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加法《BA型》

「バスに2人乗ってきた.もともと3人乗っていた.今バスに何人乗っているか」
というような問題に,「2+3=5」という式を書くのは間違いとする先生がいるらしい.

バスに2人乗ってきた・・・たし算の順序?? | メタメタの日

かけバツ●2011年08月21日 (2) 東京都教職員研修センターの平成17年度の報告集 (PDF)で,具体的な事例がプレーンテキスト化されている.

たし算の式は時間の順序通りに書くという「ルール」があるという(硬直した狭隘な)考え方に対しては,(略)

学習指導要領では「ルール」ではなく「加法及び減法が用いられる場合」と記述し,その解説で,3つずつ挙げている*1
「小学校学習指導要領解説 算数編」(《算数解説》)から,加法と減法の該当箇所を引用すると:

加法や減法が用いられる場合として,次のようなものをあげることができる。
(1) 加法が用いられる場合
(ア) はじめにある数量に,追加したり,それから増加したりしたときの大きさを求める場合(増加)
(イ) 同時に存在する二つの数量を合わせた大きさを求める場合(合併)
(ウ) ある番号や順番から,さらに何番か後の番号や順番を求める場合(順序数を含む加法)
(2) 減法が用いられる場合
(ア) はじめにある数量の大きさから,取り去ったり減少したりしたときの残りの大きさを求める場合(求残)
(イ) 二つの数量の差を求める場合(求差)
(ウ) ある順番から,幾つか前の順番を求める場合や,二つの順番の違いを求める場合(順序数を含む減法)
(《算数解説》p.67)

もし,東京都教職員研修センターの平成17年度の報告集は,一つ前の学習指導要領に基づいているのではないかというのなら,手元に一つ前の《算数解説》を持っているが,p.66に同一の記述がある.


これまで当雑記で書いてきた《AB型》《BA型》について,加法にも同様のラベリングを行う.

  • 加法《AB型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A+B=Cの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
  • 加法《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B+A=Cの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.


以上の準備をしたうえで,指摘できるのは,《算数解説》に,加法《BA型》と読み取れる例題が掲載されていることである.ただし第1学年ではなく第2学年である.

(1) 数量の関係表現は減法の形であるが,計算は加法を用いることになる場合
例えば,「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」を求めるような場合である。図で表せば,次のような場合で,□を7+5として求める。
(図:省略)
(《算数解説》p.96)

式を用いて説明するに当たっては,例えば(1)の場面であると,「幾つかあるリンゴから食べたリンゴの5個を取ると7個残る」ということから,残った7個に取った5個を返す(たす)と7+5 という式になるというように,式の部分である「7」,「+」,「5」と場面とを関連付けて説明することが,また,そのことを(1)で示したようなテープの図とも関連付けて説明することが,加法と減法の相互関係について理解し,式を用いる能力を伸ばすために大切である。
(《算数解説》p.97)

《算数解説》を読むことのできる大人モードで,なぜこのような記述になっているかの説明を試みるなら,この問題では「加法が用いられる場合」のうち「合併」でも「順序数を含む加法」でもなく,「増加」を用いて,たし算の式にすることができ,その際には,「はじめにある数量」すなわち被加数(足される数)と,増加する数量すなわち加数(足す数)の区別が行えるからであろう.
ここで,「逆思考」という用語を知っている人に向けて,「減法の逆としての加法」の中でも「求残の逆としての増加」を考えればいいのではないか,と付け加えたい.乗除算については先日,等分除・包含除の逆としての乗法で検討を試みている.
なお,合併を基にした場合には,被加数と加数がそれぞれどちらであってもよいと推測できる記述が,同文書のp.96上方に見られる.
一つ前の《算数解説》でも,リンゴの文章題はp.78に見られ,「□を7+5として求める。」でその項目が終わっており,「5+7」については記されていない.小さな違いとして,これは第2学年の[A 数と計算]に入っている*2のに対し,現行では[D 数量関係]である.


加法《BA型》の他の記載例.

「Aこたべましたが,まだBこのこっています。はじめに,何こあったでしょう」という問題では,「たべた」「のこっています」などの言葉からひき算と錯覚しやすい。□−A=Bのようにひき算の構造になっているのに,計算ではB+A=□と逆のたし算になる。
算数教育指導用語辞典, p.200)

加法《BA型》を離れ,第1学年で,被加数と加数の区別をつける指導例.

(ウ) 数量の関係を把握する.
自分でかいた絵や図,自分で置いたおはじきなどをみながら数量の関係を説明させる.
「この金魚3匹の所へ,この金魚1匹を入れました.」「赤い金魚が3匹います.そこへ黒い金魚1匹を入れました.」など,「みんなで何匹」ということを手で操作をさせながら,こうすることが「あわせる」「入れる」「みんなで」なのだということをはっきりとつかませる.
(エ) 記号の意味を知り式表示する.
(ウ)の手の操作のことを算数では「+」という記号を用いるのだということを知らせ,3+1 とかくということを知らせる.
大阪市小学校教育研究会: 式と作問の指導(下学年)のキーポイント, 整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究), p.41.初出は「新しい算数研究」1981年2月号(No.119), pp.9-11.)

テープの長さを求める出題で,「求残の逆としての増加」に見えるが,教師と児童が対話をしながら,立式に必要な数量を明らかにしていき,増加ではなく合併により(したがって加法《BA型》に見える出題でA+B=C*3の形により)答えを得るという指導例が,『整数の計算』p.52に載っている.

小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』末尾を見ると,2年生および3年生に対して加法《BA型》の出題がある.どちらの学年も,乗法の文章題と異なり,式の正答率は答えのそれよりも高い.その学力調査においては,被加数と加数の区別は重要視していない(どちらに書いても正答としている)と思われる.


冒頭の引用で「…という式を書くのは間違いとする先生がいるらしい」となっているが,やはり実例を期待したいところ.去年11月の件は

という画像があったからこそ,議論(その出題がなされた前後関係の推測についても)がしやすかったのである.
また,「足す数」と「足される数」について - 「かける数」と「かけ... - Yahoo!知恵袋というのを発見したが,やはり思考実験であり実例ではない.なお,個人的にはそこの「ベストアンサー以外の回答」のような,丁寧な文章を書けるようになりたい*4

「本日書かれた内容で,結局マルなのかバツなのかわからない」と疑問を持たれた人のために,思うところを書いておくと,「マルとすべきかバツとすべきかは,より多数の指導例・出題例を集めてから議論するのでいいのではないか」「かけ算と同様に『たし算の(式の)順序』という問題設定をすると,専門家からかけ離れた議論・結論になりがちなので注意しよう」といったところ.

*1:厳密さを欠くが,その一つ一つは,加法・減法が適用可能ないわば十分条件であり,必要条件ではないと考えることができる.

*2:一つ前の学習指導要領では,第1学年,第2学年に[D 数量関係]の記述がない.

*3:某年月日,「B+A=C」から訂正.

*4:が,思いつく文献を逐一チェックしていくとともに,揚げ足を取られないよう状況説明を多く書くようにしている限り,その域にたどり着けそうにないのも自覚している.