わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

乗法宝探し

1. 7の段,8の段,9の段と1の段

事例紹介です.

(2) 子どもが 3人 います.カードを 1人に 8まいずつ くばると,カードは ぜんぶで 何まい いりますか.
(小学できるできるドリル 算数2年, p.38)

なお,カッコ囲みの数字は原文では丸囲みです.以下も同様です.
問題文のあと,いわゆる答え(何まいか)を書くための大きめのカッコと,それと別に「しき」を書くスペースがあります.
明らかに《BA型》です.念のため正解を見ると,p.59で「8×3=24 24まい」とだけ書かれています.
これが「解答例」だったら,「3×8=24」も正解とする余地があるので,もう少しページを戻すと,p.53上部に「答えとてびき」とあります.p.58の解説の中に,p.31の解説として「かけ算の意味をつかみ,式に表します.(いくつ)が(いくつ分)というように,基準量の何個かを考えます」,またp.59にも,p.39の解説として「(3)1人に1個配るので,9×1はまちがいです」と,書かれています.
pp.37-39の文章題(いずれも解答はp.59)を,順に見ていきます.p.37の(4)が,この問題集での《BA型》の初出と思われます.そして,p.37の文章題3つは,式がいずれも「7×?=?」の形に,p.38の文章題4つは,式がいずれも「8×?=?」の形になります.
なので,「あれ? なんで3×8じゃなくて,8×3なんだ? …そっかここは,8の段の学習なんだ」と,児童や保護者が勘違いするといった展開が予想されます.
その誤解を起こさない役割を果たしているのがp.39で,ここは9の段と1の段なのですが,文章題の(3)は1の段*1,(4)と(5)は9の段で式を表すことが意図されていて,結局のところ「(いくつ)が(いくつ分)」に注意して見直すことで,かけ算を式にする際のルールが確認できるわけです.
毒ですが,こういう既存の出版物をもとにした教材研究,そして教材開発は,順序否定派を自認する人こそが実施し公開して(もちろんつまみ食いの引用には反証が待っているわけですが),教育方法を改善していってほしいものです.

2. 机の数をかけ算で求める問題で,正解が一つというのはおかしい

これが,もし,つぎのような問題だったら,どうだろう.「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」という問題では,4×6でも,6×4でもいいとせざるをえないだろう.
(遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年), p.116)

この問題に4×6と立式する人は,ずいぶんひねくれている上に,問題文から,何が「1つ分の大きさ」で,何が「いくつ分」になるかが読み取れなかったと判断せざるを得ません.

2冊 - わさっき

これと机のかけ算を合わせて読み直すと,我ながら,主張がよく見えません.過去に作った図を活用しながら,整理してみることにします*2
まず,全体図を示しておきます.

そして,かけ算でよくイメージされる,机(アレイ図でもいいのですが)のかけ算の出発点は,この状態です.

そこに,「一つ分の大きさ」になるものを2種類見出して,前掲の全体図を頭の中で構成し,式としては「3×5=15」と「5×3=15」の2つがおそらく正解となります.
次に,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という問題を考えます.この問題を図にする際の起点は,これです.

「一つ分の大きさ」が「3こ」,「いくつ分」が「5」です.もし「5」に単位をつけるなら,「まい(枚)」ではなく「ばい(倍)」のほうが適切であるように思います*3.答えを至るまでの流れは,次のとおりです.

新たな問題を考えます.「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のるよう、トランプくばりで のせて いきます。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」に対して---トランプ配りは解答者にとって既知とします---,答えを得る流れは,例えば次のようになります*4

このとき,「一つ分の大きさ」は「5こ」,「いくつ分」は「3」です.3つが5つある図もあるのは,「さらが 5まい あります」をあらわしておくためです.
最後に,遠山啓が示した,「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」だとどうなるかを考えましょう.と言いたいのですが,これまでの数値に合わせ,「教室の机は1列に3つずつ5列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」とします.解き方は,下のとおりです.

りんごの(最初の)問題を解くのと同じ図です.というのも,問題文に,「一つ分の大きさ」と「いくつ分」の数量が明記されているからです.
全体像を使う問題に,話を戻します.起点となる図を与えて,2種類(またはそれより多い種類)のかけ算の式を書かせるのは,現在でも多くの問題集で目にすることができます.『算数好きにする教科書プラス坪田算数ワークブック2年生 (TEXT BOOK PLUS)』p.89に問題が,p.179にその解答例と解説があります.
積が15の場合,3×5と5×3の2通りが基本となり,したがってその二者択一が問われやすくなります.積が24の場合,4×6と6×4のほかに,3×8や8×3,2×12や12×2というのも考えられ,出題や解答のバリエーションが増えることになります.
そして,その種の問題を通じて得られるのは「一つの数をほかの数の積としてみるなど,ほかの数と関係付けてみること」と「乗法に関して成り立つ簡単な性質を調べ,それを乗法九九を構成したり計算の確かめをしたりすることに生かすこと」であり,「乗法に関して成り立つ簡単な性質を調べ,それを“式で表したり,その式をよんだりすること”に生かすこと」*5ではない点には,気をつけたいところです.

3. 「ボートで、かけ算」改訂

http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110301/1298990744に書き足したとおり,昨日,PDF文書「ボートで、かけ算」を改訂しました.
主な目的は,「かけ算の順序」という言い方に対して注釈をつけることです.まあついでに,ご案内の文章に手を加えたり,URLをハイパーリンクにしたり,箇条書きの項目間を少し詰めたりしました.はてなのファイルのリンクはどうもうまくいっていないようなので,Googleドキュメントで共有(ウェブ上で一般公開)しました.
本文ですが,1箇所だけ変更しました.

しかし、図と式を結びつけることは、できません。

しかし、図と式を結びつけることは、必ずしも、できません。

としています.しかしこれでも,明快になったとは言えません.
もともとそこに書いた意図は,「解答のための状況を定めたとしても」図と式を「一対一の関係で」結びつけることは,必ずしも,できないということです.
部分否定ですので,ある解釈者(テストの場合,採点者)にとって,書かれた式から,イメージできる状況がちょうど一つに定まることは,あります.そしてそれが題意に合っていて,計算間違いなどもなければ,マルであり,題意に合っていなければ,バツあるいは減点になるといった次第です.

4. 休憩

  • Q: 3人に5個,5人に3個の説明で,何を言いたかったのでしょうか?

(略)
これは,かけ算の式で書いたときに,どちらが「1つ分の大きさ」で,どちらが「いくつ分」かについて,取り決めがあることを示すためのものです.取り決めに対する理解が不十分で,かけ算の交換法則が意識として先行する子どもには,効果的な例だと思います.

「×」から学んだこと - わさっき

(略)そのときの意図は、かけ算の式で書いたときに、どちらが「1つ分の大きさ」で、どちらが「いくつ分」かについて、取り決めがあることを示すというものでした。取り決めに対する理解が不十分で、2つの数をかければ答えがでるという意識が先行する子どもには、効果的な例だと思います。
(小話集*6, p.8)

5. メタメタさん

気心がじゅうぶんにわかっていると言いがたい方の人物名をどのように書くかは常に悩むところです.メタメタの日では「ニックネーム:メタメタ・セブン」となっていますが,『かけ算には順序があるのか』のあとがき(p.118)に「メタメタこと高橋誠」とありますし,一度当雑記にコメントをいただいた際のお名前も「メタメタ」であることから,メタメタさんと呼ぶことにします.
何かというと,以下の記事です.

朝日新聞をとっていますので,古新聞入れから取り出し,読みました.なお,現在はWebでもアクセスできます.

「思想史的な問いかけ」と書かれてもピンと来ないので,Googleから調べてみると,wikipedia:思想史や,教育思想史学会を見つけました.『近代教育フォーラム』のコロキアムに,「かけ算には順序があるのか」が入っても良さそうな気がします.「かけ算の順序」という言葉で,その学会の人だけでなく,教育に携わっている人のうち,どのくらいが理解・関心を示すかは分かりませんが.
それはさておき,改めて『かけ算には順序があるのか』の第一章までを読み直してみると,結局この本で取り扱っているのは数学でも数学教育*7でもないということなのか,と思ってしまいました.
言葉だけを見ると,数学や,数学教育への言及があるのが分かります.またmixiの「算数「かけ算の順序」を考える」というコミュの副管理人であることも,著書あとがきから知ることができます.何に不満を覚えるのかというと,『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』にある,乗法の意味に関する論説が,執筆時点でアンテナに引っかかっていなかったのかという点です*8
ところで,その書評,そして著書読み直しによって,メタメタさんと自分との,立脚点の違いを確認することができました.時間の都合で自分のことだけを書きますが,りんごの問題を目にしてすぐに,以下の流れが,頭の中に浮かんだのでした.

1. 小学校2年生の教室です.算数の授業で,まず「1つ分の大きさ」×「いくつ分」が「全体の大きさ」になるとして,乗法の式の表し方を,説明します.具体的な問題で先生が実演します.
2. 児童に『1さらに りんごが 3こずつ のって います.そのような さらが 5まい あります.りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう.』のような質問文を与え,何問か解かせます.ほぼみな,「3×5=15」と書くでしょう.
3. そして次の算数の授業あたりで,画像の《問い》を解かせます.これは,「数字の現れる順番に書いて,間に×を置いて,『5×3=15』と書いてはいけないんだよ,ちゃんと『1つ分の大きさ』×『いくつ分』として式にするんだよ」という出題意図です.教室で解かせたら,「しき」の誤答率がかなりあることでしょう.そして,返したあとに,先生がなぜ「5×3=15」では間違いなのかを教えます.
4. この答案用紙をおうちで見た親御さんが,「3×5も,5×3も,一緒じゃないか.どうよこれ?」と思ったか何かして,デジカメで撮り,トリムして,インターネット上にアップロードしたのでしょう.

「×」から学んだこと

ただしこれを書いた時点では,書籍はろくに読んでいませんでした.その後,書店に足を運ぶようになり,1〜3の流れを確認しました.もっとも顕著なのは『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』の2冊です.
合わせて,「児童が,かけ算というものを理解し,適切に使えるようになるには,どのような学習が必要か.どの時点でどんな問題を解き,習熟を図ればいいのか」という問題意識を持つようになりました.そして,研究において集中的な文献調査によって,対象とする問題とそれへの既存のアプローチを学ぶのと同様に,問題集を複数読んでそこから得ればよいということ,あともう一つは「形成的評価」*9が大きな鍵を握っていることを,理解しました.
話は変わりますが,「わだいのたけひこさん」という呼称は勘弁してください.

6. テトさん

つづいて,面識はないのですがどうもWebを見ると「テト」というお名前で結びつけられているらしいんで,そない書かせてもらいまっさ.勝手言うてごめんやで.

これについては

takehiko 取り上げていただき感謝/引用部は一種のセールストーク/p.146を見直してみると面白いことが書かれていたので要検討

http://b.hatena.ne.jp/takehikom/20110709#bookmark-50228754

と,はてブをしました.「一種のセールストーク」というのは,『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』の当該箇所,それと同書pp.104-110から,次のことが読み取れるからです.

  • 児童にとって,小数を含む乗除算の理解・習得は難しい.
  • 水道方式(数学教育協議会)では,倍概念のかけ算定義が提案され活用されてきた.
  • それに対抗するツールとして,比例数直線が考案された(学習指導要領解説にも載っている).
  • しかし,1より小さい数を除数とする除算に対しては,良い手法とは思えない.
  • そこで,4マス関係図を考案した.本書を通じて多くの人の実践(普及)を期待したい.

この各ステップには,要検証のものが多数あります.「その理由の内実は少しずれているようです」は共感できます.そこについては,船が5艘あります.1艘に4人乗りますで検討したとおり,話し言葉を文字にしたことが影響していると思っています.少々悪意を持って読むなら,「水道方式なんてメじゃないね」という意識も現れているとさえ言えます.
あと,孫引きそのものを非難するつもりはありませんが,引用部の切り縮めにより,p.146だけになる点は,指摘しておきます.(おおきに:孫引きお詫び | TETRA'S MATH

7. 田中博史氏も,かけ算の順序にこだわらない?

それでそのp.146,真ん中にすごいものを載せているのに,気づきました.

何かというと,

  • 1mが200円の長ネギがあります.3.5mだといくらでしょう.

という問題に対して,もちろん通常の理解は「長ネギは長さ単位で売りません」ですが,それはさておき,式は200×3.5=700であり,答えは700円となります.
しかしこの図は,3.5×200=700という式でもいいんですよということを意味しています.
とはいえその考え方は大問題です*10.「3.5×200倍? 3.5のほうに単位がないぞ.3.5m×200倍とすると,答えは700mになるの?」というのは,最初に思いつくツッコミです.
直後に書かれているとおり,「この段階では単位を除いて,数の関係だけで関数的に考えるようにしていくわけです」という補足によって,一応意図が理解できます.もちろんそれでも気になるのはあります.200倍の「倍」は取り除けないのかとか,200を比例定数とみなすのなら,得られる関係式はy=200×x*11であってy=x×200ではないのではないかとか.
出現ページや記述内容からして,これは今後の展望について述べたものと思われます.このように表を縦方向に見て式を立て,問題を解くことが,田中氏の思いつきだけでなく教員ネットワークの共通認識にとどまることなく,学校教育の場でどのように活用されるかについて,Web上でかけ算の論争に関わる中で同書をたびたび紹介してきた者として,ウオッチしていきたいと考えています.

8. 「乗法宝探し」とは

本日のタイトル,「乗法宝探し」ですが,もちろん「情報」の宝探しと,「乗法」を掛けたものです.
公表された著作物を中心に,先人の書いた中から「宝」を見つけ,自分のものにするわけです.ただし,独占ではなく,情報のコピー*12となります.
そうして宝物を見つけてレポートするのは,RPGの攻略に似ているなと思っています.ただ,RPGについて現在,様々な形態がありますが,以下書くのは,ドラクエポケモン,それとTRPGの知識をもとにした,少々古くさい言説かもしれないことにはご留意ください.
本,論文・論説,そしてWebページのそれぞれが,「宝箱」です.宝箱の中には,読者によって様々に変わる質と量の「宝物」すなわち知識が入っています.
書籍などの購入,Webページなどへのアクセスは,洞窟か何かの攻略です*13.そしてどの本の何ページに何が書かれているというのは,宝箱の中から価値のある宝物を見つけるための手順を示しているのに対応します.また,別の文献やエピソードを提示するのは,そこにあるアイテム*14そのものでは機能せず,他のアイテムと一緒に持つか使うかすることで,効果を発揮することをあらわします.
知識としての宝物は,じっくり目にする余裕のある環境において,その価値が見直されます.選別されて,新たな情報発信すなわち宝箱の中に(コピーにより)収納され,のちに訪問者がその箱を開くことになります.
宝物は,コピーされるだけではありません.一つもしくは複数の情報=アイテムが,精錬されたり合成・強化されたりすることで,新たなアイテムとなります.新種の発見や作り方に,関心を持つ人もいます.

私は,乗法の意味理解をテリトリーとする,1人の,そしてまだまだ一人前とは言いがたい,トレジャーハンターです.
(翌朝あちこち書き換えました.)

*1:問題文は「1人に ケーキを 1こずつ くばります。9人ぶんでは 何こ いりますか」.ということで式が「1×9」なのか「9×1」なのか,子どもに比較検討することも可能です.

*2:雑報その2の「出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式がいずれも正解になります」に関する,図による説明でもあります.

*3:合わせて,3個の小丸を囲む角丸四角形は,皿というよりは,「一つ分の大きさ」を明確にするための囲い込みとみなすのがよさそうです.

*4:この図は,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という問題に対し,『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』p.15で引用されている,森毅の解き方を援用した構図でもあります.

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110520/1305837939

*6:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110711/1310315275

*7:「算数」は「数学」に含まれるものとして.

*8:目にした上で,「かけ算の順序」という言葉の数学教育における妥当性・正当性を見直すことができなかったら,そこが一つの境界線になるのかなと思います.

*9:その後「×」から学んだこと・毒編

*10:「かけ算に順序がある」という者から見た「大問題」ではなく,小数の乗除算,4マス関係図による解き方に習熟した者が,この「倍のしかた」を見たとき,それまでの知識との整合性を図るための手間・労力が避けられないという意味です.

*11:《算数解説》p.207.ただしこの文書に「比例定数」という言葉は見当たりません.

*12:「図書館の資料については,利用が主となる.(使う人にとって)本は実物がなくても,コピーして,内容が読めればいい.」, 大阪へ

*13:「3行で挫折」は,最初のモンスターに歯が立たない状態であり,「積ん読」は,洞窟などの入口までたどり着いたけれどそこから入り込まないようなものです.

*14:宝物の集合は,アイテムの集合に真に含まれます.言い換えると,宝物はアイテムですが,アイテムだからといって宝物であるとは限りません.