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2冊

「教えて考えさせる授業」を創る―基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」授業設計 (教育の羅針盤)

「わり算とは,かけ算の逆であり,全体量と分ける人数がわかっているときに1人分の個数を求める『等分除』お,全体量と1人当たりの個数がわかっているときに何人に分けられるかを求める『包含除』がある」ことは,すでに述べたとおりです.
これを教えるときに,図3・1のようなアレー図を使うことを私は提案したことがあります.アレー図は,小学校2年生でかけ算を教えるときによく使われるのですが,なぜか,わり算を教えるときにあまり利用されないのです.等分除と包含除の対称性を理解するにも非常に便利なツールのはずです.
(pp.96-97)

アレー図がかけ算で有用なのは,1列に並べると長すぎるし数えにくいので,行列(2次元配列)に配置すればかけ算によりその総数が効率良く求められるのと,行数固定で1列増やすと総数が行の数だけ増える(a(b+1)=ab+a)という性質を確認するためではないかと想像します.
わり算においてアレー図を使う場合,p.99の図3・2のように,あらかじめ,行数が1人当たりの個数,列数が分ける人数である*1という「構造を与える」必要があり,ここのところで,行と列を反対にした図でもいいのかといった疑問や混乱が生じる恐れがあります.
アレー図を用いて等分除・包含除の違いを説明することは,可能ですが,賛成とも反対とも言えません.するのなら,1つ分の大きさが何になるかの構造を与えた上で,その分け方に沿うのが等分除,横切った分け方をするのが包含除,という意味づけをするのが良さそうに感じます.とはいえ,学校の先生の教え方や個別の問題において,行と列あるいは縦と横に意味づけがなされていれば,それに従うほうがいいのですが.
あと,「対称性」という言葉に引っかかりを覚えました.代わりの表現として,思いついたのは「双対性」なのですが,辞書やWikipediaのエントリを引く限り,どちらがより良いというのでもなさそうです.

「12個のクッキーを3人で同じ数ずつ分けると1人分はいくつでしょう」という問題に対して,私の扮するワン太君は,「たし算もひき算もかけ算も知らない.数を数えることしかできないけれど,答えを求められる」のです.
(p.98)

教師の演示を見て,自分でも具体的に操作してみることによって,等分除と包含除の違いを意識してもらうのがねらいです.
(p.100)

とあって,アレー図と,等分除・包含除による数え方の演示(児童らも操作する)をしたあと,結論にいきます.

そのうえで,「これはワン太君のやり方だったけれど,みんなは,ワン太君と違って,かけ算九九を知っているね.すると,1個ずつ配らなくても,答えが出せないだろうか」ともっていきます.つまり,図3・1のようなアレー図で,全体の個数12個と人数3人(横の長さ)がわかっていれば,「3×□=12」で1人分4個が求まります.また,全体の個数12個と1人分の個数4個がわかっていれば,「4×□=12」で人数3人がわかります.ここは理解深化課題として考えさせる展開にもできるでしょう.
(p.100)

「3×□=12」と「4×□=12」とは,一体どういうことなのでしょう.ここで気にしているのは,かけ算の順序としてこうあるべきだ,ではありません.
この結論によると,直前に引用した「等分除と包含除の違い」が何かが分からなくなるおそれがあるのです.式で表す際には,等分除も包含除も,「わり算」で共通しています(「〜除」ですから).そしてわり算はかけ算の逆なので,わり算に対応するかけ算の立式ができるわけです.その前提のもとで,「3×□=12で1人分4個」と「4×□=12で人数3人」というのでは,土台となるかけ算の式にしたときにも,違いがないということになってしまいます.「12個のクッキーを4人で同じ数ずつ分けると1人分はいくつでしょう」を基点として等分除・包含除の式(除算と,□を含む乗算)を立て,比較すると,等分除と包含除の違いが見えなくなってしまいます.
試みは興味深かったのですが,児童はその後,必ずしも作図することなく,式を立ててその計算により答えを出す機会が多くなるのですから,式における違いも見せるべきではないかと感じました*2
ここで等分除・包含除に関する私の見解を書いておきます.

  • 「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の大きさ」という式に習熟しておくと,等分除と包含除の違いを含む,わり算の理解がスムーズになる.
  • 等分除と包含除は,余りがなければ,共通の全体像を縦に見るか横に見るかの違いとして理解できるが,余りがある場合には,連続量でも分離量(離散量)でも違った扱いをする必要がある*3
  • 「等分除」「包含除」という言葉を児童に教える必要はないが,「A×B=P → P÷A=B」と「A×B=P → P÷B=A」の違い*4を,具体例や教具を用いて習熟させることには意義がある.

遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)

ミカンを配るのに,トランプを配るときのやり方で配ると,1回分が6こ,これを4回くばるのだから,それを思い浮かべる子どもは,むしろ,
6×4=24
という方式をたてるほうが合理的だといえる.
(p.116)

その式が思い浮かぶのと,それを答案に書いて思い浮かんだ意図どおりに採点者(先生)に理解されるのは,別のことです.マルをもらい,自分も安心,先生も安心できて,より高いステップに進むためには,式をどう立てるにとどまらず,その式で伝わるかを考えていきたいものです.それが,文章題で式を答えさせることの意義です.

これが,もし,つぎのような問題だったら,どうだろう.「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」という問題では,4×6でも,6×4でもいいとせざるをえないだろう.
(同)

この問題に4×6と立式する人は,ずいぶんひねくれている上に,問題文から,何が「1つ分の大きさ」で,何が「いくつ分」になるかが読み取れなかったと判断せざるを得ません.
そもそもこの問題を,かけ算の文章題のひとつとして児童が解いたら,6×4が圧倒的になるのではないでしょうか.その中には,何が「1つ分の大きさ」で,何が「いくつ分」になるかをきちんとチェックした上で立式する子もいれば,かけ算で計算できる問題だと認識し,問題文に現れる数字のうち6と4を順に取り出して,6×4とする子もいます.
これを類題として示すのでは,何が課題(issue)になっているかが分かっていないのかと思わざるを得ません.元の問題は

「6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか」
(p.114)

で,問題文から「1つ分の大きさ」と「いくつ分」を読み取り,それまで学んだ公式に当てはめるのと,問題文に現れる数字のうち6と4を順に取り出してかけ算にするのとでは,式が異なるので判別できるという例です.上の引用は,1972年に書かれたものですが,この種の問題は『かけ算とわり算 (わかって楽しい算数教室 1)』のp.20に4つある小問のうち後ろ3つが該当しますし,現在でも書店に行って問題集を探せば,かなりの率で見つけることができます.
2番目に取り上げた本は,またもAmazonマーケットプレイス経由で手に入れました.1978年刊ということでISBNがありません.「6×4,4×6論争にひそむ意味」(pp.114-120)について,上の引用が主張の中心ではないことは承知しています.いくつかは是,いくつかは非でして,今後も取り上げて検討していく予定です.現時点での所感を書いておきますと,昨秋の論争真っ最中のときではなく,いろいろ思案してWebの情報を見て,何冊か本を読んで,その上で「古典」に触れることができたのは良かったといったところです.

*1:各行はトランプ配りにおける巡目(何回目か),各列は1人がもらえるモノ,という見方もできます.

*2:ただし,それだけなら,かけ算の順序に注意して式を立てるほかに,式に単位を付けることでも,等分除と包含除の式レベルの違いを理解することはできます.個人的に,式に単位を付けることを支持しないのは,これまで読んできた内容と,学習指導要領に基づく小学校の算数指導の流れを踏まえてのものです.

*3:連続量に対する余りの例はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20101229/1293569316,分離量についてはhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110320/1300568341

*4:「A+B=S → S-A=B」と「A+B=S → S-B=A」の違いとも,異なった面があります.加減算ではそれぞれの単位が同じですが,乗除算では違うからです.