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大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

Principalのリーダーシップ

日本でも,教育改革のなかで学校の裁量拡大が目指されるなか,学校の自立性が求められている。学校選択制も各地で始まり,学校としての特色を明確に打ち出すことや,アカウンタビリティを果たすために学校の成果を明確に示す必要が生じている。したがって,校長のリーダーシップに期待が寄せられている。
露口(2008)*1は,校長のリーダーシップに関する丹念な理論研究,実証研究を通して,日本における校長のリーダーシップのあり方を明らかにしている。従来のリーダーシップアプローチを,「教育的リーダーシップ」「変革的リーダーシップ」「支援的リーダーシップ」に整理し,フィールド研究からそれぞれのリーダーシップが求められる状況を明らかにした。以下,それぞれについて説明する。
まず,学校に赴任した校長には,学校で共有されている価値観を知り,手探りで自身のリーダーシップが発揮できる状況を形成する必要がある(「変革的リーダーシップ」)。その際,教師たちとの調整作業において,校長が公正であるかどうかが重要となる.つまり,教頭への権限配分について公正に対応する,「公正的リーダーシップ」が求められる。公正さとは,情報と教師の要望を幅広く集め,自身の判断を的確に説明し,各教師へ個別的配慮を欠かさないことである。校長がリーダーシップを発揮できる状況が整えられてはじめて,教師たちの授業づくりを支援したり,研修を促進したり,直接的な教師の支援をすることができる(「教育的リーダーシップ」)。
一方で,校長は教師たちを上から指示するのではなく,教師たちの自立性を支援する形でリーダーシップを発揮することが求められる(「支援的リーダーシップ」)。なぜなら,教師たちの意思が学校経営に反映されていると,教師たち自身が感じている学校のほうが,校長のリーダーシップが発揮され,かつ教師たちに受容されるからである。これは,露口(2008)によって実証的に明らかにされている。逆説的だが,校長のワンマンでもなく,校長のリーダーシップに依存するのでもない,新しい形の校長のリーダーシップは,教頭や主任層を含め,教師たちに分散されたリーダーシップを調整し,それぞれの自立的な取り組みを支援し,教師たちの協働とコミュニケーションを促すリーダーシップなのである。
(『教師の言葉とコミュニケーション―教室の言葉から授業の質を高めるために (教職研修総合特集)』, pp.40-41)

学校の校長のあり方を述べているのですが,自分にとっては,研究室運営に重なります.
校長は英語で,principal.そして研究代表者は,principal investigator(略してPI)です.ここで「研究代表者」は,研究テーマの代表者(科研費,共同研究などの代表者)ではなく,研究室のトップを指します.
研究室の話になるよう,書き換えてみました.

日本の大学では,教育改革のなかで研究予算の漸減と競争化が進められるなか,研究室の自立性が(もともとそれなりにあったが)より強く求められている。「学歴ロンダリング」に象徴される,大学院進学における大学の変更を考える学生も少なくなく,学部・大学院で同じ研究室に所属することのメリットを明確に打ち出すことや,研究室に入る研究者・学生向けのアカウンタビリティを果たすために研究成果を明確に示す必要が生じている。したがって,研究代表者のリーダーシップに期待が寄せられている。
露口(2008)は,校長のリーダーシップに関する丹念な理論研究,実証研究を通して,日本における校長のリーダーシップのあり方を明らかにしている。これを研究代表者に転用すると,従来のリーダーシップアプローチを,「教育的リーダーシップ」「変革的リーダーシップ」「支援的リーダーシップ」に整理でき,それぞれのリーダーシップが求められる状況が明らかになる。以下,それぞれについて説明する。
まず,(赴任または昇任により)研究代表者となった者は,研究室で共有されている価値観を知り*2,手探りで自身のリーダーシップが発揮できる状況を形成する必要がある(「変革的リーダーシップ」)。その際,他の研究者・学生たちとの調整作業において,研究代表者が公正であるかどうかが重要となる.つまり,研究室内の2番目の研究者(「教員1」対「学生多」の研究室であれば,最高学年の学生)への権限配分について公正に対応する,「公正的リーダーシップ」が求められる。公正さとは,情報と要望を幅広く集め,自身の判断を的確に説明し,各人へ個別的配慮を欠かさないことである。研究代表者がリーダーシップを発揮できる状況が整えられてはじめて,研究者・学生たちの実験や学会発表を支援したり,ワークショップ(の参加・企画)を促進したり,さまざまな形で研究者・学生の支援をすることができる(「教育的リーダーシップ」)。
一方で,研究代表者は他の研究者・学生たちを上から指示するのではなく,自立性を支援する形でリーダーシップを発揮することが求められる(「支援的リーダーシップ」)。なぜなら,研究者・学生たちの意思が研究室運営に反映されていると,彼ら彼女ら自身が感じている研究室のほうが,研究代表者のリーダーシップが発揮され,かつ受容されるからである。逆説的だが,研究代表者のワンマンでもなく,研究代表者のリーダーシップに依存するのでもない,新しい形の研究代表者のリーダーシップは,2番目の研究者や最高学年の学生を含め,研究者・学生たちに分散されたリーダーシップを調整し,それぞれの自立的な取り組みを支援し,協働とコミュニケーションを促すリーダーシップなのである。

*1:引用者注:isbn:9784887308626

*2:他の研究者や学生のない状態から研究室を設立し,学生を受け入れる場合には,所属学科や配属対象学生らの価値観を知ることになる.