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1993年の「かけ算とわり算」指導法

かけ算とわり算 (わかって楽しい算数教室 1)

かけ算とわり算 (わかって楽しい算数教室 1)

また,Amazonマーケットプレイスで購入しました.著者名は初めて知りました.本文中にタイル図を使った解説があるので,数学教育協議会の影響はありそうです.google:関沢正躬+数学教育協議会で調べると,『教師のための数学入門 (現代教育101選)』のforeword*1を書いていることや,銀林浩氏との共著も知りました.
言葉は,小学生が読んでも分かるよう,自分なら漢字で書きたいところがかなり,ひらがなになっています.とはいっても,単位の分数式による表記*2や,単位は別として分数式で分母分子が打ち消せることを知るのは,だいぶ上の学年ですので,小学校2〜3年生向けの本ではなく,高学年のお兄ちゃんお姉ちゃんもしくは中学生以上の人が,かけ算やわり算を学び始めた子に教えるのによさそうです.小学校の算数を学び終えた人向けの自習書にも,適していると思います.
個人的な関心で,細かいところを見ていきます.

  • 文章題に対する式には,原則として単位を付けています.単位の考え方や扱いは,p.12, pp.14-15, pp.45-47から把握することができます.計算問題は,もちろん,単位なしです.
  • かけ算に順序があることを前提とした内容です.具体例に対するいくつかの立式のあと,p.19で『(1あたりの数)×(いくつ分)=(全体の数)』として公式化されています.p.20の問題とp.89の答え,「かける0」と「0をかける」を別々に説明していてその式からも,順序への配慮を知ることができます.ただし直接的に,「b×aは間違い」といった書き方はしていません.
  • 交換法則が一切出てきません.トランプ配りは,p.46の図で,6個の貝を3人に分けるという例で出現します.
  • 2桁の整数×1桁の整数の筆算だけでなく,1桁の整数×2桁の整数の筆算というのも現れます(例えばp.39).そこでも,逆にして計算しても同じ値になるだとかいった確認は,見られません.

ただ,6冊シリーズの1番目であることを差し引いても,少々物足りなさがあります.あとがきで,その事情を知ることができました.

かけ算には,次に示す3つの意味があります.
  (単位あたりの量)×(いくら分)=(全体量)
  (長さ)×(長さ)=(面積)
  (基準量)×(倍率)=(拡大量)
この本では,このうちの第1の意味だけをつかいます.しかもそれを,ひとつ,ふたつと数える分離量にだけ適用して,計算のしかたを説明します.(略)
わり算はかけ算の逆ですから,かけ算の3つの意味に対応して,次の5つの意味があります.
  (全体量)÷(いくら分)=(単位あたりの量),(全体量)÷(単位あたりの量)=(いくら分)
  (面積)÷(長さ)=(長さ)
  (拡大量)÷(基準量)=(倍率),(拡大量)÷(倍率)=(基準量)
この本では,かけ算に呼応して,わり算を説明しますから,これらの3つの意味のうち,第1の意味だけを,わり算の意味としてつかいます.もしも,わり算がかけ算の逆の演算であることを強調するなら,第2の意味を説明するべきである,ということになります.しかし,単位あたりの量でわって,いくら分を求めるというこのわり算(これを「包含除」といいます)を,等分割としてのわり算と同時に教えると,子どもが混乱することが知られています.したがって,これは,この本と学ぶわり算ときりはなして(略)
上に示した3つの型のかけ算のうち,倍率をかけるかけ算(つまり「倍」)は,拡大あるいは縮小という言葉が示すように,かけてできる量の単位は,かけられる量の単位と同じです.しかし,そのほかのかけ算では,かけられる量の単位とかけてできる量の単位は異なります.このように,かけ算は新しい量をつくりますから,一般に,わり算も新しい量をつくります.かけ算とわり算の本質は,新しい量をつくるところにあります.「倍」という単位はむしろ特殊なものです.
ところで,たし算は新しい量をつくる演算ではありませんから,「かけ算は同じ数をいくつもたすことの略記である」と定めると,的がはずれてしまい,本質を見失うことがあります.(略) この本では,それをさけて,かけ算の本質をとらえます.したがって,かけ算は同じ数をいくつもたすことであるとは説明しません.
(pp.93-94)

何か所かある「(略)」のうち,はじめの2つは,同じシリーズの他の本の紹介,最後のは計算例が書かれています.
累加を採らないことから,前々から当雑記で書いていた問題意識の一つ,「3個/枚×5枚=3個+3個+3個+3個+3個」の単位変換の悩みは回避できます.
ここのあとがきから,著者は小学校における「かけ算・わり算」指導の課題をよく見据えた上で,この本そしてシリーズで何を解決しようとしているのか,児童らには何をどのように習得してほしいのか,また指導する側にはどのように学ばせるとよいかが,配列・例示されているのだなと,理解できました.そしてここでも,教育や指導というのはデザインなのだということを思い起こさせます.
 
それで終わったら苦労はしませんで,実は「単位」に注意しながら読んでいると,あれっと思う記述があるのです.

おり紙で,つるをおりました.私の班は,3人で183個のつるをおりました.これを同じ数ずつ分けたので,私の分は
183個÷3=61個
になりました.妹の班は,4人で140個おりました.妹の班も同じ数ずつ分けたので,妹の分は
140個÷4=35個
になりました.私と妹は,それをあわせて,糸でつなぎました.
私と妹のつるが全部で
61個+35個=96個
になりました.
この計算を,1つにまとめて書くと
183個÷3+140個÷4=61個+35個=96個
となります.このように,わり算もたし算・ひき算より先に計算します.
(pp.81-82)

「3」や「4」に,単位がついていません.
理由はそれなりに想像できて,本のそれまでの記述に合わせて,「183個÷3人=」とすると,わり算の結果は「61個/人」であり,「一人あたり61個」なのですが,これを「私が持ったのは61個」に変換するための数式上の操作というのが厄介だからです.
あえて書くなら「183個÷3人×1人=61個/人×1人=61個」ですが,著者はこの式と比較して,そこで説明したいことや前後関係*3,読者への影響などから,被乗数と商が同じ単位になる,「(拡大量)÷(倍率)=(基準量)」をベースとした「183個÷3=61個」のほうを選んだのかもしれません.
同じシリーズの4番目,『やさしい文章題』も同時に購入し,手元にありますが,次回は別のトピックを取り上げる予定です.

*1:自分向けの復習:wikipedia:en:Foreword.forewordを書くのは(主たる)著者かもしれないしそうでないかもしれないが,それに対しprefaceは著者が書く.

*2:そういえば,「/」を含む単位というのは,学校教育でいつ学ぶのがいいのだろうか? 時速の出る,小学校6年? 家庭でなら,もっと早くに教えてもいいんだろうけど.

*3:かけ算とわり算の混じった式の計算は,上記引用のページよりもあとです.