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2008年と2011年の「かけ算とわり算」

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)

かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)

ともに,買いました.出版社が違うんですね.
あと,1993年の「かけ算とわり算」の本は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110314/1300053018で言及しています.2011年の本は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110220/1298140746の最後の段落の件です*1
いずれも数学教育協議会のスタイルでして,かけ算の導入で見られる式はそれぞれ以下のとおりです.

  • 1993年のは,『(1あたりの数)×(いくつ分)=(全体の数)』(p.19)
  • 2008年のは,『1あたり量×いくつ分=全体量(内包量×土台量=全体量)』(p.8)
  • 2011年のは,『1あたりの数×いくつ分=ぜんぶの数』(p.6)など

累加を嫌うのも,共通しています.*2
本についている帯ですが,2008年のには『新学習指導要領を超える!』,2011年のには『新学習指導要領の問題点(略)を解消!』とあります.3つの本それぞれで,かけ算導入の際,式に単位を入れているのも(表記がそれぞれ違う点も含めて)興味深いです.

それで,かけ算の順序に注目して,2冊の本を読んでいきました.1993年の本については先述のリンクからどうぞ.
2008年のほうですが,http://ameblo.jp/metameta7/entry-10751152152.htmlで,興味深い箇所が引用されています.私自身が気になるのは,『3箱×2個/箱』という立式について,その典拠が見当たらず,これまで読んだどの本からも,それを確認できる手段が思い浮かばない点です*3.なお,72年の件については,かけ算の順序があるのはおかしいという立場で,遠山氏が書いたのを読み通すと,「質量=密度×体積とあるが,質量=体積×密度としてはいけないのか?」という疑問が思い浮かばない人はいないはずです*4
2011年のほうは,学習指導要領解説よりも,かけ算に順序がある見方のようです.その典型が,ブロックを使った「かけ算シート」(pp.29-34)です.交換法則の説明(p.33)で

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の配置を4×3,

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の配置を3×4*5としています.これは,かけ算シートが最初に登場するp.29で,縦の数=ピンク=同じずつの数,横の数=ブルー=いくつ分と,意味を設定しているため(それと『1あたりの数×いくつ分=全部の数』(p.22)),そう解釈せざるを得ないのですね.配置をそのままにして,見る方向を変えることで,前者を3×4,後者を4×3とするわけにはいかないのです.小学校学習指導要領解説 算数(2)のp.81に,一つの配置で複数の乗算式が書かれているのと比べると,同書は,かけ算の順序交換について限定的であると言わずにはいられません.
再び,3冊の比較になるのですが,いずれにもタイルを使った「かけわり図」が出てきます.1993年のものは,かけ算の導入をしている1章では,1あたりの数を縦方向に並べ,出来上がる行列では行の数としていますが,かけ算のしかたを取り扱っている2章では,縦横が反対になっています.2008年の本,2011年の本でのかけわり図は,被乗数に対応する“1あたりの数”が縦方向(行の数),乗数に対応する“いくつ分”が横方向(列の数)となっています.このように意味づけをしたかけわり図を用いて,かけ算の導入をしている限り,かけ算に順序があるとする立場からは離れられないでしょう.
同日朝6時前に追記:2011年の本を読み直した限り,《BA型》の文章題は見当たりません.箱の個数が先に分かっていて,1箱あたりの個数がみな同じときにその総数を求める問題が,ミニドーナツを使ってpp.23-24に,またキャラメルを使ってpp.41-42に見られますが,いずれもかけ算の式にはしていません.

*1:Amazonでこの本が出るのを知り,いったんカートに入れたのですが,某年月日に大きめの書店へ行く時間がありました.ないなあでして,少し離れたところの棚を見ていると,店員さんが数冊を持って歩いていました.もちろん店員さんが配架して離れたあとに,行って手に取りました.

*2:同日朝6時前に追記:2011年の本については,p.10, p.24, p.139でやや好意的に累加の考え方を説明または使用しています.

*3:なぜそのように「×」を用いた立式ができるか,もしくは,「いくつ分×1あたり量=全体量」または「土台量×内包量=全体量」という関係式が,どこかの本に書いてあるといいのですが.まあ見つけたら見つけたで,前後関係を読んでそう書いた意図を確認する予定でして.

*4:もちろん,交換法則から質量=体積×密度としていいというのは短絡でして,そこは,質量=体積×密度としている記事・書籍などの調査や,現在の小学校でどのように指導しているかの聞き取りなどが必要になってくるでしょう.ネットの掲示板で満足している人には無縁かな.もちろん私は,かけ算の順序があるのはおかしくないという立場なので気楽です.

*5:単位について,こういったものの個数を数学で取り扱う際は,無単位量(または,無次元量)であるべきだという主張を,かけ算の順序をめぐるどこかの掲示板で読んだのですが,この本では,p.10で,同じ形のタイル配置に対して『3こ/はこ×4はこ』という式が添えられており,「こ/はこ」と「はこ」を単位とするのが自然な解釈です.