- 作者: 宮崎市定
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2003/02/25
- メディア: 文庫
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科挙とは…
中国の政治思想によると天子なるものは天から委任を受けて,天下の人民を統治する義務を負わされたものである.
しかし天下は広く人民は多いから,とうてい一人で統治することはできない.いきおい人民のなかから助手を求めて,その仕事の一部を分担させざるをえない.それがすなわち官吏であり,官吏の良し悪しは政治上に影響すること重大であるから,人民のなかの最も賢明なものを登用しなければならない.それがためには万人のなかから公平に人物を採用する試験制度こそ最良の手段だ.こうして科挙が始まったのである.
これは実にすぐれたアイディアである.そしてこの科挙制度の成立したのが,いまから一四〇〇年ほど前の五八七年だということは,驚くべき事実である.
(p.13)
ちなみに最後の科挙は1904年(p.17)とのこと.千年以上にもわたる,選抜制度の歴史ということです*2.
科挙は試験一発なのかというとそうではなく,清朝末期の19世紀後半だと,学校試(県試,府試,院試,歳試)と科挙試(科試,郷試,挙人覆試,会試,会試覆試,殿試,朝考)に分かれ,順に受験していったとのこと.それぞれの具体的な実施方法を,本日のエントリで紹介するのは難しいのですが,いくつか興味深い記述を抜き出してみますと…
- 四書五経は合計431,286字(p.26)
- 入試願書に「鬚の有無」(p.32)
- 試験の途中で「印判」が押されて答案作成の状況が残る(pp.35-36)
- 「聖諭広訓」一六条のうち指定された一条を間違いなく書くこと(p.40)
- 現在・過去の天子の名前がついた文字を書いてはいけない(p.41) *3
- 不正行為の印(10種類)(pp.50-52)
- 郷試は小部屋で2泊3日(pp.74-75)
- 郷試でお化け:答案に女子の靴の絵(p.87)
- 試験の不正で大臣クラスが死刑(pp.114-117)
- 合格者・不合格者の答案はどうなるか(pp.118-119)
- 殿試の問題・解答の形式(pp.143-147)
- 進士=ドクター(p.158) *4
- 会試の一番は天下第一の文才,殿試の一番は天下第一の幸福者(p.185)
- 「武」の入試は武科挙(pp.189-195)
- 貴族政治から官僚政治へ(pp.202-206)
- 科挙は近代教育の妨げ(pp.226-227)
- 魯迅『孔乙己』(pp.228-230)
この本を手にしたことと,全国学力テストについて,全く関係がなかったわけではありませんでした.受験者共通の試験問題というのはどうあるべきか,また実施に関してどのような弊害・限界があるかについて,学ぶことはできたと思いますが,一人当たり何度も行われるという選抜制度である科挙と,小6・中3のちょうど2回だけ受けて今後の学習に生かすことを建前とする全国学力テストとは,重なるところが少ないのもまた事実でしょう.