わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

tから学んだこと2

0. 「2」ですか?

前回

1. 他の方法を認めないのか?

Twitterを介した,「#掛算」の情報交換の中で,12月ごろだったか,ピッチ走法とストライド走法を持ち出して,他の方法を認めないのかといった質問がありました.
ツイートが見つからないので,記憶で書きますが,「学校教育はピッチ走法」だったかで,そんなたとえ話を出されても,返答に困るなあという思いでした.
その後,「走る」でかつて書いたことを,思い出しました.

他の方法を認めないのか,というのは,そこに書いた方法でテープを切った子を,1等としていいかどうか,というのに結びつけて考えるのがよさそうです.
なお,親が教えたかどうかは重要ではなく,本人が「なんでみんな,ゴールに向かってまっすぐ走らないんだろう」と思い,実行に移すという可能性もあります.
話を「かけ算の順序」に持っていくと,こうなります.

Q3 :「2×8ならタコ2本足」という教え方を肯定しますか?

回答:YES.
より具体的には「2×8だとタコ2本足と思われちゃうよ(君がそうじゃないという明確な意図をもって書いたとしても)」です.
書いた人がどう考えたかよりも,そう書いたらどう受け取られるかに注意します.

なぜ教材研究

これを書くまでに,「2×8だとタコ2本足」や「五輪車が4台など」について,情報整理や思案を行っています.「掛け算順序固定」問題対策本部については,あとで取り上げます.
ガラパゴスの蛙たち | メタメタの日でリンクされたので,意見を追加します.(1)はじめに思ったのですが,あなたの知識・主張・賛同者(コミュニティ)がガラパゴス的進化を遂げたという可能性は,考えなくていいのでしょうか.(2)かけ算を含む日本の算数の教育・指導が,外国を意識しながら発展し,“輸出”しているのを,対象を,広げる,狭める(2. イスラエルで, 3. ほかの国では),日本の「かけ算」,世界へ・世界とで紹介しています.(3)「2×8だとタコ2本足と思われちゃうよ(君がそうじゃないという明確な意図をもって書いたとしても)」は,『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』pp.46-47,『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』pp.44-45をもとにしています.前後のページと合わせて,かけ算の指導・学習のステップが提案されています.そろそろ,「点」への攻撃から脱却して,歴史・世界・日常生活との連携をも考慮に入れた,かけ算の指導の「線」(流れ)や「空間」を,ご提案いただくわけにはいかないでしょうか.(4)「かけ算の式は,「いくつ分×1つ分」で書くこともあるよ」を,教育に携わる方が言う事例は,書籍やWebからいくつか見かけています.「1つ分×いくつ分」を使うのは,算数の授業・テストだという点を無視するわけにはいかず,これは先月5日の件の前半と関係します.(5)「かけ算の意味を1つにしか理解しないというのは,知的につまらない」という意見表明は,あまりにも算数・数学教育の本を読んでいないか,偏った読み方をされています.『新版』p.21にはhttp://f.hatena.ne.jp/takehikom/20120125062629の図があり,かけ算の式にすると3×4,4×3,6×2,2×6となります.「知的につまらない」「長方形に並べて考えればいいじゃないか」などと表明する人の中で,図のように様々な「乗法的な構成」が,児童の反応として考えられると主張する人がいないのは,算数(数学)・授業・教育をどのように思えばいいのでしょうか.

2. あなたは疫学について分かっていない

疫学についてどのくらい知っているか,というのであれば,次の2点を挙げます.

  • 10年ほど前に,医大へ何度か打ち合わせに行きアドバイスをいただきながら,脳卒中アンケートのデータマイニングについて,論文に取りまとめました.その際に,疫学調査の基本事項を自習しました.
  • 昨年,1冊の本を読み,ダメ情報の見分けかたとして「疫学の基本定理」を取り上げています.この件は,1年ゼミで学生に報告させました*2

で,なんで「疫学」が出てきたのかというと,どうやら

に対するツイートのようです.
「かけ算の順序」に関連して言うのなら,定量評価あるいは量的研究に基づき,学習内容や指導方法が決定された事例があるか」や「そもそもそのようにして決定していいのか」を検討すべきでしょう.新しいことを提案するのなら,なおさらです.
事例については持ち合わせていませんが*3,後者すなわち手段の妥当性については,『数学教育学研究ハンドブック』(第1章§2(研究方法論),pp.9-15)に,否定的な見解がまとめられています.
記述を取り出すと,「これまでのいわゆる実験心理学の成果が,教育はおろか,算数・数学教育の研究にも,それほど大きなインパクトを与えていない」(p.11)とあります*4.完全否定というわけではない点,しかし一方で,そのセクションの中に,国内外において量的研究に基づく学習内容・指導方法の選定(あるいは変更)事例が書かれていない点も,押さえておきたいところです.
結局のところ,

その上で、ある時期まで「かけ算の順序」に拘る指導を徹底することを自覚的に選ぶとしたら(いずれは、「どっちでもオーケイ」にむけてテイクオフしなければないないにしても)、それによって得られる教育効果のエビデンスに基づいて決めてほしい。
なおエビデンスについては、教育現場でどのように捉えられているかぼくは知らないので、これも誰が知っている人いますか、と問いかけたい。教育実践がどのような成果を挙げるか、きちんとした研究設計をした上での証拠のこと。このブログを読んでくれている人にとっては「例によって」、疫学も関係してくること。

http://ttchopper.blog.ocn.ne.jp/leviathan/2011/08/post_d371.html

という提案は,数学教育学の知見に基づくと,的外れであると言わざるを得ません.
そういう指摘を誰もしない状況は,「かけ算の順序論争」が成熟していない,あるいは,算数・数学教育の専門家には箸にも棒にもかからないように映ります.

3. じゃあ,教育効果って定量評価できないの?

一つの文献を持ってきて,「この方法が効果的」とか「だから今の教育はダメだ」と一喜一憂するのが間違いなのでしょう.
そもそもの話として,金田論文それから「倍」と「積」から学んだこと(17. 金田氏の論文は信頼できない)の中で紹介した学術文献は,教育効果に関してではなく,学習者らの理解についての現状分析が中心となっています.
さらに,その分析を適切に行うため,標準的な学力テストと異なる問題設定がなされることにも,注意をしたいところです.たとえば,全員が正解あるいは不正解という設問は,避けられる傾向にあると言っていいでしょう.
限界があることを認識しつつ,その限界に近づけるよう,学術的な誠実さと,関係者の協力をもって調査を実施し,論文その他の形で成果が公表されているわけです.専門家でない者が文献を読んだり,Twitterをはじめネットで紹介したりする際に,配慮することはできないものでしょうか.
「限界」は,個人的に好んで使う言葉ですが,今回の話だと「1クラスや,せいぜい2,3校程度の調査・評価では,その結果は,日本の算数教育を反映したものとならない」でしょうか.教育効果を確認するための環境を作り,有意な結果が出たとしても---「かけ算の順序をなくした指導」が「かけ算の順序にこだわる指導」より教育効果が高いと示されたとしても---,他にも適用できると保証されたわけではありません.
「今の教育はダメだ」という主張についても,思うところを書いておきます.
正解率の低い問題というのは,新聞やWebでも見かけますが,『小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』もまたインパクトがあります.教育に携わる人が,そのように書くのは,「教科書どおりの学習では,定着しない.プラスアルファの指導を,工夫しよう」という意味がこめられているのではないか*5と,考えています.

4. 長い!

  • 短く書くことで,書き手の意図通りに理解してくれる
  • 短く書くことで,書き手の意図通りに理解してくれない
  • 長く書くことで,書き手の意図通りに理解してくれる
  • 長く書くことで,書き手の意図通りに理解してくれない

これらを勘案して,「かけ算の順序」について当雑記で何か書くときは,出典や思考プロセスを付け加えるよう努めています.したがって長くなります.
ちなみにこれらの項目は,yesかnoかではなく,定量的に認識しています.といっても,それぞれ何点,といった数値化・点数化ではなく,大まかに見積もって,修正の前と後とで比較しながら,自分なりに文章を整形していきます.この「見積もり」「比較」は,昨年末にも書いています.
具体的には,こうです.ざっと書いてから,それぞれの文や段落,雑報形式なら各トピックを読み直します.そして,バランスのおかしいところがあれば,足したり引いたり,かけたり割ったりします.
文章を書いていて,「積」の要素があるなと感づいたら,たいてい,表をつくります.
「割る」というのは,実は除法ではなく,エントリまたはトピックの分割です.本日も,「2. あなたは疫学について分かっていない」と「3. じゃあ,教育効果って定量評価できないの?」は当初,一つのトピックで書いていて,大きくなったので分割したのでした.

5. 「掛け算順序固定」問題対策本部に,エールを

- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキですね.
何かページができたら,Twitterで書くようにしています.
つぶやいていない中から,エールを送るとすれば,次の2つでしょうか.

  • 「算数・数学の真の実力」とは何なのか,明確にしてください.
  • 「算数・数学の真の実力」が明確になったとき,それを身につけるための活動と,これまでの(真の実力が身についていないという)教育との違いは何なのか,分かりやすく示してください.

脚注から本文へ移動:野暮な提案ですが,たとえば- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキにある「アレイ図を書かせれば自動的にそういう体験が出来るにもかかわらず、実際にはそれが行われておらず、「式と答」だけで完結するようなテストを中心に算数教育が行われてきた」や「「掛け算順序固定」を擁護する人は異常なほどに「1つ分×いくつ分」にこだわります」に,根拠がほしいところです.ただちに野暮な見解ですが,個人的にはこれらの主張,賛同できません.前者については,教育について表に出にくい情報---たとえば「指導と評価の一体化」に基づく指導---をどのようにイメージしているかによって,判断が分かれるように思います.後者は,「擁護」を「攻撃」に書き換えれば,賛成ですが,そうすると文章がずいぶん変わることになりそうです.
あれれ,命令文になってしまったなあ.あくまで「期待」「エール」ですので.
「アレイ・グリッド(AG)モデル」とその利用例については,http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391の文献を読み直し,アレイ図として自分なりに整理する機会を得ました.- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキは,isbn:4140880368が背景にあると考えています.

6. はてブ? ツイート?

「かけ算の順序論争」に関係しそうなWebページを見かけたら,次のようにしています.

手動*6のツイートにはTweenを,クリップボード履歴にはClock Launcherを使用しています.

00. はてブ

はてブありがとうございます.書く励みになります.

id:counterfactual 僕の脳は、変数Yのa倍はaYという仕様なので、タコ2匹の合計の脚の数は2X8だな

http://b.hatena.ne.jp/counterfactual/20120209#bookmark-80169261

それは,『数の科学―水道方式の基礎 (1975年) (教育文庫〈7〉)』に書かれている「乗数先書」のことですね.「aY」「a倍のY」「a times Y」は乗数先書,「Y×a」「Yのa倍」「Y multiplied by a」は被乗数先書です.*7
そして日本の算数はというと,被乗数先書です.タコの足の問題で,2(匹)を乗数,8(本)を被乗数と認識したら---子どもはそのような対応づけをしませんが---,式は8×2になります.
他書だと,『量と数の理論 (1978年)』p.17に「長さAの2倍というのは,A+Aのことである.この長さを2AまたはA×2で表す」とあります.別のページにも興味深い記述があり,たぶん次回の[5×3]カテゴリーのエントリで取り上げる予定です.

(最終更新日時:Sat Feb 11 05:54:35 2012ごろ)

*1:実話かどうかを気にする方のために,書いておくと,妻なのです.

*2:あれ? 自分が手本として話したんだっけ…と,配付資料のファイルを見直してみると,8番目に発表する学生に割り当てていました.

*3:悪魔の証明ってやつでしょうか.

*4:これの言い換えになりますが,日本数学教育学会による,乗法の意味づけの中で,同一ページからの引用を入れています.

*5:アメリカ DePaul 大学 高橋 昭彦 (Akihiko Takahashi)より:「日本の教科書はミニマム・エッセンシャル 要点を上手く纏め生徒にも分かりやすく構成されています。そして指導日数より少ない時間で全ての内容を教える事が出来るようになっています。ですから、どの生徒も教科書に書かれている事は最低全部教えてもらう事が出来るのです。そして余った時間で先生がプラスして教えるようなカリキュラムになっていますから、最低限のレベルがしっかりしていて全体の平均が上がり、そこにプラスアルファされるのですから教育のレベルが高くなります。」

*6:何だそれ.

*7:「乗数先唱」「被乗数先唱」と書いていましたが,訂正します.3×2=6を「にさんがろく」と言うのが「乗数先唱」です.