かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきであるが更新されていました.
2011年08月21日の内容について,ほんの少し,思うところを述べておくと,文章題から直接,式を書くのでは,正答が得られにくいような問題があり,実際,形成的,総括的,外在的な評価のためのテストでよく出題されています.そこで,児童だけで正答に至る手段のほか,問題を解く間もしくは答え合わせの際,なぜある式が正しいか/間違いなのかを確認するために,式以外の方法,典型的には図で表すことが行われています.その活動が不十分だというのなら,学校教育を責めるのではなく,学外で何かサポートできないかと考えるのが,当方の基本スタンスです.
それから,「文章題から式を書く(立式する)」活動だけが,式に関わることではありません.問題文の中で,あるいはクラスの他の子によって,式が提示されていて,そこから場面を理解したり正誤を判断したりすること,すなわち「式を読み取る」*1という活動も,期待されています.学習指導要領の外の情報では,全国学力テストの平成19年度算数A大問4(210×0.6の式で求められる問題を,4つの選択肢=文章題から選ぶ),同じく平成22年度算数B大問1(2)(500-50+150×2を,場面に合うよう修正する)が関連しますし,学習指導要領の改訂より前に書かれた本からも,もちろん新学習指導要領準拠を謳う本からも,具体例を知ることができます.
最後に,2011年08月21日の内容に限らず,ページ全体において,そこで書かれている方針に基づく指導案,指導例がない状況というのは,なんとかならないのかと思います.「かけ算の式の順序」を語る際には,2年生の学習内容だけでは不十分で,3年生での乗法の活用それと除法,高学年での小数・分数を含む乗法との関連づけが不可欠です.賛同する算数・数学教育の専門家を見つけてくるとか,科研費もしくは何らかのスポンサーを得て,研究を進めてくれると,学術的,実践的な進展も期待できそうなのですが.
「ほんの少し」なんてもんじゃないな….
ここからが本題です.冒頭でリンクしたページ(以下「かけバツ」と書きます)の中に,ちょっと気になる言葉があります.「場面」です.正確にいうと,「場面」という言葉について,かけバツと,《算数解説》や他の算数教育の文書とで,使い方が違うように感じたのです.
ここで私自身のことを書いておきますと,「場面」はあまり使いません.「設定」という言葉はよく使用します.「場面」が,算数科の指導におけるテクニカルタームのように思え,それを十分に理解しているという確信がないので,避けている次第です.
さて…「場面」が出現する箇所と,その前後10文字を取り出し,いわゆるKWIC形式で,並べてみました.まずは,かけバツ.
!れに対応する具体的な場面を読む」は完全に削除 !れに対応する具体的な場面を読む」をそのまま忠 !れに対応する具体的な場面を読む。 !及び減法が用いられる場面を式に表したり式を読 !人来ました。」という場面を,3+4の式に表す !2)乗法が用いられる場面を式に表したり,式を ・ことに、具体的な応用場面では不必要なこだわり !室といったローカルな場面での共通理解が図れれ ・「お願いする」という場面が実際に流通している !表して、他人に伝える場面においては、表現を共 !もちろん掛け算の導入場面ではありません。 !図3−2で話題にした場面は、日本語では「9か !の1つとして「問題の場面から式を考えることに !された。つまり、問題場面の数学的構造を図的表 ・線÷2」と教えている場面には爆笑させてもらい ・用することが不適切な場面で順序を利用すること !と言えませんが、指導場面では有効な場合もある ・_具体的にどのような場面で? ・す。そして多くの応用場面において有効桁は高々 ・_____実際の応用場面では自分もしくは自分
先頭の「!」は引用文からで,「・」はそうでないご自身による言葉です.
《算数解説》も,同様にしてみました.ただし算数(1)のみ,具体的には第1章(総説)と第2章(算数科の目標及び内容)です.先頭文字は,上記と同様です.
!,知識・技能を実際の場面で活用する活動,問題(p.7) ・,生活や学習の様々な場面で活用することができ(p.10) ・たり,計算練習を行う場面を設けたりすることは(p.12) ・________オ 場面を式に表す活動___(p.12) ・ 整数が使われている場面を見付ける活動___(p.12) ・____加法や減法の場面を式に表す(「A数と(p.17) ・_______乗法の場面を式に表す(「A数と(p.17) ・ 整数が使われている場面を見付ける活動___(p.17) ・_______除法の場面を式に表す(「A数と(p.17) ・,また,生活や学習の場面で目的に応じて適切に(p.22) ・,児童の生活や学習の場面において,広く算数を(p.23) ・納的な考えや,類似の場面から推測するという類(p.23) ・に考えたりするなどの場面が数多く現れる。さら(p.23) ・日常生活のいろいろな場面で活用されるものであ(p.24) ・,生活や学習の様々な場面で活用することができ(p.25) ・が生活や学習の様々な場面で活用されることによ(p.25) ・では,加法及び減法の場面を式に表すことや,も(p.28) ・式に表すこと,乗法の場面を式に表すことについ(p.28) ・量関係」では,除法の場面を式に表すこと,数量(p.29) ・の量を指導する最初の場面では,具体物などの量(p.43) ・である。また,様々な場面での比較や測定の活動(p.46) ・____第一に,ある場面での数量や図形につい(p.56) ・においては,具体的な場面に対応させながら,事(p.57) ・。さらに,式を通して場面などの意味を読み取り(p.57) ・+3という式が,ある場面での数量についての事(p.58) ・=8という式が,ある場面での数量の関係を表し(p.58) ・れに対応する具体的な場面を読む。______(p.58) ・及び減法が用いられる場面を式に表したり式を読(p.58) ・人来ました。」という場面を,3+4の式に表す(p.58) ・り,乗法が用いられる場面を式に表したり式を読(p.59) ・は,除法が用いられる場面を式に表したり式を読(p.59)
これらから見えてくる特徴を挙げてみると:
- かけバツには,「応用場面」という表記が何度か見られます.計算方法に習熟してから,応用問題を解くための手段として,文章題を式ほかで表す,という流れを期待しているのでしょうか.《算数解説》そして目にしてきた多くの書籍や問題集*2では,導入の際,学習の途中段階,もちろん応用としても,ということで結局のところ様々な段階で,式に表す場面が現れています.
- 「応用場面」を起点に,かけバツを見直したところ,「導入場面」「問題場面」「指導場面」(ただしこれらは引用である点に注意)と,名詞に「場面」を直結して,複合名詞にしているのが分かります.《算数解説》に目を移すと,抽出した範囲では,そのような表記はありませんでした.また箇条書きで「場面」から始まる項目も見られます*3.
- かけバツでは,「場面」に関わる人が,文によってまちまちであるように見えます.一方《算数解説》では,この文書は教育関係者すなわち大人が読むものであることを念頭に置きつつ,「場面」に学習者である児童が関われるようにすることが意図されています.