1. 板書で見る,乗法の導入
板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉
- 作者: 夏坂哲志,筑波大学附属小学校算数部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
なのですが,私は笑いが止まらない本でした.しばしばブログで見かけるのは,トンデモに位置付けられる本を面白おかしく解説するものですが,今回の本の内容は決してトンデモではなく,これまでの算数教育を踏まえるとまっとうなものです.表出したのは笑いだったのですが,内面としては,beatmania IIDXのstoicの後半,トランス状態(?)が近そうです.
それはそれとして,かけ算の指導に関して興味を引いたページとメモを書いておきます.
- pp.24-25(いろんな場面をかけ算の式で表す):問題は8個.いずれも図による《B型》です.その次の2ページで,配置にも意味がある(ランダムな数の積ではない)ことを知って,二度びっくりです.
- pp.38-39(5の段の九九を構成する): 《AB型》の問題があり,「5×3=15」と「3×5=15」の比較をしています.
- pp.42-43(3の段の九九を構成する): 《BA型》が初めて登場します.「8×3」は現れません.『ヨットが8そうあります.同じ人数ずつのっています.ぜんぶで何人いるでしょうか』という問題文から始まり,人数は,ヨットを描いた後で与えられます.3の段なので3人です.3×8=24(や他の計算方法)を出したあと,ヨットの数を変えます.
- pp.46-47(4の段の九九を構成する): 『自動車が5台あります.タイヤの数はいくつでしょうか』と,文章題での《B型》を提示しています.「5×4」ではないことを,図,サンドイッチ,「4×5」との比較により,確認しています.「五輪車が4台」が,いい味を出しています.
- pp.48-49(場面を正しくかけ算で表す): 問題は,『4本の木に,それぞれ5こずつリンゴがなっています.リンゴはぜんぶでいくつでしょう』.「5×4が正しいと思うわけ」と「4×5が正しいと思うわけ」を書いていますが,実際には児童の発言として引き出すのでしょうね.トランプ配りや,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110421/1303333162の船長さん他,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110618/1308342001のお菓子でかけ算に相当するものとして,4本の木それぞれに5種類の花という,「ふしぎな花のさく木」が描かれています.特殊なケースなのが見てとれます(逆に「一般的な状況はどうか? そしてどんな式になるのか?」を考えることもできます).
- pp.53-54(6の段の九九を構成する):三角形の1ダル,菱形の2ダル,台形の3ダル(初出はp.34)の意味が,ここで明かされます.
- pp.56-57(7×4の積の求め方を考える): アレイ図で,式には「7×4=28」「4×7=28」が並んでいます.両方書くべきか,一方だけでいいのかは,分かりません.
2. 金額は同じ
証券会社の社員が,1株61万円で売る株を,1円で61万株を売るという誤発注を出し,株式市場が混乱するという事件がありました.(略)証券会社の事件も関係があるかもしれない,と思えてきます.
(略)
末の子が小学校を卒業しても,私はかけ算のことを考えているのだろうか
あえて接点を探ると,「1株61万円でも,1円で61万株でも,どっちも61万円だ」でしょうか.
先日のエントリを書く中で,関連するものが見つかりました.(引用するにあたり,改行を取り除いています.)
そして単位が付いている世界でも、3万円は入っている袋を5つもらっても5万円入っている袋を3つもらっても、もらえる金額は同じだということをすぐに理解できないようだと困ります。単位が付いている世界での掛け算の交換法則を何らかのくだらない精神的プレッシャーによって習得できなかった子どもは一生苦しむことになるでしょうね。
かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである A48
個人的にはこの発見でじゅうぶんなのですが,それでも,野暮を承知で思うことを書くと,証券会社の件では,単価・株数・価格のチェックを---例えば計算機の補助を得て,常識的な範囲よりも上や下のときには警告を表示して,続行するかキャンセルするか選ばせるように---して,それでも発注してしまったら発注者の責任,とせざるを得ないでしょう.
「3万円入っている袋を5つ」と「5万円入っている袋を3つ」もらう場合の比較について,まず,小学生にとっては現実離れしたシチュエーションのように思えます.大人の世界では,結婚式のご祝儀,葬式の香典あたりが思い浮かんだのですが,いずれにおいても,誰からいくらもらったかのリスト(順序のある要素の並び)を作成することになりそうです.袋からお金を取り出して勘定するのと別立てで総額を求めるのに,かけ算は有用ですが,その状況では「○円入っている袋を△個」がいくつかあると考えられます.順に書き,かけ算と足し算で内訳を記して総額を算出するとなると,「どっちでもいい」では混乱のもとです*1.「○円×△件」か「△件×○円」かは定かではありませんが,domain-specificな書式*2をとるのが自然です.
3. 5×3をめぐるお話・第1話へのツッコミへのツッコミ
先日,当雑記からリンクさせてもらい,コメントをいただいた方が,当雑記をご覧いただいた上で,いろいろ書いてらっしゃいます.敬語が変か.
以下,引用の先頭に「(平成23年6月…)」とあるものは,上記ページからのものです.
(平成23年6月16日)
徳保的算数では、先に確定した数を被乗数にするのだから、3人が先に確定しているなら3×5、5個が先に確定しているなら5×3になる。3が「人数」なのか「1人あたりの個数」なのかという話であって、つとめて国語の問題。
個人的には演算決定の問題*3だと認識しています.もちろんそれなりに国語力も必要ですが,基本的には算数です.
「先に確定した数を被乗数にする」場合,式から場面を求める問題が大丈夫なのか,気になります.これまで書いてきた例のうち,
(「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと-逆BA型? より孫引き)
や,
〔問題〕8×6のもんだいをつくりました.よいものに○をつけなさい.
(1)( )みかんが一つのおさらに8こ,もう一つのおさらに6このせてありますが,みかんはなんこありますか.
(2)( )えんぴつを6本かいました.このえんぴつは1本8えんです.いくらはらえばよいですか.
(3)( )1まい6えんのがようしを8まいかいました.いくらはらえばよいですか.
(『かけ算には順序があるのか』を読んだ-交換法則を学べばどちらでもよい より孫引き)
といった出題です.
(平成23年6月16日)
たぶんtakehikomさんが仰りたいのは、1人あたりの個数を被乗数にする、というルールがもっと絶対的なものだったとしたら、そのルールから「5×3=15」の5の意味が、この場合においては確定するじゃないか、だからこんな詐欺は起こりえず、いったいわないの水掛け論に陥らずに済む、ということでしょう。
15こあればいい,じゃあないんだよねで書いた当時はだいたいそんな認識でした.ですが,5×3をめぐるお話・第1話においては,少々変わっています.行き着いたのは,あのお話に,以下の3種類の式が含まれているという点です.
「/ (per)」付きの単位を入れて,式にすると,次のようになります.
5×3をめぐるお話・第1話を余談で話す
- 1回目の「ごさんじゅうご」:5個/人×3人=15個
- チョコレートを配るとき:5個/回×3回=15個.この式からは,一人につき何個受け取ったかが見えない.
- 2回目の「ごさんじゅうご」:5人×3個/人=15個
そこに至るまでに,『かけ算には順序があるのか』の影響を受けましたし,「長いメッセージ(問題文)を簡潔なハッシュ値(式)に変換すること」というハッシュ関数の考えもあってのことです.
同じ月の他の日付の中にも,気になるものがありますが,今回はここまで.
4. [休憩][親馬鹿] 算数の本,図工の本
本日最初に取り上げた本を購入したのは,イオンモールりんくう泉南の中にある旭屋書店です.
イオンへは妻と長女とともに行き,昼食後,自由行動として,こちらが長女を預かって,書店に入りました.
それで教育書の棚で,本を取り出して開いて元に戻すの繰り返しをしていたら,長女も,隣の棚で,おんなじことをしていました.
「今日は…これにするかな.うえの子よ,ほな行くぞ」
「…」
「何や,本を持って.それ,ほしいんか?」
「ほし!」
「どれどれ.へえ,写真いっぱいで,楽しそうやな.…なんと,このページ数で,2千円するんか!」
「…」
「お前の眼ぇに負けた.よっしゃ,買うたるゎ」
ということで購入したのが:
- 作者: 山本和子,あさいかなえ
- 出版社/メーカー: チャイルド本社
- 発売日: 2008/05/01
- メディア: 大型本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
帰宅して,娘3人が昼寝しているとき,妻がさっそく,片面はカッパ,もう片面はオバケのうちわを作っていました.
5. 修正《BA型》
乗法の文章題の分類について,考え直します.基本は
- 《AB型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
- 《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
の2つで,あと,
- 《B型》:文章題で,Bに関する記載はあるが,Aは問題文以外からその値を定め,A×B=Pの形で式を立てることが期待される問題.
も見かけます.ついでに,
- 《AA型》:文章題で,A,Aの順に数が現れ,A×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.式からは,「一つ分の大きさ」「いくつ分」の区別ができているかを知ることはできない.
というのも考えたことがあります.《AA型》はあまりにも特殊なので除外し,《AB型》《BA型》《B型》を見てみると,かけ算の式が,《BA型》だけ違っていることに気づきました.それを合わせるのは,次のように定義をすればよさそうです.
- 修正《BA型》:文章題で,B,Aの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
《BA型》と修正《BA型》は等価です.しかし文章を書くときに,「A×B=P」「B×A=P」といった式も使っていまして,そういうときは式の置換が必要となります.例えば
「6×4=24」と解答した唯一の学生,《BA型》の文章題bでは,B×A=Pに対応する「5×3=15」を書いたのでしょうか,それともこっちは,A×B=Pに対応する「3×5=15」だったのでしょうか.しかしこれは私個人の興味であって,あいにく論文での関心は,正答率の比較に向けられています.
もう少し,書きむしるか
は,『「6×4=24」と解答した唯一の学生,修正《BA型》の文章題bでは,A×B=Pに対応する「5×3=15」を書いたのでしょうか,それともこっちは,B×A=Pに対応する「3×5=15」だったのでしょうか.しかしこれは私個人の興味であって,あいにく論文での関心は,正答率の比較に向けられています.』となります.
過去の誤記に目を閉ざす者はでは,2つのトピックの中で,《BA型》やABPによるかけ算の式を書いていますが,それらも書き換え可能です.
6. 『量と数の理論』を読んだ
- 作者: 田村二郎
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 1978/12
- メディア: ?
- この商品を含むブログ (9件) を見る
読み進めていき,BackLog ISHAで取り上げられている*4記述に,違和感を覚えました.
例.われわれが‘メートル’というのはメートル原器の長さである.ふつうはこれをmで表す.
メートルの2倍は---いま述べた記法によれば---
2m または m×2
と書かれる.しかし小学校では,あとの書き方を許さない.
この長さの3倍は,
3(2m) または (m×2)×3
と書くことができる.しかし小学生たちは
2m×3
と書くことを強制されている.この書き方は‘混合式’である;2は左から掛け,3は右から掛けている.この不統一にだれも気が付かないのはふしぎである.---
(p.18)
ふつうは,メートル原器の長さを「1m」と書き,「m」はその単位とみなします.“いま述べた記法”に基づけば,日常「1m」と書かれるものは,「m」となる,というのであれば,とくに問題にはなりません.
最後の文の“不統一”についても,小学生の計算なら「2×3=6 答え6m」もしくは「2m×3=6m」になるのだろうし,その本の筋書きでは「2m×3=(m×2)×3=m×(2×3)=m×6=6m」となる(ただし倍変換の合成はp.20)ので,不思議なところがないように思います.
このページを除けば,スムーズに読んでいくことができました.負の数,ベクトルや複素数,そしてデデキントの切断に基づく実数の作り方も,読んでなるほどの内容でした.参考文献は決して多くありませんが,その中から,また古書探しをして読みたいなと思う本も出てきました.
ともあれこの本の内容は,「数」がわかる本の「かけ算の順序」や「量」と,相通じる面があります.宮下氏の文章をどうも信頼できず,数学の本を読むのは苦としないという人は,取り寄せて通読することをおすすめします.
7. 『授業の復権』を手に入れた
- 作者: 森口朗
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/03/01
- メディア: 新書
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
飛ばし読みをし,水道方式の第二章,法則化の第四章はそれなりに目を通しましたが,「書評する気になれない」というのが所感です.
8. Re: その後「×」から学んだこと
その後「×」から学んだことをリリースしてから,「14. 3×5=15と書いたからといって,かけ算の意味を理解しているとは限らないのでは?」を追加しました.またこれと毒編の各項目の末尾に,「関連」として雑記内リンクをつけました.
「×」を基点に書いたことの配列を変更しました.「コア」に属するエントリを減らしています.
(翌日いろいろ書き換えました.)
*1:ルールを決めればこっちのもの-5×3をめぐるお話・第4話
*2:domain-specificについては『かけ算には順序があるのか』を読んだの中で書いています.
*3:problemというよりはissueです.
*4:ISHAのエントリのほう,前半部分については知識がないので,まあそういうことですか,なのですが,最後の文,「ディック・ストールマン」はちょっとなじみではなく,単にストールマンか,RMSかなと思います.