わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

右ローテートとトランスポーズ

1. 右ローテートとトランスポーズ

いきなりですが問題です.

以下のそれぞれについて,(a)の画像から(b)の画像を作りなさい.

(1)
(a)

(b)

(2)
(a)

(b)

(1)のほうは,簡単です.画像を90°,回転させればいいのです.左でも右でもいいでしょう.
画像処理コマンドにはImageMagickのconvertコマンドを使うとして,次のようになります.

$ convert 1a.jpg -rotate 90 1b.jpg

(2)についても,同様に,90°回転させてみます.

$ convert 2a.jpg -rotate 90 2b.jpg

出来上がりは…

これは失敗です.
convertコマンドの引数を眺めると,「-transpose」というオプションが見つかりました.2次元ピクセルの縦横を入れ替えてくれる,数学の行列で言うと転置行列を作ってくれるものです.試しましょう.

$ convert 2a.jpg -transpose 2b.jpg

出来上がりは…ああっ,文字が反転してしまいました.

そもそも番号をつけた画像をどう作ったのか,出題者に尋ねてみると,まず丸1から丸15までを配置したテキストファイルを作り,名前を2a.txtとします 2a.txtを実行することで,テキストファイルを作ることができます.">*1
2点,重要なことがあって,最後の行は改行文字をつけないようにします.Emacsなら,(setq require-final-newline nil)を実行すればいい…らしいのですが,手元のNTEmacsでは,(setq require-final-newline 0)を評価し,ファイルを保存するときに出るメッセージで「n」を打つことで,うまくいきました.もう一つの注意点は,文字コードUTF-8にすることです.
あと一つ,準備がいります.適切なフォントファイルを探してきます.手元のCygwin環境では,

$ FONT=/cygdrive/c/Windows/Fonts/msgothic.ttc

とします.Ubuntu 10.10のとあるマシンでは,

$ FONT=/usr/share/fonts/truetype/ttf-japanese-gothic.ttf

とすればよいようです.
それで,

$ convert -background white -fill blue -font $FONT -pointsize 40 label:@2a.txt -quality 90 2a.jpg

を実行すると,(2)(a)の画像ができました.同様に(2)(b)の画像と同じ並びのテキストファイルを作り,名前を2b.txt 2b.txt">*2としてから,

$ convert -background white -fill blue -font $FONT -pointsize 40 label:@2b.txt -quality 90 2b.jpg

を実行すると,求める画像になりました.

2. 何ですか,この画像処理は!?

「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という問いを考えたとき,(2)(a)の画像は,15個の丸(りんごの抽象化されたもの)を描く,知る限りもっとも自然な順番です.
算数の,横書きの問題文を読み,式や答えを横書きにする状況では,1番目の丸は右上ではなく左上に配置することになるでしょう.
2番目の丸を,その下に書くか,右に書くかですが,どちらでもいいと言いつつ,1つ分の大きさは列方向に書くことが多く,また数学教育協議会に基づく指導でよく見かける「タイル図」「かけわり図」も,1列の大きさ(すなわち行数)を,1あたり量と見なしています.
それでもまあ,左上の最初の丸の右横に,2番目のを書くことも可能なわけです.そうすると,丸は(2)(b)の番号順になります.なお,縦方向にせよ横方向にせよ,ジグザグ型と言いますかヨッパライ型と言いますか,下がって上がって(左に進んで右に進んで)の繰り返しによる描き方も考えられますが,具体例は割愛します.
ここまで述べた数の数え方は,次の画像と質的に異なります.

とはいえ,書くべき式が3×5か5×3かを判断・確認するための図を描くとき,一つ一つの丸に番号をつけることはなかなかないのですが.

3. ブログ書けない病

当雑記をご愛読の方々に,ご理解いただけるか分かりませんが,実は私,ブログ書けない病なのです.
先日,次女三女が入院したあたりから,そのことを認識するようになりました.
“書けない病”の対処は書いたことがあるので,あれこれ思案しながら,日々の仕事をこなし,一応毎日1件以上のエントリを書いていくことにします.
今後もご愛顧のほどよろしくお願いします.

4. 中身先型・中身後型・中身隠れ型

33時文章題2
次の3つの問題を黒板に貼る。

6個入りのお菓子の箱が4箱あります。お菓子はぜんぶで何個ありますか。
お皿が3枚あります。どのお皿には5個ずつみかんが載っています。みかんはぜんぶで何個ですか。
自転車が7台あります。タイヤはぜんぶで何個ですか。

問題を2回ずつ読む。ノートに式と式の答えを書くように指示する。
しばらく時間をとった後、それぞれ3人の子どもに式を書かせる。
ひとつめは、6個×4箱=24個と、全員書いた。
ふたつめは、5個×3枚=15個と、全員書いた。
教室を見て回ったとき、逆にしている子は一人しかいなかった。この問題について討議しようと考えていたが、全員できているので、中身の位置が逆であることを確認するにとどめた。
みっつめは、2個×7題=14個と、全員書いた。
一つ目に中身先型
二つ目に中身後型
三つ目に、中身隠れ型
と名前を付ける。
(かけ算の指導 2005, p.19)

おっと,この「中身先型」「中身後型」「中身隠れ型」は,それぞれ《AB型》《BA型》《B型》のことではないですか!!

5. これが《A型》?

  • 《AB型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
  • 《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
  • 《B型》:文章題で,Bに関する記載はあるが,Aは問題文以外からその値を定め,A×B=Pの形で式を立てることが期待される問題.
  • 《AA型》:文章題で,A,Aの順に数が現れ,A×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.式からは,「一つ分の大きさ」「いくつ分」の区別ができているかを知ることはできない.
ツッコミばかりですんまへん

と書きましたが,

  • 《A型》:文章題で,Aに関する記載はあるが,Bは問題文以外からその値を定め,A×B=Pの形で式を立てることが期待される問題.

というのは,あるのでしょうか?
図から読み取って式にするタイプで,《A型》を思わせるものを発見しました(『算数入門 かけ算プリント集―すぐに授業ができる解説付』, p.17).

解答はついていませんが,それまでの記述から,「しき」としては,3×1=何ヒキ,「答え」は3ヒキを書けばいいようです.
ここでは,かけ算の計算は行わず,数えて総数を出す段階です.この次のページにも,「?×1」の立式をさせる出題があります.またこの前では,「0×?」の立式です.
しかし図をよく見直すと,その中に,Aに関する情報(同書の記載を使うと「1ハコあたりの数」もしくは「1あたり量」)も,Bに関する情報(同じく「ハコいくつ分の数」「いくつ分」)もあります.しかも,文章題ではなく図から読み取る出題です.なのでちょっと違っていましたか.

6. パー書き教育

ところで,『算数入門 かけ算プリント集―すぐに授業ができる解説付』は,タイル図など,数学教育協議会の影響を受けた内容でありながら,「/ (per)」付きの単位は使用していません.あとがきで,そのようにした理由が書かれています.

本書では,1あたり量を「パー書き」(たとえば,25円/kg,10人/m^2(略))で表すことはしていません.「パー書き」の導入をいつするかについては,数学教育上,意見の分かれるところですが,私たちは4〜5年生以上と考えています.それは,「かけ算の式を立てて,その式から,式変形で答えが出せる」ということが,きちんとできるようになったとき,「パー書き」を導入したいと考えているからです.
では,「パー書きを,どのように教えるか」については,今のところ,新居信正・荒井公毅共著『均等分布と1あたり』(1993年,国土社)という算数絵本を参考にしてくださるのがよいと思います.
(p.94)

〈ハコあたり〉の考え方は,パーを表記しないために,「一見,〈割合〉で教えるやり方と同じに見えてしまうのではないか」とか,「数学的に,かけ算を量としてとらえるならば,どうしてもパーが必要なのではないか」という意見が出ました.ところが,子どもたちも教える教師たちも,パーを使うことによって,かなり混乱することがわかってきました.パー書きが日常生活の場面であまり使われていないからです.そこで,「パーを使う便利さを強調するのは,もっと上の学年になってからでいいのではないか」と考え(略)
(pp.94-95)

これを読んで改めて,現在の算数の指導において,式に単位を付けて書くことを,このパー書きを含めて,どのように行えばよいのかという問題が出てきました.
まずは自分の記憶を,たどってみます.小学校のとき,式に単位を付けていた記憶はありません.角度の計算で「°」を付けていたかどうかも,覚えていません.「×2」という,かけられる数を書かない「2倍」の表現を一度見て,これは強く印象に残っています.
高校の物理で,数値や文字(変数)に,単位を添えるようになりましたが,次元解析を除いて,式の中に単位は現れません.また物理で扱う単位は,長さや時間といった,連続量に関するもののみであり,離散量(分離量)に関しては,やっぱり思い出せません.
にもかかわらず,「かけ算の順序」という議論の中では,例えば

「一つ当たり」「幾つ分」?という考えだそうだ。
例えば、1つの箱に林檎が5個入っていて、箱が10個あるとする、林檎は全部で何個?・・・という質問だ。
5個/1箱×10箱=50個
でも逆にしたら、どうしてダメなのだろうか?
10箱×5個/1箱=50個
理由がわからん。

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だとか,

6×4という式は,6個/回×4回というトランプ式配り方で解釈できるということであり,6人×4個/人,と「いくつ分」を先に「1あたり分」を後にした式とは解さない見解です.
(『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー), p.16.『かけ算には順序があるのか』を読んだより孫引き)

だとか*3見つかりますし,論争を知るよりも前に,私自身も

どうしても思い浮かばなければ…自分が質問をするのをあきらめ,かわりに,質問・コメントと回答を書き留めてみてください.殴り書きでかまいません.そしてゼミのあとで見直し,電子化します.1か月(2人/週×4週=8人)もすれば,質問の傾向が見えてきます.

「分からない」を減らす
自分の「×」の使い方

と,パー書きを使っているわけです.
それで「パー書き教育」ですが,数学教育協議会の人の関わる本,そうでないところの数学教育専門家による文献,《算数解説》と《数学解説》を見てきた者の感覚としては,「学校教育にはふさわしくないが,塾や家庭教育で,そのメリット・デメリットに注意して活用するのならいいかも」といったところです.理由を列挙します.

  • 加減乗除の式で表す前に,その被演算数(operand)になる,「単位付きの量の表現」を学習しなければなりません.そこでパー書きという表記だけでなく,問題文をもとにパー書きの量を“つくる”作業---例えば「1人に ケーキを 1こずつ くばります。9人ぶんでは 何こ いりますか」という問題文から,「1こ/人」を見つけること---や,パー書きを取り除くという処理*4も,必要となります.これは高コストです.
  • 導入時の,かけ算の単位の書き方について,n1[d1/d2]×n2[d2]=n1×n2[d1]のみで良いのか,検討が必要に思えます.一つは,初期のうちから乗法の交換法則に基づくn2[d2]×n1[d1/d2]=n1×n2[d1]も認めるべきかです.もう一つの検討事項は,倍概念に基づく式です.n1[d1]×(n2[d2]÷1[d2])=n1×n2[d1]の可能性については,世に数学の種は尽きまじ-サンドイッチ&学年が上がればどちらでもよい]で取り上げています.なんだか面倒そうです.
  • 「単位付き量」を対象とした,乗法の交換法則を,他の対象と連携して,学習する必要があります.学習指導要領で,かけ算をどのように意味づけているかで書いたとおり,現状,乗法の交換法則が適用可能な対象は,4年までは(非負)整数のみで,5年で小数が,6年で分数が加わります.これと同様の限定・拡大をしなければならないのでしょうか.拡大の際,「問題解決における活用の場面を設けたり,生活などへの活用の場面を設けたりすること」(《算数解説》p.214)ができるのでしょうか.小学校の算数って,簡単そうに見えて,けっこう入り組んでいるのですね.
  • 値や式に単位を付けても,その意味が容易でない例が考えられます.食塩3gの入った50gの食塩水について,3[g]÷50[g]=0.06[g/g]とできますが,[g/g]の中の2つのgは,塩分の質量と食塩水の質量という,「異種の二つの量」の単位です*5.その一方で,「濃度は6%」と,割合として求める場面も考えられます.食塩もしくは食塩水が何グラムかといった文章題を解くとき,パー書きを含む単位は,(手際よく)正しい式を得ることに,必ずしも役立たないように思えます.

7. 可観測・可制御

自分が受けた教育について,記憶をたどっていくと,「可観測(観測可能)」「可制御(制御可能)」という言葉を,学生時代に学んだのを思い出しました.制御工学関係の選択科目だったと思います.大学を離れ,勧善懲悪ものを漫画なりテレビなりでも,はじめは敵の挙動がよく分からない→どのように行動しているのか分かってきた(可観測)→敵の行動に乗じて主人公が優位に立ち(制御可能),勝利するといった流れが見えてくることがあります.
んでかけ算に限らず教育をより良くするための行動についても,可観測・可制御の考え方を持つことができるのだろうなあと感じました.箇条書きにします.

  • 教育に対する可観測
    • 子ども*6
    • 子どもの保護者
    • 学校・学級
    • 国・自治体の教育制度
    • 他の教育機関(塾など)
    • 書籍・文献*7
  • 教育に対する可制御
    • 子ども
    • 教師
    • 学校
    • 国・自治体の教育制度
    • 他の教育機関(塾など)
    • ネット界
    • 書籍・論文・事例報告などによる公開

8. 延々と続けられるわけ

宮下教授による新しいオンラインドキュメントが,出ていました.
真新しい情報はとくになく,例えばその中の,「×」の文法の縛りについては,『量と数の理論 (1978年)』を思い出せばいいんだよなといったところです.
そして今回も,《BA型》への対処は,見られませんでした.

9. Q&A 2つ

Q1. 自治体の学力テストで《BA型》の正解率が低いのは,かけ算の順序を前提とする,現在のかけ算の指導方法の効果が低いことを意味しているのでは?
――その仮説は,「どちらでもよい」という考え方や指導によって,効果が上がることを意味しません.私個人の考えはその逆で,「どちらでもよい」という考え方や指導によって,乗法だけでなく加減乗除の意味理解(適切な場面での利用)がより低くなるのではないかと考えます.実証する手段を持っていませんが.
Q2. 全国学力テストの採点では,乗数と被乗数を逆にしても,バツにしていないとなっている.なぜ教育現場では,かけ算の順序にこだわるのか?
――平成22年度全国学力・学習状況調査の解説資料について:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Researchからダウンロードできる,平成22年度全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校算数に,「(注意)乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」(p.154他)と書かれているのを確認しました.
で,その問題は,何を問うものなのでしょうか.どこの部分で正誤を判定するかが,読み取れますでしょうか.理想的には一つの「本質」と,解答のバリエーションを与える「末節」が,解答類型や解説から見出せないでしょうか.
さてこの件に対する教育現場のあり方についてですが,私は火星魚でも果敢即でもありません.ということで事例報告を待ちたいと思います.そう言えば,長方形の面積で,「横×縦で書くとバツにされる」という話はWebでそこそこ見かけますが,答案の実例も,それに対する(先生へではなく)児童への対処法についても,見つけることができず,教師や教育をこき下ろすための道具にしか使っていないように感じるんですよね.

*1:はてなダイアリーでは丸囲み数字を日記内に書けないようです.ruby -e "print %w(e291a0e291a3e291a6e291a9e291ac0ae291a1e291a4e291a7e291aae291ad0ae291a2e291a5e291a8e291abe291ae).pack('H*')" > 2a.txtを実行することで,テキストファイルを作ることができます.

*2:ruby -e "print %w(e291a0e291a1e291a20ae291a3e291a4e291a50ae291a6e291a7e291a80ae291a9e291aae291ab0ae291ace291ade291ae).pack('H*')" > 2b.txt

*3:「6個/回×4回」は直前のページからの引き写しと見なせますが,「6人×4個/人」は単純な文字列一致では見当たらず,著者が文脈上このように表記することの妥当性---パー書きを含めて---を確認できるものと,考えています.

*4:関連:「本のそれまでの記述に合わせて,「183個÷3人=」とすると,わり算の結果は「61個/人」であり,「一人あたり61個」なのですが,これを「私が持ったのは61個」に変換するための数式上の操作というのが厄介だからです」, 1993年の「かけ算とわり算」指導法.なお同月20日に「138個」を「183個」に訂正しました.

*5:他の例として,「7匹/匹」という書き方が,『かけ算には順序があるのか』p.17に出現します.それと,http://blog.livedoor.jp/aritouch/archives/869049.html#commentsには,「豆腐1丁(300g)にはたんぱく質が27g含まれています。豆腐1gあたり何gのたんぱく質が含まれていますか。」という出題があります.

*6:主に記録(ノート)を通じて.

*7:インターネット上の情報は,ここに含まれます.