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教授のお仕事〜だから書くって勉強になる

教授のお仕事

教授のお仕事

検索すると,http://hon.bunshun.jp/articles/-/754で,執筆動機や,主人公の姓,「中(あたり)」の由来が記されています.
内容はというと,中(あたり)一(はじめ)が勤務する私立・都(みやこ)大学で起こる,雑多なことです.それに対する中(あたり)の心情と行動が面白く,共感を持ちました.
ところで,「中(あたり)」は原文では,「中」の右に「あたり」のふりがなです.本全体で,主人公を指すときは必ず,この表記です.一つの話に数十個は見られます.本全体で,いくつになるのでしょうか.
前の前の段落に書いた「心情」について,一つ抜き書きします.

新垣かおる助手は核心を突いたことを言う。しかし、剽窃は今はやりのeラーニングで主に使われていて、他人の書いた文章をそのままコピーして自分の文章にはりつけるといったかなり悪質なものを言うので、対面授業での試験や、本人確認のためレポートは手書きでなければダメと言いわたしてある中(あたり)の授業では起こり得ない。中(あたり)の試験は何を持ち込んでもいいので、持ち込んだ本に適当な部分があると、一字一句移して書くケースが無いとは言えないが、中(あたり)はそれでも、自分が書いているうちに、それが勉強になっているはずだから良しとしている。書写というのは勉強の中でも一番効果のあるものだからだ。中(あたり)は昔から、読んでわかったことは脳に定着しないと考えていて、他人の話を聞く時は、必ずキーワーズをメモしておき、研究室にもどったらA4の白紙に聞いたことをキーワーズをおって再現させて復習してきた。だから書くって勉強になると信じている。しかしこの剽窃というやつは勉強にはあまりならない。他人の文章をコピーし、編集し、前や後の文章の間にペタペタくっつけて、あたかも自分の考えのようにするこすいやり方だ。言ってみれば試験場のカンニング以下の悪さであると中(あたり)は考えている。しかし、この剽窃は見ぬけない場合が多々ある。同じ分野であれば、そう専門家はいないし、ほとんど読んでいるので、すぐにわかるのだが、広い分野のものだったり、技術論や引用や孫引きなどを加工されたりするとわからなくなってしまう。それに何十枚というレポートのひとつひとつを減点にもどって考察するというのは採点時間の関係でできない。だから記述式のテストをしないという先生もいるくらいだ。他人を試すということは大変なのだ。
(pp.144-145)

話はレポートの剽窃,勉強の方法,そしてテストすることの難しさ*1にまで及んでいます.
大部分は賛成なのですが,自分の担当科目と違うところもあります.まずレポートは,いわゆるワープロ書きを推奨しています.そして試験には,論述を入れています.論述式の出題を採用しているのは,「点を取ってくれ」という意図からで,試験前に学生に伝えています.
今年度は,次のように採点しました.赤ペンを手に取り,まず1パスで「大丸」「小丸」「小バツ」をたくさんつけます.そして2パスで点数を決めます*2
核となる事項に対して,正しく答えていれば「大丸」,核ではないが小さなことでも適切な内容であれば「小丸」,そして間違いには「小バツ*3です.誤記にはその文字に「・」を打ちます.
満点は,核となる事項すべてに「大丸」があり,かつ十分な数の「小丸」がついているものとしました.今期の試験の大丸事項は2つで,「これは何をするプログラムなのか」と「(問題文の注意事項に書いた)実行コマンドで,何を出力するか」でした.
たくさん書いていれば,小丸になるものはいくつも見つかります.5〜6行程度でも,技術的に適切な事柄には小丸をつけます.そして「妥当なところ」を下回らない点数を,つけることができます.
本に戻ります.研究は膨大な情報源から適切な選択を行い,緻密な検討を経て,結論なり主張なりへと至るわけですが,大学生活における問題解決は,“その一言で”なされていることを,いくつかの話で目にしました.人事委員会での昇任の決め方(pp.42-44),ボランティアセンター長としての学生(とその親)への対応(pp.174-175)が,印象に残っています.
同僚の死をきっかけとして,定年より5年も前,そして退職金が2倍になる早期退職者優遇制度を使わずに,都大学を退職することを決意します.最終講義での学生向けの言葉(pp.276-278),そして謝恩パーティでの同僚向けの言葉(pp.281-282)は,段落の長さを忘れさせるものでした.名誉教授のこと,助手*4のことも話をつけて,大団円とはまさにこのことと思いました.
(最終更新日時:Tue Feb 28 06:32:36 2012ごろ)

*1:別の話ですが,テストの答案を返却せよという学生とのやりとり(pp.157-160)も,興味深い内容になっています.

*2:野暮な解説ですが,「1パス」「2パス」ごとに,全答案を順に読むということです.関連:「2パス」の検索結果

*3:バツは減点対象とせず,解答・解説の文書を整理していく際に,「誤答例」に加えました.

*4:p.35に,都(みやこ)大学での昇任条件が書かれています.それは助教から准教授,准教授から教授に関するもので,助手への言及はありません.ここで,助教と助手に違いがつけられているのが読み取れます.