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2円あまる

算数授業研究 79

算数授業研究 79

「筑波の算数」による雑誌の最新号です.ふむふむふむと,読み進めました.「トランプ配りの方法」を使った等分除の説明が,p.24に見られます.「1あたり量」「帰一法」を入れている記事もあります*1
なのですが,この本を買った甲斐があったと思えたのは,次の問題と反応です.

[わり算の筆算(5年)]
5000円で,300円の本を買うと,何さつ買えて,何円あまるでしょう。

問題そのものは,やさしく,ほとんどの子どもが難なく解決してきた。その中で、K児が,下記のように反応している。

つまずきは,その誤りを指摘することは易しい。しかし,誤りを指摘しただけでは,つまずきを活かしたことにはならない。なぜ答えの「16さつ買えて2円あまる」ではいけないのか。こうして取り上げられてきたのが,次のような反応であった。
C1:50÷3は本当は,5000÷300だから,0をつけたまま計算すると,あまりは200円です。
C2:50÷3の50は,百円玉が50こ集まった数で,50百円のことで,÷3の3は,百円玉が3つ集まった数で3百円だから,あまりの2は2百円です。
C3:わり算は,商とわられる数をかけて,それにあまりをたすと,わられる数になります。そこで300×16+2を計算すると,4802となり,おかしくなります。
C4:1さつ300円の本を買うのだから,本の代金は何千何百円になり,あまりが一桁の数になるはずがありません。
同じつまずきでも,その根拠の示し方は,紹介した事例のように実に多様である。その思考の多様性に触れさせながら,計算手続きのよさを十分に感得させること。これが計算指導の重要なポイントである。
(p.7)

上記を打ち出すにあたり入念にチェックを行いましたが,おかしな記述も見られます.まず,図の直後(原文では図の左)の段落の冒頭,「つまずきは,」は,ないほうが自然です.それと,C3にある「商とわられる数をかけて」は,文意が通じず,たしかめの式と整合性をとるなら,「わる数と商をかけて」とすべきでしょう.なお,問題は包含除に関するものであり,「16×300」とならない点については,1週間前に検討しています.
4人の反応のうち,なるほど,そう考えることもできるんだと思ったのは,その誤記を含むC3です.大人モードで言うと,
3×16+2=50
という等式の両辺に100をかけたとき,
300×16+200=5000
が得られるのであり,
300×16+2=5000
ではないということです.このとき,「16」は100倍されません.「3×16の100倍は300×1600」ではないのはもちろんですし,「3」「2」「50」そしてそれぞれを100倍した「300」「200」「5000」は金額に関する数量なのに対し「16」はそうでない(本の冊数という,異質な数量である)点からも,そうすることに違和感を持つことができます.
“一つの問題に対する反応がいくつもある”授業というのは,きっと算数を専門とする先生方の問題意識に入っているのでしょうけれど,“一つの問題に対する一つの反応に対する反応がいくつもある”というのは,授業時間や児童らの理解といった制約も加えると,難しい話であり,だからこそ,やりがいもあるのかもしれません.私が自分の範囲でできるのは,せいぜい,授業の小テストで意図的な誤りを提示し,修正してもらう(何通りかある修正方法のうち一つを書いてもらう)ことくらいです.


もう一つ,気になるものがあります.「次号予告」です.編集後記や奥付のあるページに,書かれています.

Vol.80 特集 かけ算を究める
次号は,「論究」号として,「かけ算を究める」という特集を企画しました。
最先端のかけ算の教材やその指導方法についてだけでなく,「かけ算とは何か」「かけ算の指導の歴史はどうだったのか」「かけ算指導についてどのような考え方があるのか」といったことについても整理していきたいと考えました。
「論究」号ですから,現場教師だけでなく,日本を代表する数学教育の先生方にもご執筆いただきます。この1冊が,かけ算指導の際,いつも手元に置いておきたいバイブルのような存在になればと考えています。

年間8号が発行されます.隔月で6冊,それと特別号が2冊です.次号がそのどちらなのかは,この雑誌のみからでは分かりませんが,隔月だと3月となります(Vol.79は「2012年1月1日発行」)ので,楽しみにしたいと思います.

*1:p.28.最初の問題は「10mのねだんが300円のリボンがあります。このリボンを24m買うと,代金はいくらになるでしょう。」で,子どもたちが3つの考え方を発表し,検討を経て,300×2.4の意味理解につなげています.