わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

立式,線密度

いきなりですが問題です.

小学校の算数教育を議論する上で,「立式」「線密度」という言葉は,使用していいのでしょうか?

あとでノイズを入れますが,基本的には教育の話ではなく情報検索・情報獲得の話を書いていきます.あと,goo辞書には「立式」は見当たらず,「線密度」は載っています.
さて「立式」については,当雑記では何度も参照しているhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdfに書かれています.ダウンロードして,Adobe Readerか何かで開き,検索フォームを見つけて「立式」を書いてEnterキーを押すだけで,出てきます.

第3学年では,未知の数量を□などの記号を用いて表現することにより,文脈通りに数量の関係を立式し,□に当てはまる数を調べることができるようにする。
□などの記号については,未知の数量を表す記号として用いる場合と変量を表す記号として用いる場合とに大きく分けられる。第3学年では,未知の数量を表す記号として用いる場合を中心に指導し,□などの記号を用いて立式したり,図に表すことと関連付けたりして,数量の関係を的確にとらえることができるようにする。
(p.128)

第4学年では,数量の関係を式に表したり,式を読み取ったりする力を伸ばすとともに,計算の順序についてのきまりなどを理解し,適切に式を用いることができるようにすること,さらに,既習の式と,具体的な場面での立式などを基に,公式についての考え方を身に付けさせることをねらいとしている。
(p.157)

「やったあ,見つかった」と満足してはいけません.この記述からいくつかのことが読み取れます.

  • 「立式」はいわゆるサ変名詞であり,名詞としてだけでなく「立式し」「立式したり」のように動詞としても使用できる.
  • 「式」「立式」「公式」が区別して使われている.

後者のうち,「式」についてですが,equationもしくはequalityの意味かと思いきや,それより広いexpressionの意味ととらえることもできます.expressionは,プログラミングや情報科学でよく用いられる意味の「式」で,必ずしも等号・不等号は入っていません.equationは「方程式」,equalityは「等式」と訳されます.Merriam-Webster Onlineでequationを引くと,"2 a : a usually formal statement of the equality or equivalence of mathematical or logical expressions"とあり,expressionのうち限定されたものだと読み取れます.同じくequalityを引くと,equationの上記定義を参照するようにと書かれています.
そのように,式の対象に注意した上で,「立式」については,式を立てることという意味で考えていいでしょう.例の《問い》において,「3×5」の箇所を式とするケースもあれば,「3×5=15」を式としたいときも*1,あるわけです.まあ,大人の議論ですが.
formulaは「公式」です.M以下同様では,定義の中にexpressionやexpressが出現し,関連語であることが確認できます.「公式」の概念を理解させるまでは,公式に見えるものも「式」とする…のかなと思って「公式」を探すと,最初に出現するのはp.147の,長方形の面積を求めるところです.
ノイズです.「立式」「線密度」については,ネタメモに長いこと入っていたのですが,思い出させたのはhttp://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/LaTeX/20101123Kakezan.html#tsuiki20110225aです.『正しい式の立て方がひとつに決まっている』については気のせいでしょうし,それを打破したいのなら,すでに採点Q&Aの後半に,方針・事例を挙げています*2.出題の是非については,「2m34cm」といった単位付きの立式や加減算が,2年生の算数の学習において妥当なのか気になるので保留.問題文から何を読み取って式にすればいいかについては,分水嶺何か複雑なことをしているな壊れたスピーカー*3を連想しました.ノイズ終わり.
次に「線密度」ですが,学習指導要領解説に立ち返り,そのまま検索しても,出現しません.文字を削って「密度」で探すと,人口密度に関するものばかりです*4
しょうがないので検索に頼らず,しっかり読んでいきます.割合のところにあるかなと,p.166やp.169の図と周辺の説明を読んだものの*5,線密度というにはギャップがあります.
読み進めていくと,p.195で,線密度を使った例題が出てきました.第6学年です.2問とも,1mの重さすなわち1当たり量が分かっているとして,他の長さのときの重量を,分数のかけ算で求めるというものです.
そうすると次に,線密度を求める問題を出していいのか,いいとすればどこの時点かという疑問が生まれます.線密度ではありませんが,『2.5メートルで200円の布は,1メートルではいくらになるか』という例題がp.167(第5学年)にあり,この数量(単位を含む)や物品を変更することで,線密度という言葉を使うことなく,答えさせることは可能なようです.ノイズとして,「2.5メートルで20kgの鉄パイプは,1メートルで何kgになるか」を,単位付きで式にすると,20kg÷2.5m×1m=8kgとなり,答えは「8kg」が自然です.変なものが入っているので取り除こうとすると,20kg÷2.5m=8kg/mとなり,答えに「1メートルで8kg」と書くことが許されるかどうかは,単位付きの式をどこまで認めるかによります.ノイズ終わり.
まとめ.

  • 「立式」は,辞書になく,学習指導要領の解説には書かれている言葉です.一般的でないと感じたら,「自分は使わないが,他の人が使うのは問題ない」とするのが良さそうです.
  • 「線密度」は,辞書にあり,学習指導要領の解説には書かれていない言葉です.(大人同士の)議論の対象として使うのはいいのですが,小学校の指導では要注意です.学外であれば,大人目線で「線密度って言うてな…」と言うのは,いいかもしれません.

そして,短時間で欲しい情報を得るには,

  • コンピュータによる検索が可能なら,検索を活用しましょう.
  • 見つからなかったとき,文字を減らしたり,関連語で検索してみたりしましょう.
  • それでも見つからなかったら,見当をつけて読み進めましょう.
  • 辞書など他の参照物や,前提となる知識,自分の経験*6,そしてこれまでに手がけてきたモノも,活用しましょう.
  • 見つけたら,あとで(あなただけでなく他の人も)引いて確認できるよう,ページ番号などを記録しましょう.
  • ふだんから,いろいろな文章を読む習慣をつけましょう.RPGで学者が本を多く持つところで生活しているのは,いろいろな書を読み,また引ける状態にしておいて,相談があればすぐ答えを引き出せるようにしているからです.
  • 一つの長い情報から,自分なりに面白いことに気づいたら,整理して公表しましょう!

(リリース直後に,エントリのタイトルを「短時間で欲しい情報を得るには」から「立式,線密度」に変更しました.)

*1:どのようにして「15」を出すか,あるいは,「15」とだけ書くのでいいのかについては,学習・指導を通じて,児童と先生との間に共通認識があるということなのでしょう.

*2:私が書いたのは「答案を見てから正解の集合を考える」,小学校の先生方なら「正解の集合を準備・予習した上で授業をする」になりそう,という違いがあります.

*3:保留といいつつも事例に立ち入ると,最終的には一人で問題解決をしていかないといけないのですが,縄跳びの長さの出題を通じて,一人一つずつ答えを持ち寄り,クラス内で比較検討して,どの式は良くてどの式が良くないかを判断している,という構図であるように思います.

*4:1箇所だけ「人口」のつかない「密度」がありますが,文脈から,「人口」を省略しただけと考えるべきでしょう.

*5:立式と計算を区別しているなあとか,「〜したり〜する」ではなく「〜したり〜したり」が徹底しているなあとか.

*6:上の展開になった理由,というか裏事情として,学習指導要領解説は例題が多いのを事前に知っていた点が挙げられます.