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8マス関係表

乗法の意味理解を支援する,「8マス関係表」を考案しました.ここに,その考え方や使い方を紹介します.

8マス関係表の例


これは,左上のマスに書いている「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」をもとに作られる,8マス関係表です.
2行・4列で構成します.同じ行(横方向)は同じ場面になります.実際,

  • さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

  • 1さらに りんごが 3こずつ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

は,同じ場面であり,場面をイメージすると,同じ(行の)図になるからです.
しかし,上記の2つの文章題は,表の2行目にある

  • さらが 3まい あります。1さらに りんごが 5こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

  • 1さらに りんごが 5こずつ のって います。そのような さらが 3まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

とは異なります.これもまた,図で確認することができます.
右の2列は,図と式との対応付けとなります.上の段では,一つ分の大きさが3,それが幾つ分なのかというと5なので,3×5という式になります.下の段では,5つずつ3つあるので,5×3です.

マスの数を減らすと

上の8マス関係表から一部を取り出し,見比べていきます.

■ 1マス


問題文だけです.

■ 2マス


問題文と式の対応付けです.テストでも,このように式が書けるかを通じて,乗法の意味理解を確認しているわけです.
とはいえ,この直結は,自然なものとは言えません.
8マス関係表,または後述の4マス(横一文字)を理解すれば,このように結びつけられる,とするのがいいように思います.

■ 3マス


問題文を図にし,それをもとに演算を決定して式を書くという,学校現場で(そしてふだんの問題解決においても)推奨される流れです.

■ 4マス(横一文字)


もとの問題文と等価で,取り扱いやすくした文を,差し込んでいます.
「1さらに りんごが 3こずつ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」は,「3こずつ」が先に,「5まい」が後に現れるため,子どもたちにとってなじみの---取り扱いやすい---かけ算の問題となります.

■ 4マス(田の字)

4つの問題文だけを,取り出してみます.

横方向に隣り合う2問どうしは,同じ場面となります(なぜか? と聞かれたら,図を持ってくるしかないでしょうかね.そうなると「6マス関係表」です).
縦方向に隣り合う2問どうしは,それぞれ,「5」と「3」を交換したものとなります.したがって,数量(そして場面)が異なります.
興味深いのは斜めの方向です.この種の表で,斜めは通常,関連が薄いのですが,これに関しては,斜めに見るのにも意義があります.何かというと,

  • さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

  • 1さらに りんごが 5こずつ のって います。そのような さらが 3まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

は,「5」が先,「3」が後に出現している,という共通点があります(残りのペアは,「3」が先,「5」が後です).
2つの数の出現順は同じだけれど,りんごの個数・さらの枚数に注意すると,それぞれ異なる場面というわけです.

予想される反論とそのお答え

(a)「ここまで書かないといけないのか」

毎回,この表を作れ,という主張ではありません.
「5×3かな? 3×5かな?」と考える際の支援として,一度使ってみてはいかがでしょうか,という提案です.
この大きな枠組みを持っておけば,上に書いた「3マス」「2マス」を頭の中で構成するのも,容易になります.

(b)「トランプ配りで,上の段の問題も,5×3と書ける」

ということは,田の字の4つの問題はいずれも,「3×5=15」であるとともに「5×3=15」であるということになりますが,その後の学習や,日常生活への適用まで考えたとき,本当にそれでいいのでしょうか.
私は,場面を---数の出現や,「2つの数をかけ合わせれば積が求められる」という事項だけにとらわれず---適切に理解し,他の場面などとの比較もしつつ,(この例ではかけ算の)式によって書き分けられるとする,現在の算数教育を支持します.
交換法則を根拠とした反論についても,同様です.

(c)「ネット上の議論で,この種の文章題はどちらでもよいという結論になっている」

どちらでもよいという主張において,(算数で解けることが期待される)問題の集合の同定や分類が,きちんとなされていないように見受けます.
1年から6年までの全学年と言わなくても,この種の問題を子どもたちが解くまでに,どのような授業や出題などを通じて,何を学んできたかについて,検討が不可欠でしょう.
加えて,マルかバツかについては,現在,(想像するに,トランプ配りを提示した遠山啓は,その恩恵に預かれなかった)「教育評価」の概念を抜きに語れないとも考えていますので,その点を踏まえた上で,再度の反論をお願いします.

(d) 「『ずつ』でパターンマッチすればいいなんて教育はダメだ」

分離量×分離量の場合,「ずつ」が明記されないと,かけ算の式で表せることが保証されないという,作題上の事情があります.
例を挙げると,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」は,1枚の皿にだけ3個乗っていて,残りはりんごなし,と解釈することもできます.
なお,連続量×分離量の場面においては,問題集を開くと,「ずつ」のない文章題がかなり見られます.学習指導要領解説の中にも,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか」という例があります*1
本やWebから,教師の試みを目にしてきた限りで言うと,問題文からの「パターンマッチ」は,むしろ避ける傾向にあるように思えます.2年で学習する逆思考が,その一例です.
それと比較すると,- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキに代表される見方は,教育や学習の実態からますます離れていき,タコツボ化していくようにも感じます.

(e) 「4行・2列と縦長にしたほうが見やすいのでは」

このことについては,表を作りながら,考えました.4行・2列にしたほうが,式の上下の余白が少なくて済むという利点があります.
しかしながら,横長のほうがよいという判断になりました.理由は2つあって,まずは出来上がりを見るときの都合です.横書きなので,視線は左から右,Zの文字を描くように見ていくのが自然になります.
もう一つの理由は,PowerPointで作成したり,黒板・ホワイトボードに描いたり(模造紙を)貼り付けたりするには,やっぱり横長だろうということです.

作成の動機

依拠しているメソッドが,2つあります.一つは,田中博史氏が数年来に渡って提唱している「4マス関係表」です.書籍としては,『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』がそのものずばりで,『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』も理解に役立ちました.
ですが,この4マス関係表は,5年生あたりで,かけ算かわり算かを判断する際に,活用が期待されています.
本日提案した「8マス関係表」は,2年生のかけ算の支援を試みるものです.この表は,子どもたちが問題を解くたびに使うのではなく,問題文の構造を先生と子どもたち(親子間でも可能です)で確認するための道具となります.そのため,表を作るのは基本的に,教える側です.
もう一つは,『小学校新卒教師に贈る算数科授業の基本技88』の記述です.

次の(1)問題は,ほとんどの子どもが正解します。ところが,(2)の問題では逆に多くの子どもが間違います。

問題(1) 1はこに6こずつ入ったせっけんが4はこあります。せっけんはぜんぶで何こありますか。 問題(2) せっけんの入ったはこが6はこあります。1はこに4こずつ入っています。ぜんぶで何こありますか。
正答 6×4=24 答え24こ 誤答 6×4=24 答え24こ

(2)の誤答には,「かけ算の意味が理解できていないため,数値の出てきた順にかけた。」「(1)のような文章題の経験しかなく,数値の出てきた順にかけた。」の2つの原因が考えられます。
問題の様子を図に表してみる,数量の関係をかけられる数(基にする数,1つ分)やかける数(いくつ分,何ばい)で捉えてみることなどかけ算の意味の理解を深める学習をさせます。また問題(1)と(2)を比べさせ,図で表した場面と式を対応させて違いを理解させることも有効です。問題の理解,立式,計算,答えを総合的に練習させる必要があります。
(p.40.カッコ囲みは原文では丸囲み)

2つの文章題を横に並べています.これらは異なる場面であり,したがって式も異なるのを確認する,という学習法の提案です.
この2つの横並びに,なるほどと思いながらも違和感を持ち,関連する問いを付け加えることで,田の字になるよう文章題を配置するに至りました.

PowerPointファイル

ダウンロードできるようにしました.

りんごの問題のほか,ネット上で話題になった2つの出題についても,8マス関係表で表しています.
ライセンスは,CC BY-SA 2.1です.

(最終更新日時:Sun Mar 18 05:39:13 2012ごろ.判定→判断)

*1:ただし,これは第3学年に入っています.学習指導要領および解説では,長さをはじめとする量に関して,第2学年では,演算(加法,減法,乗法)についての記載は見られません.