わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

リスク認知

先日は当雑記で,そして昨日は授業で取り上げた件,本(『対話の場をデザインする 科学技術と社会のあいだをつなぐということ (大阪大学新世紀レクチャー)』)を読み直しました.該当箇所を,引用します.

Slovic(一九八七)は,科学技術やそれにかかわる三〇項目の活動について,女性グループ,学生,ビジネスマンの団体,専門家のそれぞれが,どの科学技術や活動をどの程度「危ない」と感じるかについての調査を実施している.(略)その中でも特に顕著な差が現れているのが,「原子力」に対する評価である.専門家は三〇項目のうち,電子力発電を二〇番目に危険なものと評価しており,全体の中ではそれほどリスクは高くないと判断している.一方で,女性グループと大学生は原子力を一位,ビジネスマンの団体は八位と位置づけており,特に女性グループと大学生は,原子力は極めて危険性が高いものとして評価している.
このような差は,専門家は「被害の大きさ×生起確率」で被害を考えるのに対し,素人は客観的な数値によらず判断しているために生じると言われている.一般の人々は,単純に定量的データだけに基づいてリスクを判断するのではなく,過去に類似の事故はなかったか,過去に行政機関がどのような規制を行ってきたか,安全対策は実効的か,提供される情報に偏りはないか,またその情報は信頼できるのかなど,経験的価値判断をむしろ重視して,リスクを認知しているのである.
(pp.12-13,太字は引用者)

「Slovic(一九八七)」について,引用文献の中で「Slovic, P. (1987) Perception of Risk, Science, 236, 280-285」とあります.人物名とタイトルをGoogleにかけたところ,Scienceのアブストラクトよりも上位に,本文のPDFファイルが来ました.読んでみると,著者はオレゴン大学の教授とのこと.調査の対象者は,おそらく,著者に近い団体や個人で,せいぜい米国内なのでしょう.30項目を見ると,"High School and college football" なんてのもあります.日本なら「野球」になるのかな.「柔道」だったらいやだなあ….
なお,本文中に,"Three Mile Island (TMI) nuclear reactor", "the meltdown of the nuclear reactor at Chernobyl"を見つけましたので,一位になった要因として,これらの事故があったと想像できます.そして,それらの事故を考慮しても,専門家は30項目の中では19位としていると理解すべきなのでしょう.
上記引用の直後では,国内の話で,一般市民・バイオ専門家・原子力専門家を対象とした,遺伝子組み換え食物と原子力発電の安全性評価についての調査結果を引用し,『科学技術にかかわる専門家であっても,自分の専門領域の対象から外れると,必ずしも「専門家」のようなリスク認知をするわけではない.むしろ,素人に近い感覚で科学技術のリスク捉える可能性があるのだ.』(p.14),『それぞれが自らの専門の範囲内にある科学技術のリスクを低く見積もり,範囲外にある科学技術のリスクを高く見積もる傾向がある』(同)と指摘しています.
リスクとは違うのですが,連想するものがあります.担当授業です.
授業参観の期間に授業を見せてもらって,学科の2〜3年生は,今,こんなに高度なことをやっているんだ,自分が学んだときよりずいぶん難しいなあ,と思うことがあります.その反面,自分の担当の情報セキュリティは,広く浅くの方針で,合格点を取るために理解すべきことは多いかもしれないけれど,高度だとは思っていません.なのですが,受講する学生さんや,もしかしたら今期,授業参観でお越しの先生には,多彩な内容に映るのでしょうか….