わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

世に数学の種は尽きまじ

数教研のかけ算文章題

今回も事例報告からです.

ページの下にはFlashで文字が泳いでいます.その中に「水道方式」も見られます.いや,wikipedia:数学教育研究会を見るほうが早いですね.数学教育協議会と人的な関係は見られますが,下部組織というのではなさそうです.
それで出題ですが,1C3のページに注目です.図を描き,空欄に数字を入れていくと,《BA型》を解いているように見えます.
皿は4枚あって,最も左の皿は魚が点線で描かれていて児童はそれをなぞり,2皿目以降は自分で描くということですね.
はじめ,左端の皿は「1当たりの数」を表していて,計算の際には無視するのかなと,勘違いしそうになりました.もしそうだとすると,3びき×3=9ひき,《AA型》か…いえいえ,何を被乗数,何を乗数とすればいいのか(を児童がきちんと理解して解いているか)が分からない出題になるところでしたね.

サンドイッチ&学年が上がればどちらでもよい

すべてのこどもに確かな学力を (小2年篇) (学力の基礎シリーズ)

すべてのこどもに確かな学力を (小2年篇) (学力の基礎シリーズ)

奥付によると,著者は1930年生まれで,ずっと神戸市の小学校教員とのこと.
本は縦書き(式などは90度回転)で,句読点は「。、」.九九学習は?×0から?×10が基本です(例外も見られます).

…ただし,立式は厳格に採点します.名数・単位は必ずつけさせます.つけ忘れていたり,かける順序が逆になっていたりした時は×にします.そんなところで慈悲心は出さないことです.…
(p.75)

被乗数・乗数の区別を大事にする指導方針のようです.ページを少し戻します.

「(1)このくみには,めがねをかけている子が3人います.めがねのたまは,みんなでいくつありますか.」「(2)あさごはんを5人でたべています.おはしはなん本ありますか.」といった問題をつくります.その時,名数・単位を忘れないよう強調しています.小六を担任しても,それはやらせます.無名数同士の乗除算では,立式の意味を確かに理解しているのかどうかを判定できない場合が,しばしばあります.被乗数・答えに名数なり単位をつけさせ,乗数にはつけさせません.式の意味なり,性格を正確につかんでいたときこそ,これらの立式が誤りなくできるのです.小一のときから,きちんとやらせています.
(p.64.カッコ書きの数字は原文では丸囲み,以下も)

《B型》です.ちなみにここは,九九の2の段を学習したあとに,文章題を解いたり,作問させたりするというシチュエーションです.小六でも「名数・単位を忘れない」のは,問題文に関してであり,立式においては必ずしもそうでなさそうです.
なお,箸を1本,2本と数えていいのかについては,気になります.とはいえ,書店で立ち読みした(したがって比較的新しい)算数の問題集の中にも,1人分=2本の箸を前提とした出題を見かけました.極めて個人的な話ですが,我が家ではどれは誰の箸と決まっていて,色分けされています.箸を数える単位は「膳」ではないかと思ってWebの情報を見ていると,お箸の数え方はどう数えるんですか??1つ、2つ?? - お箸の... - Yahoo!知恵袋や,http://www.web-nihongo.com/dictionary/dic_51/d-index.html経由でhttp://www.web-nihongo.com/dictionary/dic_51/img02.htmlを知りました.「本」で良さそうです.

先の問題では,左記のように立式したときにかぎって正答とします.
(1) 2まい×3=6まい こたえ6まい
(2) 2本×5=10本 こたえ10本
2本×5人と記すのはまちがいです.1人が使う箸は2本です.5人の使う箸は,1人の使う箸の数の5倍なのです.つまり,2本の5倍です.式としては,2本×5となるのです.面倒のようですが,厳密に式に表しますと,
2本×(5人÷1人)=2本×5=10本 ということになります.ですから2本×5人といった式は書いてはならないのです.…
(pp.64-65)

「先の…左記の」,また少し前の引用では「性格を正確に」と,朗読する人を楽しませようとしたのか,同音語が2組,入っています.
式としては,サンドイッチっぽいです.直後は引用しませんが,ほぼサンドイッチの説明になっています.
ところで私自身,数教協関係者の本の影響で,「2本/人×5人=10本」が思い浮かぶのですが,「2本×(5人÷1人)=10本」とすることで「/ (per)」を使わない,という考え方もあるのですね.

…教師向けの指導書等には,
2×5=10 こたえ10本 というふうに,何等,単位や名数をつけずに,こどもに書かせるようにしています.そのような安易なやり方では,かけ算の意味がきっちりのみこめないままでいる子を,将来とも放置してしまうことになると思います.私は,しっかりと,単位・名数を正しくつけさせています.逆にかけた場合はペケにします.
(pp.65-66)

まあそういうスタンスですか.実績に基づく指導方法なので(そしてすでにリタイアされていることでしょうし),まったく文句の言う余地はありません.と,読んだところで,直後の

面積を求めるような計算に至れば,どちらを乗数・被乗数にしてもいいのですが,それまでは厳密に立式させています.…
(p.66)

が,どんでん返しです.「面積を求めるような計算では…その種の問題でなければ」ではなく『面積を求めるような計算に至れば…それまでは』ですか.これでは,乗算で求められると判断する→2つの数量を見つけてかける,の流れになりそうですね.情報過多の平行四辺形の面積問題で,正答率が下がりそうです.
念のため私のスタンスを書いておきますと,出題に対して,それまで(授業やドリルなどで)学習したどんなやり方で解けばよいかを探し選ぶ→その公式などに適用して式を書く→計算して答えを求める,という流れを一つの理想形とします.式も正誤判定の対象になる場合は,「式を書く」段階も注意させるでしょう.もちろんこれは,大学の授業あるいは研究での計算にも,適用可能です.基になる式*1と,当てはめ(変数への代入)の2点を,きちんとチェックすることになります.

万有引力の式

とある掲示*2で,かいつまんで言うと,順序派は万有引力を求める問題で不自由な解き方をしないといけない,という主張を見かけました.
確か去年の11月,状態方程式PV=nRTがどうのこうのという主張もあったような.まあ,万有引力なり状態方程式なりを学ぶ時点で学習者が持っている知識や手法と,かけ算を学んでいる小学生が知っているそれらとにはギャップがありすぎるんで,主張を固めるなら,Twitter掲示板で名称を挙げるんじゃなくて,ブログなり静的ページなり論文・論説なりで,前提となる情報など(いわゆる順序派のもとでどのような知識を有しているか,非順序派だとどう変わるか)を明確にしてもらいたいものです.と書いて反応を待つことにしよう….
それでも万有引力は興味深い話に思えたので,またも大学図書館で,調べてみました.
力学関係の本を何冊か開いて,分かりやすそうに思えたのは:

「昭和54年12月20日 初版第1刷発行」「昭和55年6月1日 初版第3刷発行」でした.『力・作用力・反作用力 物理学One Point 5』は,発行年月が1か月しか違わないものの,総ページ数が異なっており,同じなのか違うのかよく分かりません.
それはさておき,この本では次のように書かれています.

ニュートン万有引力として
f=G\frac{mM}{R^2}   (2.2)
という形を仮定した.ここにmは惑星の質量,Mは太陽の質量,Gは定数である.
(p.34)

Rは,この引用と同ページ,少し上に『惑星の運動はほぼ円軌道を描き,公転の周期Tの2乗は公転半径Rの3乗に比例する』として規定されています.
また経緯としては(pp.34-37を自分なりに要約),ティコ・ブラーエの観測データ → ケプラーの三つの法則 → ニュートン万有引力の式を仮定 → (1世紀半あとに,「地球の質量を知るための実験」として)H.キャベンディッシュがGを算出,という流れで,G = 6.67\times 10^{-11} N・m^2/kg^2でした.なお,上の式を「仮定」することによって『公転の周期Tの2乗は公転半径Rの3乗に比例する』というケプラーの第三法則がうまく説明できるのであって,「証明」「実証」ではない点には注意です.
もう1冊,開けてみました.

ファインマン物理学〈1〉力学

ファインマン物理学〈1〉力学

…と言いたいのですが,読んだのはハードカバー*3で,奥付は「1967年6月12日 第1刷発行」「1973年5月30日 第8刷発行」となっていた本です.ISBNはありませんでした.
式が出てくるのは,万有引力の説明が始まってから数ページあとでした.

7-6 キャベンディッシュの実験
吊糸がどれくらいねじれるかを測ることによって,この力の強さが求められ,そしてこの力が距離の自乗に逆比例することが証明された.このようにして,次の式
F=G\frac{mm'}{r^2}
における係数Gの値が精確に求められた.…
これは地球の質量をきめる唯一の方法であって,Gは
G = 6.670\times 10^{-11} ニュートン・m^2/kg^2
である.
(p.102)

地球の質量うんぬんについては,wikipedia:キャヴェンディッシュの実験の中の,「キャヴェンディッシュは G を決定したのか?」が整理されているように思います.
という,やや古い本で,2つの式を挙げましたが,ともに,2つの質量は表記上,mとM,mとm'のように,区別されています.
その一方で,書店の立ち読み情報で恐縮ですが,問題集や,ファインマン物理学よりもう少し古い本(の復刻版)で,m1とm2(数字は下付き)としているものも見かけました.
万有引力を用いてどんな問題を解くかというと,1トンくらいの2つの物体がずいぶん近い状態にあっても,それらの間に働く力はマイクログラム(の物体にかかる重力)程度だとか,人工衛星の重力加速度は,地表のgよりもどれくらい小さくなるか*4だとかいったところです.
想像ですが,ニュートンが,現在「万有引力の法則」と呼ばれるものを著した中では,これらの文字による等式(数式)ではなく,言葉による表現であって,後に記法が確立し,20世紀の力学の入門書の中では,現在知られる形の関係式になっていて,その前後関係から,著者が,2つの質量の名前を定めてきたのでしょうか.
といった背景を,掲示板で書かれた人が前提としていたかは分かりません.本エントリに書いた情報が参考になるのか,古くさくて当てにならないのか,実はプリンキピアは原文を読んでいてそこにはこう書かれているという知識をお持ちなのかもしれません.
私の声が届くのであれば,万有引力でも状態方程式でも,他の科学のトピックでもいいのですが,問題を解く人がどんな知識・公式・解法などを利用可能なのか---繰り返しになりますが,いわゆる「順序派」と「非順序派」の違いも踏まえて---を示すとともに,「公式を得るまでのフェーズ」か,「公式に適用するフェーズ」か,「計算するフェーズ」か,どの段階に着目して不合理性を指摘されたいのか,明記していただきたいなと思います.

複比例?

万有引力の式は,引力は,2つの物体の質量に比例し,それらの距離の2乗に反比例している,と読めます.
ここで「複比例」という言葉を連想しました,辞書で確認…

一つの量が、他の二つの量と比例あるいは反比例の関係にあること。

複比例(ふくひれい)の意味 - goo国語辞書

比例も反比例も含めて良さそうです.ということで話を単純化して,あと当面は大人のトークですが,
y = k1x1, y = k2x2ならば,y = k12x1x2としてよいか?
という問題設定をしてみます.ここでx1,x2,yは変数で,k1はx1に,k2はx2に,k12はx1にもx2にも依存しない定数とします.
少し検討してみると,この主張は都合が悪そうです.これが成り立つならば,yはx1の2乗およびx2の2乗(何乗のところは,いくらでも上げられます)に比例することが示せます.
「x1とx2は独立」という条件が不可欠なのは分かるのですが,これが,複比例を一つの式で表す際の,必要条件なのか十分条件(の一部)なのかも,見えてきません.
文字式はここで投げ出しまして,小学生が学習する内容で,複比例の関係をいくつか探してみます.

  • 例1: 等速直線運動をしているとき,進む距離は,
    • 時間を固定すれば,速度に比例します.
    • 速度を固定すれば,時間に比例します.
    • したがって,進む距離は,速度と時間に比例します.
  • 例2: どの皿にも同じ個数の林檎を乗せるとき,林檎の総数は,
    • 皿の枚数を固定すれば,皿に乗せる林檎の個数に比例します.
    • 皿に乗せる林檎の個数を固定すれば,皿の枚数に比例します.
    • したがって,林檎の総数は,皿に乗せる林檎の個数と,皿の枚数に比例します.
  • 例3: 長方形の面積は,
    • 横の長さを固定すれば,縦の長さに比例します.
    • 縦の長さを固定すれば,横の長さに比例します.
    • したがって,面積は,縦の長さと横の長さに比例します.
  • 例4: 同じ大きさのレンガを,同じ向きになるよう積み上げたとき,その高さは,
    • レンガの個数を固定すれば,レンガ1個の高さに比例します.
    • レンガ1個の高さを固定すれば,レンガの個数に比例します.
    • したがって,その高さは,レンガ1個の高さと,レンガの個数に比例します.
  • 例5: 2台の車をレンタカーやさんで借りて,ドライブを楽しみました.しかし期限までには戻れそうにありません.時間数*5に応じた延滞料金を払うことにします.このとき支払う延滞料金は,
    • 時間数を固定すれば,時間あたりの金額に比例します.
    • 時間あたりの金額を固定すれば,時間数に比例します.
    • したがって,支払う延滞料金は,時間あたりの金額と,時間数に比例します.

かけ算の被乗数・乗数について関心がある人なら,例1〜3が分からないという人はいないでしょう.例4は,どこかで見かけた小学校2年生向け問題集の1問をアレンジしたもので,レンガ1個の高さが連続量,レンガの個数が離散量になっているので取り上げました.例5について,支払う延滞料金は,借りる台数にも比例するのですがそこは定数扱いとしています*6.例4までだと,2つの因子をかければただちにほしい値となるですが,世の中必ずしもそうではないですよという事例を示すためのものです.
こうして見ると,例1と,それ以外とが違っています.例2以降は,確かに複比例の関係です.しかし例1は,そのような関係が成り立つから,距離・速度・時間についての関係式が得られる,というのではありません.距離(長さ)と時間が先にあって,車やスピードメーターなんてのがなかったころ,なので人や船になると思うのですが,その進み方を数量化し,比較や加減乗除ができるようにするためのものとして,速度=距離÷時間によって速度が導入されたわけです.これを変形すると,距離=速度×時間となり,ここから,他の複比例と同じ関係が得られる,という次第です.
「3km/(km/時)×4km/時」*7が先方に伝わらなかったという原因の一つは,これなのかもしれません.

形成的評価・見直し

トランプ配りは,数学教育において,なぜ広まらなかったのでしょうか?
という問いを立てても,私自身,答えられません.なのですが,
それと近い時期に,海外から持ち込まれた,診断的評価・形成的評価・総括的評価はなぜ普及したのでしょうか?
という問いと合わせて考えると,何か言えそうな気がします.もちろん,学習指導要領の中に,これら3種類の評価項目が明記されているわけではありません.しかし「指導と評価の一体化」というキーワードにおいて,これらが親和性を持っているように感じるのです.
毒ですが,「指導と評価の一体化」を知らないという人は,本でもWebでも読んで,その概念がなかったときとそれがある現在を比較するとともに,それが算数・数学教育にどう影響するかを自分なりに検討し,それでもなお気になるなら,かけ算の順序をめぐる論争に戻るようにしてください.
新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践 (MINERVA21世紀教科教育講座)』を読み直してみよう…索引で,びっくりしました.

もちろん,94ページに何度も出現するのは「形成的評価」であり,「形式的評価」は見られません.なお,診断的評価は索引の中で93ページ,総括的評価は94ページと,それぞれ正しく記載されています.
単純な誤記だと思うのですが…まだまだ周知のされていないキーワードなのでしょうかね.

5×3をめぐるお話・第5話

こんにちは,私です.大学生やっています.アルバイトで塾の講師もしています.
いつもは高校生を指導しているのですが,塾長先生から,小学生の面倒を見る人が足りないと言われまして,手伝ってきました.
4年生の算数だったと思うのですが,計算問題がありました.
3+2×3=
これ,かけ算のほうをたし算より先にするという問題ですね.
なのですが,ある子が「15」と書いていました.
「そこはね…」
「先生,僕,電卓で計算したんだよ! 間違っているって言うの?」
と凄い剣幕です.電卓の数字は,15になっていました.
先生用の座席に戻って息をつき,手の届く距離にある電卓を引き寄せ,3,+,2,×,3,=,と押すと,15が表示されました.
もちろんフィクションです.

すぐ解説

電卓の計算は,Windows 7付属のアクセサリ>電卓で確認しました.なお,表示(V)>関数電卓(S)を選び,関数電卓モードにしてから,3,+,2,*,3,=,と押したところ,乗算を加算に優先して計算してくれて,9となりました.
今回のお話のベースになるのは,第4話までと異なります.「陸上競技だと,4×100mのように,一つ分の大きさを×の右に書くのだから,一つ分の大きさを左に書くのはローカルルールに過ぎない」という主張ができるのなら,「電卓を使えば,3+2×3は15となるのだから,乗除算を加減算に優先するのは,ローカルルールに過ぎない」という主張ができてしまうという点です.

今後の予定

3〜4日おきに雑報を書いていますが,次回は少し変わるかもしれません.間を置くかもしれませんし,明日書くかもしれません.
来週金曜1限の授業で,一方向ハッシュ関数を取り上げます.余談として,5×3をめぐるお話・第1話を学生向けにアレンジして言おうと思っています.

*1:出典は何か,各文字の意味が書かれているか,誤記は入っていないか,などの確認も不可欠です.

*2:そのうちURLを示す予定.

*3:ペーパーバックのものは,大学1年のとき,生協の書店で山積みになっていました.ファインマンと教育との結びつきでは,『ご冗談でしょう,ファインマンさん』で,選定のために教科書を読んで噴火しまくりとか,何進数のある値を,別の進数にするとどうなるかといった計算問題を見て腹を立てているシーンがあったのを,思い出します.

*4:人工衛星の質量を例えばmと置いても,重力加速度として求める際には消去されます.

*5:実際には何時間何分遅れとなるのですが,ここではお店で料金を算定する際に換算する「時間数」,すなわち整数値を用います.それと,現実には24時間以上の延滞だと日数での単価になりますが,簡単のため,時間数だけを考えることにします.

*6:借りている時点で料金は既知なんだから,これも定数扱いじゃないか,という批判は甘受します.

*7:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20101229/1293569316より孫引き.