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「被乗数と乗数の区別」を調査

「かけ算の順序」について,現行の学習指導要領は無実という主張があります.知る限り,その発生源は,http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/LaTeX/20101123Kakezan.html#A6です.
小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)を通読すると,「被乗数と乗数の区別」を行っている例が多く見られます.そこで,抽出を試みました.
なお,《算数解説》へのアクセス方法は学習指導要領で,かけ算をどのように意味づけているかをご覧ください.当雑記外で,読み込まれているエントリとして,立式の論理と計算の便宜 (3×5≠5×3問題)が挙げられます.
基本的には《算数解説》からの抽出と文字列マッチングをしていますが,いくつか,この文書外の情報(出典明記ありのものもなしのものも)を参照していることがあります.これについては次のようにお考えください.日本国憲法だけを読んでいても,日本国憲法そのもの,より正確に言うと,その現代社会での位置付けというのは,理解できない,というのと同じです.
なお,抽出したところ相当な分量になったので,強い興味を引いた箇所のみ引用し,興味の低い情報については,ページ番号と要約・所感にとどめました.

【算数科の目標及び内容】

  • pp.38-39: 小数の乗法のうち,乗数が整数の場合は第4学年で,小数の場合は第5学年.分数の乗法のうち,乗数が整数の場合は第5学年で,分数の場合は第6学年.
  • p.55: 「乗数が1ずつ増える」などであり,被乗数が1ずつというケースは考えない.

【第2学年】

(p.81)
ものの集まりを幾つかずつまとめて数える活動を通して,数の乗法的な構成についての理解を図ることをねらいとしている。ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさをとらえることができるようにする。

「数の乗法的な構成」に関連して,『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.111に「乗法的数え方」とある.
この直後は,交換法則の根拠として有名な「12個のおはじきを工夫して並べる」.

(p.87)
乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。

「乗法の意味」として最も重要な記述.次に「累加」が現れるのはp.142.

  • p.87: 「乗法に関して乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増えるという性質」.これと交換法則を使えば,「被乗数が1増えれば積は乗数分だけ増えるという性質」も言えるが,それは指導の対象外(解説書,問題集からも見かけなかった).

(p.88)
4に2位数をかける乗法の計算を例にあげると,まず,4の段の乗法九九の4×9=36から,4×10=40(36より4だけ増える)となることが分かる。さらに,4×11=44(40より4だけ増える),4×12=48(44より4だけ増える)のようにして積を求めることができる。
また,10×4は,10が4つあることから,40になると分かる。さらに,11×4=44,12×4=48となることは,乗法に関して成り立つ性質を基にしたり,図を用いたりして説明することができる。

1位数(9以下の数)を被乗数,10,11,12を乗数としたときの積を求める方法を学ぶ.その逆については,「乗法に関して成り立つ性質を基にしたり」とあるので,交換法則を使ってもよさそう.

  • p.88:「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」「乗数と被乗数を交換しても積は同じになる」はともに計算の性質.文章題で,それらの性質を使うよう配慮された問題を目にしている.

(p.89)
式を読み取る指導に際しては,例えば,3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる。このように具体的な場面と関連付けるようにすることが,さらに,読み取ったことを,○や図を用いたり,具体物を用いたりして表現することが,式を読み取る能力を伸ばすためには大切である。

式と場面との対応.3×4の式から,「プリンが4個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」を考えていいかどうかは,「例えば」の裁量次第と言える.ただし現状の教科書その他は…もういいね.

【第3学年】

(p.103)
500+700は,百を単位にすると5+7とみられる。また,800は百を単位にすると8とみられることから,800×5は百を単位にすると8×5とみられる。このような数の相対的な大きさの見方を活用して,数をとらえたり,数の大きさを比較したり,計算をしたりできるようにする。

分配法則・結合法則の素地指導と思われる.「8×500は百を単位にすると8×5」とする事例があるかどうか気になる.

(pp.106-107)
第3学年では,2位数や3位数に1位数や2位数をかける乗法の計算を指導する。
ア 乗法の計算の仕方
乗数が1位数の計算の指導に当たっては,児童が自らその計算の仕方を考えるよう指導することが大切である。例えば,23×4の計算を考える場合,23を20+3とみて,20×4と3×4に分けて考えることができる。これは,筆算の仕方に結び付く考えである。このようにして,児童自らが,これまでに学習してきた十進位取り記数法や乗法九九などを基にして,新しい筆算の方法を考えていけるようにすることが大切である。3位数に1位数をかける計算の指導に当たっても同様である。
乗数が2位数の場合は,何十をかける計算と,1位数をかける計算に基づいて考えることができる。例えば,23×45の計算の場合,乗数の45を40+5とみて,23×40と23×5に分けて考える。その際,何十をかける計算や1位数をかける計算に基づいて,乗数が2位数の場合の計算を工夫する過程では,その結果や方法についての見通しを立てることが必要になる。

計算において被乗数と乗数の区別をしている典型例.その際,貨幣,タイルまたは何らかの教具により,分解式の意味を考えながら進めることが推測できる.
「〜に〜をかける」が出現するのも興味深い*1

(p.107)
乗法の計算には,乗数や被乗数が人数や個数などの簡単な場合がある。また,例えば,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」などのような場合にも用いることができる。さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような場合にも,乗法が用いられることを理解できるようにする。乗法が用いられる場面を判断し,適切に用いることができるよう指導することが大切である。

式は書かれていないが,これまでの記述や,この文書以外の情報をもとにして,前者は85×25=2125,後者は9×4=36が期待される.

(p.107)
「内容の取扱い」の(4)では,「乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする」と示している。例えば,的当てで得点を競うゲームなどで,0点のところに3回入れば,0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ,3×0と表すことができる。0×3の答えは,実際の場面の意味から考えたり,乗法の意味に戻って0+0+0=0と求めたりする。また3×0の答えは,具体的な場面から0と考えたり,乗法のきまりを使って3×3=9,3×2=6,3×1=3と並べると積が3ずつ減っていることから,3×0=0と求めることができることに気付くようにする。また,こうした0の乗法は,30×86や54×60 のような計算の場合にも活用される。

式の意味においても計算の仕方においても,被乗数と乗数の区別がなされている.

  • p.108: 「a×(b±1)=a×b±a」「a×(b±c)=a×b±a×c」とあるが,「(a±1)×b=a×b±b」「(a±b)×c=a×c±b×c」はない.
  • pp.108-109: 23×4の計算方法の説明.

(p.110)
除法は,乗法の逆算ともみられる。そこで,乗法と関連させて,被乗数,乗数のいずれを求める場合に当たっているかを明確にすることも大切である。包含除は3×□=12の□を求める場合であり,等分除は,□×3=12の□を求める場合である。また,実際に分ける場合でも,包含除も等分除と同じ仕方で分けることができることなどにも着目できるようにしていくことが大切である。そのようにして,どちらも同じ式で表すことができることが分かるようにする。

包含除・等分除,乗法と除法の関係.「どちらも同じ式(=わり算)で表すことができる」も大事で,これにより,等分除の問題であっても,12÷3と立式したら,その後は「三一が3,三二が6,三三が9,三四12」として4を得ることができる.

  • p.110: 余りのある場合の包含除・等分除.
  • p.127: 「乗法における乗数や被乗数が,除法における除数に相当する」は,割合の第1用法・第3用法の素地となる一方で,被乗数と乗数の区別をつけにくくする要因にもなっている.

【第4学年】

(p.142)
乗数や除数が整数である場合についての小数の乗法及び除法の計算の指導では,その計算の意味を理解できるようにする。乗法は,一つ分の大きさが決まっているとき,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回か加える計算と考える。例えば,0.1×3ならば,0.1+0.1+0.1の意味である。累加の簡単な表現として,乗法による表現を用いることができる。さらに,乗法の意味は,基準にする大きさとそれに対する割合から,その割合に当たる大きさを求める計算と考えることができる。

被乗数が小数,乗数が整数という乗法で,累加により求められる.「倍」が「割合」に変わって(拡張されて)いる.

  • p.147: 長方形の面積の求め方.どっちでもいい例.

(p.160)
交換法則,結合法則,分配法則とは,次の式で表される法則である。
(交換法則)
□+△ = △+□
□×△ = △×□
結合法則
□+(△+○) = (□+△)+○
□×(△×○) = (□×△)×○
(分配法則)
□×(△+○) = □×△ + □×○
□×(△−○) = □×△ − □×○
(□+△)×○ = □×○ + △×○
(□−△)×○ = □×○ − △×○
第4学年では,整数の計算に関して,交換法則,結合法則,分配法則を活用して計算を簡単に行う工夫をしたり,乗法の筆算形式の中に分配法則を見付けたりするなど,四則に関して成り立つ性質についての理解を深め,必要に応じて活用できるようにする。また,整数において成り立つ性質が,これまでに指導した小数の計算に関しても成り立つことを確かめられるようにする。

ここで整数を対象とした交換法則,結合法則,分配法則が完成する.なお,小数においては「これまでに指導した」という制限がついており,3×0.1=0.1×3=0.1+0.1+0.1=0.3とすることはできないように読める.

【第5学年】

  • p.166: 「乗数が小数の場合」ほかの前書き.

(p.166)
第5学年では,乗法を乗数が小数の場合にも用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるようにしたりして一般化していく。その際,数量関係を表している文脈が同じときには,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にもそのまま使えるようにする。
例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」という場合,布の長さが2.5倍になっているので,代金も2.5倍になるということから,80×2.5という式で表せる。
こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」とするとき,B×P=Aと表せる。

被乗数と乗数の区別が見られる.

(pp.166-167)
数直線を用いることによって乗数Pが1より小さい場合,積は被乗数Bより小さくなることも説明できる。

これまでの繰り返しになるが,「被乗数Bが1より小さい場合,積は乗数Pより小さくなること」は出てこない.

  • p.168: 乗数が小数の場合の計算方法.「乗数を10倍すると積も10倍になる」があり,乗法の交換法則は姿を見せない.
  • p.169: 乗数が小数の場合の,式の意味と計算の仕方の再確認.数直線あり.

(p.172)
(分数)×(整数),(分数)÷(整数)を指導する。(分数)×(整数),(分数)÷(整数)の意味は,これまでの整数の乗法及び除法と同じ考え方で説明できる。乗法の意味は,同じ数を何回も加える累加として考えたり,基準とする大きさとそれに対する割合から,その割合に当たる大きさを求める計算と考えたりする。

第4学年の(小数)×(整数)と同様.

  • p.177: 「(直方体の体積)=(縦)×(横)×(高さ)」.とはいえ,どこを縦・横・高さとするかは見方により変わるので,被乗数と乗数の区別とは直接関係しない.

(pp.183-184)
直径の長さと円周の長さとの間に何か関係がありそうだと気付かせ,円周の長さは直径の長さの何倍になるかとの見通しを立てさせる。例えば,円に内接する正六角形と円に外接する正方形を利用すれば,円周の長さは直径の3倍(半径の6倍)より大きく,直径の4倍より小さいことを見いだすことができる。そして,実際に幾つかの円について,直径の長さと円周の長さを測定するなどして帰納的に考えることにより,どんな大きさの円についても,円周の直径に対する割合が一定であることを見いだすことができる。この円周の直径に対する割合のことを円周率という。円周率を指導することにより,直径の長さから円周の長さを,また,逆に円周の長さから直径の長さを計算によって求めることができるなど,直径,円周,円周率の関係について理解できるようにする。

円周率は「割合」であり,したがって円周の長さの式として直径×円周率を書くことが予想される(p.197).

【第6学年】

  • p.193: 「乗数が分数の場合」ほかの解説,立式例.
  • p.197: 「(直径)×(円周率)」.pp.183-184.

(p.198)
(円の面積)=(平行四辺形の面積)=(円周)÷2×(半径)
ここで,(円周)=(直径)×(円周率)を使うと,式は次のようになる。
(円の面積)=(直径)×(円周率)÷2×(半径)
      =(半径)×(半径)×(円周率)

文字式の変形は,小学校の算数の範囲を超えている.全国学力テストなどの面積問題で,被乗数や乗数を入れ替えた式を許容する根拠となりそう.

(p.207)
比例の関係を表す式は,(ウ)の商をkとすると,y=k×xという形で表される。

比例の式では,被乗数は比例定数で,乗数は独立変数.

(翌日,各引用の末尾につけていたページ番号を,先頭に移動しました.)

紀要に見る,被乗数と乗数の区別

《算数解説》を読む前に,いつダウンロードしたのか不明でデスクトップ上にあったPDFファイルを目にしたところ,それらにも,被乗数と乗数の区別に関する興味深い記述があったので,引用します.なお,文献はいずれもCiNiiから無料で取得できます.

1. 岸本忠之: 小数の乗法における学習状態の移行, 富山大学教育実践総合センター紀要, No.1, pp.1-8 (2000). http://ci.nii.ac.jp/naid/110000094748

小数の乗法とは,乗数が小数である乗法のことである。被乗数が小数である乗法は,整数の乗法に含める.本稿では倍(multiple)に関する小数の乗法を考察の対象とし,積(product)に関する小数の乗法は取り上げない。
(p.1右)

児童が小数の乗法の文章題においてより確実に演算決定したり,「(基準にする大きさ)×(割合)」として乗数や被乗数を区別して演算決定できるためには,小数の乗法の一般的な意味を理解する必要がある.小数の乗法の意味とは,「基準にする大きさをBとしたとき,このBに対する割合がpであるようなAを求める操作がB×pであるとまとめられたもの」である.
(p.2左)

出題はすべて《AB型》.

2. 今井敏博: 教員志望学生の算数における乗法の意味の拡張の捉え方について, 和歌山大学教育学部教育実践指導研究センター紀要, No.4, pp.1-8 (1994). http://ci.nii.ac.jp/naid/110004614978

例えば「みかんが5つのっているおぼんが3つある。みかんは全部でいくつですか。」という事象の設定において,5+5+5という累加の考えを,同じものが3つあるから,みかんが5つのっているおぼんが3つあるとみなして,5×3とかくように導入する。しかし,高学年になると,乗数が小数や分数となるような有理数をかけることについての意味づけが必要になる。
(p.1)

3. 調査のねらい
次のような3つの点に主眼をおいて,調査結果をもとに検討する。
(略)

  • 被乗数と乗数とを区別して意味づけを行っていることが乗法の意味をさらに抽象していくうえでどのような影響を及ぼしているか。

(p.3)

問2(pp.4-5)を自分が回答するなら,◎はウ,○はイエカ.ただしイとオは迷う.