け入れることになった.教採の成績は非常に良く,早いうちに経験を積ませれば素晴らしい教諭になってくれそうだ.チャレンジングなクラスを担任してもらおう.ベテランの主任に,サポートしてもらおう.
それで赴任した方からすると,4年で卒業して,早速担任になったものの,主任の先生の言っていることがよく分からない.じっくり対話をしたり検討をしたりする時間はなく,授業や各種学校行事を消化していると,些細なことで,一人の保護者からクレームが来た.あとはいくらでも悪い話はできる.そこで教育に絶望し,辞表を提出する先生がいたとして,無責任と非難してよいのだろうか.私には,できない.
ここまで書いた話にはフィクションが含まれているので,教員養成の現状を十分にご存知な,冒頭のエントリの作者様には,納得されない点が多々あるだろう.それでも,書く.
教職に嫌気をさして辞める,一番大きな理由は,無責任だからではない.新任で,校務が分かっていないからでもない.
つらい状況に直面したとき,それを乗り越えるためサポート体制が存在しないから,あったとしても本人の視界に入っていないからである.
そういうサポートの存在を「見える化」するのは誰かというと,第一には勤務校であるが,教員を養成する大学も理解し注力しつつあるのだろうし,そして,教員養成に必ずしも関わらない,大学教員や,ある程度の実務その他の経験を積んだ者であっても,いいのではないか.
サポートについて,かつて書いたこと:

(同日8時過ぎにタイトルを変更しました.)