1. 割るのは「/」,では「\」は?
学部生時代の輪講の記憶に間違いがなければ,『Concrete Mathematics: A Foundation for Computer Science』の中で,「3 divides 12(3は12を割り切る)」という関係を「3\12」と表していたと思います.
もちろんこれは,「12/3」が「12 divided by 3(12割る3)」になることを踏まえてのものです.
2. 286÷16
前回の「かけ算」練習を兼ねた速算の授業に続いて,「わり算ゲーム」という授業を行いました。
わり算ゲーム ( 小学校 ) - 授業がんばりMATH - Yahoo!ブログ
左のように「3桁÷2桁」の場面を設定し,いつもの0〜9までの数字カードを,わられる数は子どもたちが,わる数は私が引き,わり進みも含めて「わり切れたら先生の勝ち,割り切れなかったら子どもたちの勝ち」というルールで行います。ルール自体は単純ですが,計算ができない児童にとっては大変です。まずはその復習が第一義です。
3回やって,全部私が勝ちました。子どもたちは大変悔しがっています。当然これには仕掛けがあります。私は以前にも書いたようにhttp://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/24180462.html自由にカードを引くことができます。そのためわられる数を「16,32,64」という数字にしています。これらの数は「2しか素因数を持たない数」ですので,どんな数でもわりきってしまうのです。子どもたちからは,
「先生,ずるい。なんか仕掛けしてるでしょ。」
等の声と共に,
「先生,いつも偶数じゃない。今度は奇数にしてよ。」
等と言います。
最初に読んだとき,「え,286は16で割り切れないでしょ!?」と思いました.
時間を空けて,読み直してみると,“わり進みも含めて”という表現が入っているではありませんか.
用語を確認します.
なお,「内容の取扱い」の(4)については,「整数を整数で割って商が小数になる場合も含めるものとする」と示している。整数を整数で割ると,結果が整数になる場合とならない場合がある。整数で割り切れないとき,さらに,割り進むことができることを指導する。
(小学校学習指導要領解説 算数編《算数解説》p.142.強調は引用者)
『算数教育指導用語辞典』だと,p.210に「わり進み」の項目がありますが,記述はなぜか,仮商の修正の話です.同じページの脚注(「わり切れる」「わり切れない」)のほうが,今関心のある内容となっています.
といったわけで,「わり進む」という言葉を理解しました.
小学校の授業を離れますが,まずはもとのブログにあった,3つのわり算が正しいことを,コマンド実行で確かめておきます.
$ echo "286/16" | bc 17 $ echo "325/32" | bc 10 $ echo "602/64" | bc 9
これではダメです.結果がすべて整数になります*1.オプションをつけておかないと…
$ echo "286/16" | bc -l 17.87500000000000000000 $ echo "325/32" | bc -l 10.15625000000000000000 $ echo "602/64" | bc -l 9.40625000000000000000
「0」が無駄に並んでいますが,ともあれ,わり進めた結果が正しいことが確かめられました.
小学生のときだったか,大学に入ってからだったか,この意味で割り切れるための除数の条件について,考えたことがあります.n進法の整数どうしの除算において,割り切れるための必要十分条件は,除数mが,と表せること,ただし,はnの素因数,は非負整数,でよかったかな.
これが適切な命題(定理)であれば,そこからただちに,「10進数の0.1すなわち10分の1は,2進数では有限小数として表現できない(循環小数となる)」という,計算機の内部構造を学習する際に間違いなく理解しておくべき基本事項も導けます.
3. あまりのある等分除の問題
あまりのあるわり算って、整数の世界の話(がメイン)という印象があるのですが、そんなこんなで、整数のわり算の段階では、「わられる数=わる数×商+あまり」の式は出せないわけです(×、+の混じった式を既習か否かも関わってくるかも)。なぜならば、等分除「全体の数÷いくつ分=1つ分の数」に適用したときに、「全体の数=(制限のある)いくつ分×1つ分の数+あまり」となってしまうので。いっそ、「等分除であまりのあるわり算ってないんだ」とすれば話はスッキリするのですが、立派でリアルな「あまりのある等分除の問題」を作ってくださっているのです。
「わられる数=わる数×商+あまり」においても教科書にぬかりはなかった | TETRA'S MATH
記事全体で,整数の世界(分離量どうし)かつ「あまりのある等分除」の事例が見当たらず,少々悩みました.
私がかつて検討したのは次のとおり.
- 「76まいの色紙を,3人で同じ数ずつ分けます。1人分は何まいになって,何まいあまりますか」
- 「76まいの色紙があります。3人に25まいずつ配ると,何まいあまりますか」
- わり算の問題ではない.
- 期待される式は(例えば「25×3=75 76−75=1」を経て)「76−25×3=1」.
- 足し算の関係で見直すと,「76=25×3+1」とも書ける.
- 「76まいの色紙があります。3人に20まいずつ配る(分ける)と,何まいあまりますか」
- これも,わり算の問題ではない.
- 期待されるたし算・かけ算の式は「76=20×3+16」.
- 「76=3×20+16」とするのは不自然.なぜなら,被除数,除数,商,余りの間の関係を使う場合,余りは除数より小さい必要があるが,そこでは16>3となるから.
といったわけで,「どんな問題・場面か」「何を使って,式に表すか」によって,「76=3×25+1」とも「76=25×3+1」とも書き分けられるという次第です.
ところで,『算数教育指導用語辞典』p.206に,ちょっと興味深い記述があります.割り切れる場合の答えの確かめは「(わる数)×(答え)=(わられる数)または(答え)×(わる数)=(わられる数)」と2種類の式があるのに対し,その直後,「あまりのあるわり算」の項目では,「a÷b=cあまりd(a…わられる数,b…わる数,c…商,d…余り)」に対する関係式は「a=b×c+d」のみが書かれています.
4. 等分除と包含除を一つにするための考え方
除法は,乗法の逆算ともみられる。そこで,乗法と関連させて,被乗数,乗数のいずれを求める場合に当たっているかを明確にすることも大切である。包含除は3×□=12の□を求める場合であり,等分除は,□×3=12の□を求める場合である。また,実際に分ける場合でも,包含除も等分除と同じ仕方で分けることができることなどにも着目できるようにしていくことが大切である。そのようにして,どちらも同じ式で表すことができることが分かるようにする。
(《算数解説》p.110)
包含除と等分除を「同じ」とするためのロジックについて,『小数・分数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』pp.116-117を読んで,なるほどと思ったことがあります.そこでのポイントは,「意味・演算決定の段階では別,計算方法では(かけ算の交換法則を取り入れることで)同一視可能」です.日を改めて,詳しく見ていきたいと思います.
5. 度の第一用法
そして次の段落で「度の三用法」を出してきています。「度」というのは異種の2量の割合、つまり「単位量あたりの大きさ」のことです。たとえば密度を例にとると、次のようになります。
http://math.artet.net/?eid=1421769
第一用法 質量÷体積=密度
第二用法 密度×体積=質量
第三用法 質量÷密度=体積
「割合の三用法」(遠山啓は「率の三用法」とよんでいる)と見比べる全体的に構造が異なっていますが、除法についてはひとまずおいといて、第二用法だけみると、「割合の三用法」とは式の順序が構造的に異なっていることがわかります。その違いを詳しく見るためには外延量と内包量の違いをおさえておかなければならないのですが、これがまた一仕事なのであとにまわすとして先を読んでいくと、「乗法の意味づけに第2用法が用いられることはいうまでもない。ほかに乗法は存在しないからである。ところが,除法になると,第1用法と第3用法のうち,どちらを選ぶかという問題がおこってくる」と遠山啓は語っています。
「構造的に異なっていること」について,遠山の思考プロセスの外から見る者として,
- 「質量÷体積=密度」は,割合の第3用法ではないか?
という疑問文で表現できそうです.
というのも,google:第1用法 包含除で上位を見てみると,第1用法に包含除を結びつけているものと,等分除に結びつけているものが,区別できるのです.遠山の思考プロセス,もしくは「度の第一用法」は,等分除に基づいていると言ってよさそうです.
そして,《算数解説》を読んだ限りの,あまり確度の高くない疑問ですが,
- 異種の二つの量の割合を考えるときには,3用法,より正確には「第1用法」を定めて実際の問題に適用するというのは,適切な手段ではないのでは?
というのも思い浮かびます.