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式に単位をつけるとバツになる?

(2)それとも計算されるのはあくまで「数」であって,「量」には独自の「演算」など考えられないというのでしょうか? どうも教科書など見ても,日本の算数教育では伝統的にそう考えてきたようです.その証拠に,低学年の加減の段階や単位の換算などでは単位をつけていますが(そうしないと,わけのわからないことになりますから),中学年の面積教材あたりからは,量にも単位をつけなくなってしまいます.そのため中には単位をつけるとバツをつける先生や学校もあるくらいです.
それでは子どもは,数の計算をしているのか,それとも量の「演算」をしているのかわからなくなってしまいます.もっとも,文科省の方,教科書執筆者たち,それに現場の教師の方も,計算されるのはあくまで「数」であって,結果の答えを書くときに発問に合わせて,適当な単位をつけておけばよいと考えているふしがあります.
(3)しかし,これは完全に誤った考え方です.
(『いろいろな量 (子どもを賢くする-よくわかる算数の授業 )』, p.133)

銀林浩氏の解説の一節です.エントリのタイトルは,そのページの最初の小見出しを改変したものです.
その後は単位や外延量・内包量に関する検討が書かれており,様々な助数詞の例(p.141),存在型と位差型の提唱(p.145)には,さすが専門家と,思いを深くしました*1.なお,時間と時刻差については過去に,アドレス演算と時間演算というエントリで検討したことがあります.
それはそれとしてその一方で,この解説には納得のいかない点がいくつかあります.まず,無単位の量がまったく出てこない点です.例えば

  • 80円の25%は,何円になりますか

という問題において*2,単位なしなら「80×(25÷100)=(略)=20」とし,答えは20円となるでしょう.「(略)」としたのは,割り算,かけ算の順に計算して答えを出す方法もありますし,分数の式にして約分するという方法も考えられるからです.
一方,単位ありの場合,「80円×(25%÷100%)」と書いたあと,悩むことになります.割り算を先にする方法だと,「80円×0.25」となり,一方に単位があってもう一方にないのは,正しい式なのか不安ですし,その次に,何を根拠として答えの単位を「円」とするのかでまた,困るわけです.分数の式にした場合,単位も約分できると,教えるのでしょうか?
次の疑問点は,これまで当雑記で書いてきた,立式におけるいくつかの不安要素に対して,答えが得られなかった点です.式に単位を書かせるべきか(2)式に単位を書かせるべきか(3)机のかけ算をもとに,不安要素を書き直してみます.問題解決をするのが,blogger,現場教師,そして児童のいずれであっても,理解可能な説明*3を期待したいのですが.

  • 5枚の皿に3個ずつりんごを置く問題で,かけ算だと「3個/枚×5枚=15個」となるのに足し算(累加)だと「3個+3個+3個+3個+3個=15個」となる.「3個/枚」と「3個」の違いや,立式への適用を,どのように考えればいいのか?
  • 3行5列に並べた机の総数に関して,どのような単位を付けた乗算式を書けばいいのか? 「何のいくつ分」(「何の何倍」ではなく)を根拠とした立式ができるか? 隠された単位を,どのようにして見つけるべきか?

それから,wikipedia:単位の換算の「換算ルールの紛らわしい点」の中で,『L[km]=L[m]/1000』とあって,ちょっとびっくりさせられます.この式の意味を理解できるようになるのは,高校の物理を学び,文字による立式が当たり前になるころかなとも感じますが,厄介さの一面を表している例だと,思います.
 
「かけ算の順序を巡る論争」と別に,「式に単位を書くべきかの論争」というのを考えることができそうです.論者はさらに減りそうですが.
私自身はいずれも保守的といいますか,「かけ算に順序があるとすること」「数式に単位を書かないこと」が,問題の記述や,解を得るための処理(計算),そして結局のところ,問題解決に有用であるという立場です.
とはいえ,賛成・反対で言うと,このケースでも「単位付きの式をバツにしてよい」であり,「単位付きの式がマルになることを許容する」を含みます.もちろん,授業でどのように教えているかに依存します.私の授業で単位付きの式が出ることはまずありませんが,Cプログラミングの試験で「int iを作る」という答案を見つけたときには,ぎょっとしたものです.
言ってみれば,自分の経験そして信念によるところが大きいわけです.とはいうものの,「かけ算に順序がない」「式に単位をつけるべきである」として,日本の小学校教育で指導することを想定したときに,少し考えれば出てくる疑問点に対して,私にも学校の先生にもなるほどと思わせる解説が見当たらない点も,理由として挙げられそうです.

(2020年9月追記)
「かけ算の順序」関連のブログ記事は,サブブログ(かけ算の順序の昔話)で不定期に投稿しています。本記事の内容に関して,SchwarzやKaputといった海外の文献,また『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』を踏まえた記事がございますので,どうぞご覧ください.

2020年に出版された算数授業の本の中に,「たて3まい×よこ2まい」という,式に単位を含む板書例があるのを把握しています.

*1:そんな中で野暮な突っ込みですが,助数詞が単漢字ばかりなのは残念です.私の読み書き聞き話す範囲では「セット」「パターン」が助数詞になり得ます.漢字にするなら「式」「種(または種類)」でしょうか.いずれもリストに見当たりません.こういうのは,児童に宿題として,たくさん探させるのがいいのでしょうかね.

*2:小学校学習指導要領解説 算数編(2)によると,百分率や%は,第五学年のpp.188-189にのみ出現し,これを用いた計算例は書かれていません.したがって小学校の学習範囲を超えている可能性はありますが,そのことはここでの議論に影響しません.

*3:各主体に対して異なる語彙や論理であること,結局のところそれぞれに対して異なる説明の仕方であることは,差し支えありません.