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比例数直線から

大切なことは,使う道具の意味が子どもたちにわかっているかどうかです.子どものイメージがわくなら,古くから伝わる比例数直線をやったっていいと思います.比例数直線は学習指導要領を作成する方たちが,水道方式の倍概念のかけ算定義に対抗して考えたものです.かけ算をいくつ分で学習した子どもが小数倍とか分数倍になったときに意味を拡張するのに,この図を使って結びつけようとしたわけです.私もずっとこの図を使ってみましたが,どうしても1より小さい数でわるときは抵抗があるなあと感じていたので,今は表と併用しています.
(『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』, pp.145-146)

「水道方式」といえば,遠山啓氏や数学教育協議会(数教協).かけ算の意味の微妙な半世紀: 反水道方式考、その一 | taggaの日記 | スラドが,分かりやすい解説でした.
むしろ気になるのは,「比例数直線」です.初めて知りましたので,調査…

この図3や図4(p.205 左)のこと,ですか*1
これを目に入れて,小学校学習指導要領解説 算数(2)を先頭から見ていくと,最初に出現するのは第5学年のp.166で,「80×2.5」を例とし,小数の乗法の中で使用しています.*2
話は変わります.「小学校算数の授業構成における図的表現に関する研究」の2.2節(p.202)にある「図の2通りの役目」については,冒頭で引用した本にも,参加者からの質問(1・2・3年生の指導Q&A)の回答の中で,記述があります.

図というのは2通りありまして,1つは,人間が物事を考えるために描くもの.もう1つは,考え終わった人が説明のために描く図です.
教科書などの図は,ほとんどが説明のための図です.つまり,よく中身がわかっている大人が子どもに考えさせるときに,説明するために使っている図なので,きれいに整理されています.あのきれいに整理された図を最初から子どもが描けるわけがありません.
(p.68)

2通りの作図を自分のふだんの活動にみるなら,『人間が物事を考えるために描くもの』は,学生室内で,アイデアを説明するために紙と鉛筆で即興で描くときの図で,『考え終わった人が説明のために描く図』は,発表用にPowerPointで表現したもの,ですかね.
さて,後ろの段落で,田中博史氏の子ども観の一端が見えたような気がします.『子どもが描けるわけがありません』について,「単元などのはじめにおいて」「圧倒的多数の」という修飾語をつけて,理解する必要があるのでしょう.「圧倒的多数の」であって「全ての」ではないのは,昨日読んだ中で「必ず」を見かけたからです.
この子ども観で授業を実施するとき,その授業よりも前に何らかの方法ですでに知っているという児童が,一発で「整理された図」を描いた場合,どう対処すればいいのでしょうか.《BA型》の出題に対して,トランプ配りを根拠としてA×B=Pの正当性を主張する児童とも,重なります.そのような,事前に知恵のついている子がいるクラスというのが,わずかしか読んでいませんが氏の著書からは,イメージできないのです*3
最後に,かけ算の順序をめぐる論争に戻って,同書で順序ありなのが明白なページを,写真に撮りました.

この設問の意図は:

私は最近『算数の力』(文溪堂)というドリルを開発したのですが,この中には,左側には文章が並んでいて,右側は絵になっていて,これを,線で結ばせるページをつくってみました.大人でも思わず考えてしまいますよ.
次のページは絵を,式と結ばせるものです.
この2段階で文章題指導をやっていくのです.こうすることで,子どもが本当に分を読み取っているかどうかがわかるようにしました.(p.65)

*1:著者が作成したと思われる図5以降の比例数直線は,「0」の表示がないため数量がとらえにくく,見ていて落ち着きません.

*2:それで,もとの本から「比例数直線」を探してみると,p.104に説明がありました.『日本の教科書では,2本の数直線が書いてあって,上に割合が,下に量が書いてあるのを使います.これは,日本が独自に開発したもので,比例数直線といわれています.確かに,わる数が1mより大きいときには,イメージ化に役立っています.ところが,わる数が1mよりも小さい場面だと,この数直線を使っても,立式に困る子がとても多いのです.』

*3:関係しそうなのは,pp.142-143,「授業の流れからはずれた発言をした子どもへの対応」です.一言でいうと,そういう発言も無視せず取り上げよう,です.そこに挙げられている例は,おそらく1cmの方眼紙を使うんだろうと想像できるのですが,そこでも,一発で(1,0),(3,1),(2,3),(0,2)の4点を結ぶ子がいたら,授業は,その子は一体どうなるんだろうという疑問はあります.