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入試問題の作り方使い方

高大接続関係のパラダイム転換と再構築 (高等教育ライブラリ)

高大接続関係のパラダイム転換と再構築 (高等教育ライブラリ)

東北大学高等教育開発推進センター」の本というと…英語と初年次教育の2冊目と,統計,速さの2冊目に,取り上げています.
いちばん読みごたえのあったのは,第3章,「良質な大学入試問題とは」です.第1節はテスト理論をもとにしつつ,大学入試で現状,望まれている出題との違いが,明快に書かれています.
「試験の教育的機能」という表現を,興味深く感じました.前後を含めて引用します.

入試で問われるべきことは、ある程度新奇な状況への適応能力である。ただし、あまりにも新奇であれば、そこまでの努力というものが、まったく報いられないことになる。したがって、ある程度の新しさ、その中で、与えられた素材への学習能力というものが、適応力と一定の相関を持つということである。
そう考えると、常に新たな工夫しながら、高等教育における到達度を問うことを目指した作題にもとづく大問形式の入学試験、それが入学者選抜の中心になることが、結局のところ、試験の教育的機能を考慮して、現時点において最善に近い方法であるということになるのではなかろうか。そして、このことは受験生に向けても明確に述べられた方がよいと思われる。なかなか内在的な意味を見出しにくい学習素材に無理に過度の意味を見出そうとすることは、進路選択上の誤りにもつながりかねないと考える。
(p.161)

第2節の中に,「良い入学試験問題とは?」と題して,5つの問いとその説明があります.問いだけ取り出します.

(I) 正しい答えがあるか?
(II) 問題は読みやすく、題意が取りやすく書かれているか?
(III) その問題を解くためには、どの程度の知識を必要とするか?
(IV) その問題を出題した場合、自分の大学が求めるような知識・素質・学習意欲を持った受験生が合格する割合が増えるか?
(V) 大学から高等学校へのメッセージをどうするか?
(pp.175-178)

大学の科目の試験にも,アレンジできそうです.(V)は,(授業内容が含まれる)技術・学問分野から,受講生へのメッセージとなります.(IV)ですが…授業と研究とは別とは言いつつも,「研究室が求めるような知識・素質・学習意欲」と読み替えたくなります.
第3章に戻って,第3節は,東北大学に多くの合格者を出している,長野県長野高校の方が著者となっています.受験勉強に対する心がけもさることながら,途中に混じる数学の問題も,味わい深いです.
とはいえこの中にも,受験生心理に関する,考えさせられる記述があります.また引用します.

今の生徒は「入試問題の問題文には、テクニックとか解法のポイントが必ずある」、「こうなったらこうだというテクニックがある」という幻想を持っている。あるいは誰かにそう刷り込まれている。もし、入試問題が「基礎的、基本的なことを積み上げていって、結論に到達するのだ」ということが全ての受験生と保護者が分かってしまったら、受験勉強はきわめて単純なものになる。したがって、地道な受験勉強を長い間継続していくためには「むき出しのスイッチを探す旅をしている」という幻想がどうしても必要なのかもしれない。実際、浪人してしまって某予備校などに入っていくと、基礎、基本ばかりやっているという現実が当然あるので、そこまで行けば、本当に基礎が大事であるということが当然分かる。しかし、問題集をやり始めた時のイメージとしては「問題を解く際に何か万能なスイッチがあるのではないか」と思って「それを探そうとしているので解けない」ということが往々にしてある。
(pp.186-187)

大学入試ではありませんが,当雑記で「いきなりですが問題です」から始めるエントリなんかも,こちらから読者へのメッセージとなっているわけです*1.題意を取りやすくするよう,気配りしないといけませんね.

*1:いきなりですが問題ですという,雑記内リンク集もどうぞ.