わさっきhb

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ジェットコースター問題

nlog(n): いまさらだけど算数のかけ算には順番があるよのコメント欄が,妙な展開になっています.
February 29, 2012 22:26付けのコメントで,http://hokkaido-sannsuu.com/pdf_sidouan/02/2nenkakezan3.pdfというのにリンクされています.
主な問いを取り出します.

これを《ジェットコースター問題》と書くことにします.そして「子供が6人います。みかんを4個ずつあげるには,いくついるでしょう」は《みかん問題》と呼びましょう.
これらには,2種類の相違点があります.
一つは,《ジェットコースター問題》は,いろいろな求め方を発見して授業中に皆と共有するのに対して,《みかん問題》は,○×などがつけられるのを意識してどのように解答する(一つの解答を記述する)かを決めることが意図されています.*1
この違いは2011年5月4日(「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと・何じゃこの掲示板は)で指摘しています.かけ算ばっかりで読み飽きた,という方は,2008年2月9日(そろそろレポート課題について一言いっとくか)をどうぞ.
もう一つの違いは,《ジェットコースター問題》は「一つの数をほかの数の積としてみること」と密接な関係があるのに対して,《みかん問題》は,「乗法が用いられる場合とその意味」を直接的に問うものであることです.
「一つの数をほかの数の積としてみること」は,小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》*2)p.81に記載されており,一方「乗法が用いられる場合とその意味」はp.87です.出現ページよりもむしろ,それぞれの上位にあるものを,見るべきでしょう.前者は「A(1) 数の意味や表し方」,後者は「A(3) 乗法」です.
さらに言うと,《ジェットコースター問題》には「かけ算を使って表そう」とありますが,この指示を取り除いても,問題(そして授業)は成り立ちます.「まとめて数える」です.そのほか,たし算で表せる(そのままではかけ算で表せられない)けれど,一部を移すことでかけ算にできるという授業例は,『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』p.25にも見られます.
さて,コメント欄のうしろの方で,この問題を持ち出した人が

 私が強く反対するのは、このジェットコースターの問題で
「4×3=12 だけが正解。それ以外はバツ。」
とするようなやり方に対してです。

と書いています.しかし,2年で身につけてほしいことに注意を払い,授業研究を怠らない先生であれば,《ジェットコースター問題》に「4×3=12 だけが正解。それ以外はバツ。」とする人は皆無と言っていいでしょう.*3
《ジェットコースター問題》が,「一つの数をほかの数の積としてみること」を学習するために作られた最初の問題であれば,史料的価値もあるのですが,そういうわけでもなさそうです.
《みかん問題》のほうですが,1年や,2年でもかけ算を学習していない段階で問うことは一応可能です.とはいえ,他の類題や解説書に注意すると,「幾つ分」が先に,「一つ分の大きさ」になるものが後に出現する文章題で,それぞれの数を発見し,「一つ分の大きさ×幾つ分」として,かけ算の式で表すことを期待する,2年向け(それも,ある程度かけ算のを学習した段階以降)の典型的な出題だなと思わざるを得ません.一つ,関連するキーワードを書いておくと,「演算決定」です.


もう一つ,別のcommenterさんとブログ主さんとのやりとりにも,少々関心があります.
私もいくつか書いたものの,お互いに得られるものはなかったようです.で,

を読んで,いろんなことが氷解しました.真っ先に感じ取ったのは,これまで読んできた文章との,語彙の違いです.かの方は,数学教育の書籍や(広義の)論文もまともに読んでいない---読んでいるとしてもそれを「吸収」しようとしていない---わけです*4.それら一連のツイートについて,算数・数学教育の中から,対応しそうな言葉をあえて一つ取り出すなら,「形式不易の原理」でしょうか.
それから,これを書いた人が,実際に児童に接していない---そして児童のための行動を起こしていない---ことについて,より強い確証を持つことができました.とはいえこれは,そのtogetterを読むより前,

子どもがそれで困っている。掛け算順序を強制されて分からないで泣いている。

のところで確定でした.学校の先生でなく,子どもをお持ちの方,預かって面倒を見ている方であっても,「困っている」「泣いている」と代弁する人はいないわけです.
もし本当に困っているのなら,子どもとともにより良い方向へ向かうための,協力者を探します.「嘘も方便の掛け算順序」という表現とは,明白なミスマッチです.
いやそれでも,そういった表現をネット上では使用する一方で,子どもには不都合なく接している,という可能性はあります.別人格とでも言いましょうか.コメントを読み直してみると,「その情けなさにモニターの向こうで嗤うことはあるかもしれないが。」なんてのも見つかります.


現場教育は「かけ算の順序」にこだわっているとして,攻撃的な表現をとる人が「かけ算の順序」を好んで使い,過去・現在・未来に配慮して教育を行いながら,相互理解をしてきた先生方は「かけ算の順序」に戸惑う,そんな事例が増えているように思います.
(最終更新日時:Tue Mar 6 05:28:47 2012ごろ)

*1:野暮な解説ですが,「決める」のは児童で,「意図する」のは先生です.

*2:再び野暮な解説ですが,このラベリングをしたものの,本エントリで一切使用していません.それでもここに書くのは,当雑記を対象とした検索で,引っかかってもらうことを期待するためです.

*3:別件の細かいツッコミを入れておくと,p.4右下の図で,「4×3=12」「2×6=12」「6×2=12」とあるけれども,それぞれ被乗数と乗数を逆にした「3×4=12」「6×2=12」「2×6=12」でもいい(それに置き換えても,左の図を表した式となる)のか,p.3に「3×4」があるけれど以降には一切出てこない(児童の反応に見られない)のはどういうことなのだろう,といったあたりも,要検討ではないかと思います.ブログ主さんのMarch 03, 2012 15:57の指摘は,これらのことをも踏まえたものなのでしょう.

*4:関連:「専門家は,そういう論文を書くときに,何は書かなくてはならないか,何は書いてもよいか,何は書かない方がよいか,何は書いてはならないか,を知っている.というよりは,それを知っている人のことを,現在では『専門家』と呼ぶのである.そのノウハウは,上に広く『セッティング』という大まかな言葉で編掛けをした多くの事柄と関わるものである.」(『科学者とは何か (新潮選書)』).もちろん私もあなたも「論文」は書きませんので,「文章」や「意見」に読み替えるべきでしょうね.