わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

もう少し,書きむしるか

1. 小見出しナンバリング

本日の雑報から,小見出しに番号を振ることにしました.
「おことわり」など,移動する可能性のあるものは,0などを割り当てます.
そのうち,過去の雑報にもつけることにします.

2. 演算決定の意味理解

小学校 算数科の指導

小学校 算数科の指導

学習指導要領・同解説をさらに読みやすくしたものに見えます.ただし『学習指導要領の内容はおおまかではあるがカバーする』(p.ii)とあり,それらの解説書という位置付けではないとのこと.
乗法についても書かれています.

おかしの はこが 3つ あります。
1つの はこには おかしが
6こずつ はいって います。
みんなで なんこに なりますか?
(p.69, 図3-24 演算決定の意味理解, 左囲み)

しきは、3×6かな?
6×3かな……
(同上, 右囲み)

《BA型》です.すぐ上に,この出題の意図が書かれています.

(2) かける数とかけられる数
一般に,具体的な問題は,「基準量」と「いくつ分」が,この順番で示されているので,演算の意味を考えもしないで乗法の式に表す傾向がある.乗法の演算の意味を深めるためには,次のようなかける数とかけられる数が入れ替えた問題を取り扱い,確かな乗法の演算の意味理解を図ることが大切である.
(p.69)

たいていは(もしくは,はじめのうちは)《AB型》で式をつくり,そしてあるときに《BA型》を出題してみよう,ということですか.
気になる言葉があります.「意味理解」です.図見出しの「演算決定」も,初めて見た四字熟語です.Googleにかけると,わんさと出てきます.なるほどと思った情報を,並べます.

これらの言葉を知らずに,我ながらよくまあいろいろ書いてきたもんだなあと,画面の前で恥ずかしく思えてきました.
なお,演算決定という言葉は出てきていませんが,これに基づく指導例や出題例は,『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』p.62やp.67,『算数好きにする教科書プラス坪田算数ワークブック2年生 (TEXT BOOK PLUS)』(ページ失念p.93, p.183)にあります.
別件ですが,分解式と総合式(p.156)という2種類の式の表現は,最近検討をストップしている,俺量の形式化*1に有用そうに感じました.すなわち,基礎となる俺量をもとに,まず分解式によって適切な俺量を導出できるよう,演算規則(構文)を定めます.そしてそれを,総合式も記述できるように拡張します.総合式から,分解式の系列への写像がつくること,また式の構成に関する帰納法により,いったん(構文的に正しい)式を立てれば,あとは数と単位とで分けて演算し,結果となる量を求めることができることを,示せそうです.
まあ,2回目のFAQを出すよりもあとになりそうですが.

3. 組み合わせ数の出題例

別冊いきいき算数新単元

別冊いきいき算数新単元

この本の役割は,『以上の観点から別冊『いきいき算数 新単元』は,新学習指導要領で新しく書きおこさなくてはならなかった内容を一冊にまとめたものとなっています』(p.5).
これを買ったのは,書くことは信じることで少し検討した,順列や,組み合わせ数の指導方法が載っていたからです.

問題1 A, B, C, Dの4枚のカードの並べ方を,書き落としがないように調べなさい.
(略)
問題2 前の問題を,樹形図をかいて調べよう.
問題3 前の問題を,計算で解いてみよう.*2
練習1 1から5までの5枚のカードのうち,3枚を取って並べたい.可能な並べ方は,何通りあるか?
(p.103)

問題3の計算による出し方は,軽く触れる程度にします.
[考え方1]最初に4通り,次に3通り,次に2通り,最後に1通りだから
4×3×2×1=24
[考え方2]Aを先頭にした組み合わせは,樹形図から6通り.それが4種類あるから
6×4=24
練習1の答えは 5×4×3=60 通りです.
(p.104)

もう一つの問題は,4枚のカードから2枚を引くときの組み合わせが何通りあるかについて,2種類の樹形図のあとに,次のように書かれています.

この図を見ると,計算で出すには
4×3÷2
で良いことが分かります.
ここでも計算は,深入りする必要はありません.
(p.108)

軽く触れるだけにするのは,4人や4枚をもっと大きくしたときに,すべてを列挙するのが困難だからでしょうか.
『(5)具体的な事柄について,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができるようにする。』(《算数解説》p.211)とあります.小学校学習指導要領(新旧対照表) p.60によると,この項目は前の学習指導要領にはなかったことが確認できます.また《算数解説》p.212に樹状図が載っていますが,同じページの『指導に当たっては,結果として何通りの場合があるかを明らかにすることよりも,整理して考える過程に重点をおき,具体的な事実に即して,図,表などを用いて表すなどの工夫をしながら,落ちや重なりがないように,順序よく調べていこうとする態度を育てるよう配慮する必要がある。』も目を引きます.
『いきいき算数新単元』に一通り目を通したあとで,執筆者紹介を読むと,著者4人のうち3人が数学教育協議会に所属だそうで.なのですが,これまで読んできたときに感じた数教協っぽさが,見られない本でした.

4. カード式配り方

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

当雑記で,面識のない人物の名前を書く際,敬称をつけるべきかいつも悩むのですが,本日は呼び捨てでいきます.
上の本の中で,著者・矢野健太郎が,多くの数学者を取り上げ逸話を紹介しており,遠山啓については「私・矢野健太郎」(pp.270-304)に次ぐページ数で---タイルやミカンなどの図も多いのですが--解説をしています.なお,この本が出たとき(昭和59年)には遠山は他界しており,p.102にも『遠山啓(一九〇九-一九七九)』と書かれています.
「カード式配り方」は,pp.119-124にあります.以下その終わりと始まりだけをつまみ食いして引用します.

と答えてもよいではないかという返事をして,私はようやく一時間の宿題を解いたわけであるが,一週間ほどのちに,遠山先生に以上のことをお話したら,
「矢野くんはやっぱり算数は素人だね.実際,矢野君の言うように考える子がときどきあるんだよ.われわれはこのような配り方を,カード式配り方と呼んでいるがね」
ということであった.
つまり,遠山先生のお考えによれば,いやしくも数学の教師たるものは,乗法の交換法則4×6=6×4に対してもここに述べたような二つの方法による説明を知っているべきである,ということであった.
(p.124)

自分で必死になって考えたことが,実は人に尋ねると周知のことだった,というのはまあよくあります.私にとっては,先述の「演算決定」「意味理解」が該当します.それと,高木貞治と遠山啓は,その人名を挙げたくなる魅力を持った人のように思えます.当雑記では,遠山啓の名前を初めて見たのは, 藤沢利喜太郎と遠山啓で,取り上げられているのを取り上げています.
距離を置き,「カード式配り方」のエピソードを読んだ者としては,答案を書き,バツをもらった後で,マルになる理由を探しているという流れに対して,ご苦労様の感があります.「×」から学んだことの「《吟味を経た正答》は,結果論じゃないか! 後知恵じゃないか!」への回答で挙げた,「後知恵」です.
『矢野君の言うように考える子がときどきあるんだよ』については,学校の先生としてはおつらいところですが,私にとっては,興味深い児童そして課題です.すぐ上でリンクしたFAQ(と,その前後のエントリ)でいちおう態度を表明していますが,本エントリではまた別の視点を2つ,示しています.
さて…著者が必死になって考えることになった,話の始まりの中にも,興味深い情報が含まれています.

もう大分前のことになると思うが,あるとき私の所へ,名古屋から電話がかかってきた.そしてその電話の主はつぎの話を私にした.
「名古屋のある小学校で,算数の試験につぎの問題が出た.
ミカンを4つずつ6人の人に配りたいと思う.ミカンは全部でいくつあればよいか.
この問題に対して,大部分の子どもは,
4×6=24
個と答えたが,なかに一人,
6×4=24
と答えた子があったが,先生はこれを0点にしてしまった.
(p.119)

出題は,《AB型》です.《AB型》に対してB×A=Pと書く子の例は,5円の品3個の代金の立式は「3×5」ではダメなのかで取り上げています.もう一つ,比較しておくと,『いま,小学校では,「6人に4個ずつミカンを配ると,ミカンは何個必要ですか」という問題に,6×4=24という式を書くと,答えはマルで,式はバツにされます.』(『かけ算には順序があるのか』, p.iii)は《BA型》です.
《AB型》と《BA型》は当雑記ローカルなラベリングですが*3,これを思いつくよりも先に,これらの違いを認識したうえで出題し,分析するというのは,すでに金田(金田茂裕: 小学2年生の乗法場面に関する理解, 東洋大学文学部紀要, No.62, pp.39-47 (2008).)によって行われています.
文章題aとして『1はこに 4こずつ ケーキを 入れていきます 6はこでは なんこに なりますか』(Table 1, p.41)という,《AB型》の問題を21人の大学生に解かせたところ,正答率が棒グラフで示されていて(Figure 3, p.45),そこから,20人は「4×6=24」と書き,残りの1人は「6×4=24」と書いたと推測できます.基準Aで21人全員が正答,基準Bで20人が正答とされているからです.基準A・基準Bについてはhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110531#20110531fn10をご覧ください.
「6×4=24」と解答した唯一の学生,《BA型》の文章題b*4では,B×A=Pに対応する「5×3=15」を書いたのでしょうか,それともこっちは,A×B=Pに対応する「3×5=15」だったのでしょうか.しかしこれは私個人の興味であって,あいにく論文での関心は,正答率の比較に向けられています.
遠山の『矢野君の言うように考える子がときどきあるんだよ』については,もととなった1問だけからはその推測が適切かどうか分からず,《AB型》・《BA型》の問題を織り交ぜながら何問か与えて,その答案から,カード式配り方(トランプ配り)で考える習慣がついているのか,思い違いだったのかを,探らないといけないのかなと思っています.
ここで,解答(者)から出題に視点を移します.私の関わっている授業や試験では,ボーナス問題的な小問*5であっても全員が正解となるのはなかなか難しく,思い違いをしている答案は,どうしても現れます.授業中なら解説するなり,解説をWebページに載せるなりします.総括的評価に位置付けられる,期末試験においては,正解例と解説を書く際に100%でない正答率を添えながら,今後そのようなケアレスミスをしないようにと願うのみです.
そういう経験をもとにすると,大学生が(小学生も)全員同じ答案を書かなかったことは,その実験の信頼性,出題の妥当性を支えているようにも思えます*6

5. セミロング休憩

例えば「6人に4個ずつミカンを配ると,ミカンは何個必要ですか」という問題に対して,6×4=24という式を正当化するものは何かを,考え直してみます.
よく言われるのは,乗法の交換法則です.しかしこれは,6×4(もしくは4×6)という式を書いたときに,乗法の交換法則を適用して6×4=4×6(もしくは4×6=6×4)とすることができるということです.どのように考えて,問題文から,6×4(もしくは4×6)という式を書くのかについては,まったくヒントを与えてくれません.
次に思いつくのは,乗法の意味の拡張です.例えば*7,まず「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」によって,かけ算で全体の大きさが求められる,ということを学習しているとします.そこで次に乗法の交換法則を学んだら,これらを組み合わせて,「いくつ分×一つ分の大きさ=全体の大きさ」としても表せるのだ,と主張することにしましょう.
この主張を,学校現場で浸透させようとするとき,それに対して当雑記で述べてきた懸念は,以下の3点です.

  • 学習:乗法として利用できる方法(手法,公式)が2つあることになり,どちらを選ぶか,または両方書く(言う)べきか,児童が考えた上で,答えを決めなければならない.すなわち,「いくつ分×一つ分の大きさ=全体の大きさ」というルールの追加は,学習コストを高める.
  • 構文:数教協スタイルの「4個/人×6人=24個」,サンドイッチの「4個×6=24個」といった,単位に基づく式の妥当性検証ができなくなる.採点者だけでなく,検算(たしかめ)を行う学習者にとっても損失となる(もしくは,ルール追加により高コスト化をもたらす).
  • 曖昧さ:4×6=24という式が「4個ずつ6人に配る」という意味にも「4人に6個ずつ配る」という意味にもなる.場面と式との対応付けがより困難になる.

休憩にしては,長くなってしまいました.

6. 三角形の内角の和が180度になることの説明

いきなりですが問題です.

三角形の3つの角の大きさを足すと180°になります.どうしてか,説明しましょう.

ここで3人の小学生解答者に登場してもらいます.Aさん,Bくん,Cくんと呼びます.もちろんフィクションです.今は男女関係なく「さん付け」なんだっけ.それはともかくとして…
Aさんは,紙を切って三角形を作りました.角を折り曲げて,3つの角で一直線を作り,だから180°になると答えました.
Bくんは,ホワイトボードに書いていきます.説明に,耳を傾けてみましょう.

  • まず,三角形の中で一番長い辺が,底になるよう,回転させます.

  • 次に,このように長方形を2つ,作ります.

  • 左側の長方形を見ると,三角形の辺が,その長方形の対角線になります.その対角線が,長方形を切断し,それによって2つの合同な三角形ができます.このとき,青色の2箇所の角の大きさは,同じです.

  • 右側の長方形も同様で,緑色の2箇所の角の大きさは,同じです.

  • 2つの長方形をくっつけて,真ん中の縦線を取り除きます.

  • 三角形の3つの角は,赤い丸,青い丸,緑の丸です.赤い丸の頂点の周りを見ると,この3つの角で,直線をつくっています.だから和は180°です.

先生は「どうして最初に回転させるの?」と尋ねました.それに対してBくんは,そうしないと,2つの長方形が描けないからと答えました.先生が納得できない顔をしたので,「最後に縦線を取り除いて,大きな長方形として見るとき,赤い丸の角が,その中にないと,こうやって計算することができないんです」と付け加え,先生もまあいいかとなりました.
Cくんは,三角定規を取り出しました.クラスの3人の友達から,同じ三角定規を借りました.そして4つの定規を,このように組み合わせます.

それから一つを取り除いて,このように組み合わせます.

先生は尋ねました.「えっと…それで?」
Cくんは,答えました.「直角は90°ですよね? 小さいほうの角の大きさは,3つ合わせれば90°になるってことで,90÷3=30,30°です.大きいほうの角は,小さいのを2つ合わせればぴったりになったので,30×2=60で,60°です.だから(三角定規一つだけを手に取り),この三角形の3つの角の大きさは,90°と,30°と,60°.足すと,90+30+60=180で,180°になります」
3人とも,三角形の3つの角の大きさを足すと180°になる説明をしてくれました.ここでちょっと意地悪に,それぞれの答え方の欠点を,探ることにしましょう*8
Aさんの答え方の欠点は,折り曲げられる三角形を用意しないといけないことです.またこの方法では,一直線(180°)に見えるけれど,本当に180°なのかというのを確かめるのが,難しいようにも思えます.
Bくんの答え方は,ちょっと小学生離れしています.とはいえ一応,小学校の5年生で教わる範囲の知識で説明しています.私立中学の受験勉強をしているのでしょうか.そうでなければ,こういう説明の仕方を誰か(どこか)から教わったのかもしれませんし,当てられるというので事前に準備していたのかもしれません.
Cくんの答え方はというと…その三角定規については,3つの角の大きさの和が180°となると言っていいのですが,どんな形の三角形でも,より具体的に言うと,ある角の大きさが他の角の何倍として表せないようなときに,3つの角の大きさの和が180°になることまでは,説明していません.
余談ですが,《算数解説》p.184では『三角形の三つの角の大きさの和が180゚になることを帰納的に考え,説明する活動』と書かれており,そことその次のページとで,帰納的に考えることの意味や方法例を紹介しています.またhttp://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/h21/03shou-san/jyugyou/documents/kaku02.pdfに,授業例があります.
Bくんは,演繹的な考えに見えます.先ほどの言い換えになりますが,Cくんの答えに対して「じゃあ,この三角形だとどうなる?」と,適当に描いた三角形を渡すと,にっちもさっちもいかないように思えます.

7. 配り方にこだわってかけ算の式を立てるのは止めるべきである

いきなりですが問題です.

15個のりんごを,5人に,同じ数になるよう配ります.配り方は何通りありますか.
注意:人は区別しますが,りんごは区別しません.受け取る個数は単調に増加します.すなわち,1人目に2個与えてから1個取り上げる,といったことはありません.

15個のりんごを,3人に,同じ数になるよう配ります.配り方は何通りありますか.
注意は上の問題と同じです.

大人のトークですので,nCm(wikipedia:組合せ_(数学))や,場合の数の積の法則を活用します.
15個のりんごを,5人(A,B,C,D,E)に,最終的に3個ずつになるよう配るとき,D,E,A,A,B,C,D,B,B,E,C,A,E,D,Cの順に1個ずつ渡すというのは,配り方の一つです.E,D,A,A,B,C,D,B,B,E,C,A,E,D,Cの順に1個ずつ渡すというのは,また別の配り方です.この2つの例ではいずれも,Aは,3番目,4番目,12番目に受け取っています.
これをもとに,配り方は何通りになるか,考えていきます.まずAが何番目と何番目と何番目にもらうかの組み合わせは,15個の数から3個を,順番の違いを区別せずに,取り出す組み合わせと等価ですので,その場合の数は15C3通りです.
そのそれぞれに対して(もしくは,Aが何番目にもらうかの組み合わせを取り除き,小さい値から順に1〜12と振り直す,とするのでもいいでしょう),Bが何番目と何番目と何番目にもらうかの組み合わせは,12個の数から3個を,順番の違いを区別せずに,取り出すことになりますので,その場合の数は12C3通りです.
CとDも同様で,Eは選びようがないので(もしくは3C3と書けますが,もちろんこれは1です),全体としては,15C3×12C3×9C3×6C3通りとなります.
同じように考えれば,15個のりんごを,3人(A,B,C)に,最終的に5個ずつになるよう配るという配り方の総数は,15C5×10C5通りです.
それぞれ,計算してみましょう.Rubyで,nCmを関数として定義してから,計算・出力します.ワンライナーでできます.

ruby -e "def C(n,m); (1..m).inject(1){|r,i| r*(n+1-i)/i}; end; puts C(15,3)*C(12,3)*C(9,3)*C(6,3)"

の結果は168168000で,

ruby -e "def C(n,m); (1..m).inject(1){|r,i| r*(n+1-i)/i}; end; puts C(15,5)*C(10,5)"

だと756756となりました.

以下,列挙においてカンマは書かないことにします.5人(ABCDE)に3個ずつ配る方法として,AAABBBCCCDDDEEEもABCDEABCDEABCDEも,168168000通りの中の1通りずつです(ここで人を区別しないとしても,5の階乗,すなわち120通りずつにしかなりません).3人(ABC)に5個ずつ配る方法として,ABCABCABCABCABCもAAAAABBBBBCCCCCも,756756通りの中の1通りずつ(人を区別しないなら,3の階乗,すなわち6通りずつ)です.
3行5列に丸を並べたアレイ図を考えると,「5人に3個ずつのAAABBBCCCDDDEEE」と「3人に5個ずつのABCABCABCABCABC」,「5人に3個ずつのABCDEABCDEABCDE」と「3人に5個ずつのAAAAABBBBBCCCCC」が,それぞれ同じ丸の描き方になります.ABC...とする配り方は,言うまでもなく,トランプ配りに対応します.
これら2種類は,整然とした配り方と言ってもいいでしょう.しかし,整然としていないけれど最終状態は同じになるような配り方が,比較にならないくらい圧倒的な数,存在します.なので,特定の配り方にこだわって乗算の式を立てるというのは,作為的であり不自然に見えます.三角定規を持ち出して内角の和が180°であると言うのと同様に,問題文から想起できるいろいろな事例のうち,限定された場面にしか対応していないのです.
別の観点から言うと,『さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。』という《問い》に対して,さまざまに考えられる「配り方」*9よりも,問題文から読み取れる「配られた状態」に着目して,式を立てるのが,誤解されにくい解き方となります.
余談ですが,「5人に3個ずつ」と「3人に5個ずつ」で,配り方の総数が違うのは,例えば最初の例に挙げたDEAABCDBBECAEDCとEDAABCDBBECAEDCが,3人に5個ずつの配り方では---アレイ図に基づき,「誰が何個」を使って途中状態をあらわすと---同一視されることによります.

8. お菓子でかけ算

上に書いた,配り方に焦点を当てた検討をするきっかけとなった情報を,挙げておきます.

板書計画(p.4)で,《BA型》が見られます.またチャレンジ問題(p.5)は,トランプ配りを連想します.
もちろん前者においては,「5×4=20」が期待される正解です.後者は,式を立てるのではなく,問題文中に書かれている式「4×5=20」から,その考えを日本語にあらわすということが求められています.
どこかの掲示板だったか,ブログのコメント欄だったかで知ったURLでして,そこでは確か,乗法の交換法則を認めたものだと,書かれていたと思います.
しかし,チャレンジ問題を解いた後で,板書計画の出題に立ち返り,そこで「4×5=20」という式が認められるかについては,考えてみたいところです.
といっても,当雑記の去年11月までの情報をもとにすれば,トランプ配りの知識があったとしてもやはり,「5×4=20」と「4×5=20」を比較し,「5×4=20」を解答できるようになるのを望むところです.また本日のエントリの議論をもとにすると,「4×5=20」は不自然な作為(出題状況の限定)を入れることで解いており,そうでないシチュエーションであったときのことを考えていない,とも言えます.
もう一つ,チャレンジ問題の図と状況で,「5×4=20」と言っていいのかというのも,検討の余地があると思います.これについては,末の子が小学校を卒業しても,私はかけ算のことを考えているのだろうかの中で書いた,利用可能な方法の間での衝突であり,出題状況から知り得る暗黙の優先順位を使って,「4×5=20」がよりふさわしいと言えます.そして,視点を枠囲みに変えれば,優先順位が変わるわけで,今度は「5×4=20」となります.このようにして考えた上で,この事例において乗法の交換法則を説明するのは,別段問題となりません.

9. 水道方式とTOSSとの接点

『かけ算には順序があるのか』を読んだ コメントが長くなり,正直,困惑しています.
こちらが望むのは,ブログに書いてトラックバックを送っていただくことですが,まあ高コストではあります.
今後コメントを書かれる方には,そのうちこちらは気まぐれに,コメントの削除やシャットアウトを行うかもしれないことを,お含みおきいただきたいと思います.
それはともかくとして,TOSSと水道方式の関連について,目についたのを挙げておきます.

コメント内の「水道方式との決別」は,最初の項目(書籍紹介)に,書かれていました.
しかし,接点が得られたわけでは,ありません.
まあ暇なときに,『授業の復権』を手にとるとします.

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110604/1307134769

*2:引用者注:「何通りあるか」という指定が抜けているように見えます.

*3:念のため初出を書いておくと,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110413/1302644721

*4:『おかしの はこが 3つあります 1つの はこには、おかしが 5こずつ はいっています みんなで なんこに なりますか』

*5:小問の中にも,低い正答率になってもよいような問題をあえて置いています.妥当な平均点および不合格者数になるような調整は,何年も試験問題を作っていく中で,慣れてきました.

*6:研究の話になりますが,論文誌で,投稿されたのが全通しというのでは,たとえ神の視点で,投稿されたのが掲載に値するものばかりであったとしても,現実としてはその信頼性を疑わざるを得ません.

*7:野暮な解説ですが,ここの「例えば」は,乗法の導入で使用される用語は,教科書・書籍や学校現場でいろいろあるだろうけど,ここではこのように限定させてもらいますんでよろしく,という意味です.

*8:関連:二者択一のための二つの発想法.といっても,3人の説明の中から,どれか一つを選択したいわけではないのですが.

*9:整然・でたらめを含め,どんな配り方でも,それと最終状態が等価なトランプ配りが存在することを示すというのは,どうでしょうか.大人の目では,それは証明するまでもないことかもしれませんが,小学生にはどう伝えるのがいいでしょうか.さらに言うと,ここまでの議論では,全部をぶちまけて,それからみなが同数になるように加減する,という配り方を無視しています.