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複比例とテンソル積

複比例〜文献からの派生話です.[銀林1975b]を追記する前に,複比例の説明を読みました.そこに「テンソル積」も書かれていたのですが,読み飛ばしていました.
その後,新たな情報に出会います.

この数学を示したのは,わたしの認識しているところでは,小島順である。
1970年代後半,小島は「量の数学」をテーマにした一連の論文を『数学セミナー』誌 (日本評論社) に発表する。そしてその中に,「量の積」を回収する数学としてテンソル積を論ずるものがある。

小島順の名前で,手持ちの本といえば,

です.読み直してみたところ,次のことが分かりました.

  • 出版年から明らかなように,1977年以降に数学セミナー誌で発表するより前に,テンソル積や複比例の説明を含む同書が刊行されています.
  • テンソル積の説明や利用がなされているのはpp.56-62です.節項の番号と小見出し*1になっているものは次のとおり.
  • 本の中で,テンソル積の表記が最初に現れるのは,まえがきのところです.
  • テンソル積の可換図式がp.58にあります.の2番目の図や,wikipedia:テンソル積の図とも,共通性があります.

さらに,参考文献(あとがきに記載)の一つに[銀林1975b]を挙げています.本を広げて読み直すと,p.188の脚注に「1) これは,複線形代数で,2つの線形空間E,FのテンソルE\otimes Fを構成する論理と同一である。たとえば,ブルバキ数学原論』「代数2」(東京図書)参照。」とあります.同じページの本文では,複比例関数と正比例関数の結びつきを示しています.可換図式は,xやyといった,集合ではなくその要素(個別の量を,文字にしたもの)を使っています.
[小島1976]の参考文献に戻ると,「ブルバキ数学原論代数2」が入っています.そのほか,森毅や遠山啓の本も,「量の分析については」として,[銀林1975b]と同じグループの中で記載されています.
1970年代に本になったいくつかの「量の理論」が,これでつながりそうです.
ここで別の話に.を最初に読んだとき,最初の印象は,「え,だから何?」でした.テンソル積こそ使用していないものの,おおむねその流れで「量の何倍」の式にした計算例を,[田村1978]で見ているからです.
引っかかったのは,「2個/皿×3皿」という形の,数教協ベースの「積の乗法」と,「個×(2×3) 」という形の,別起源の「倍の乗法」の両方を,この式変形の中で取り入れている点です.今の世の中,ハイブリッドがいいよねと言いたいところですが,一緒くたにして扱っている,と言ってしまうと無価値になってしまいます.
そこの主眼は,「2×3にも3×2にもできる」という主張なのでしょう.これに関しては,数学のウエイトを落とし,算数教育の比重を上げて,次のように説明することができます.

  • 「1皿に1個のリンゴがある状態」から「1皿に2個のリンゴがある状態」を経て,「3皿あって,どの皿にも2個ずつリンゴがある状態」を作れば,2×3=6.
  • 「1皿に1個のリンゴがある状態」から「3皿あって,どの皿にも1個ずつリンゴがある状態」を経て,「3皿あって,どの皿にも2個ずつリンゴがある状態」を作れば,3×2=6.
  • 学校では,「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」(『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66)ので,基本的に上記の2つのアプローチは採らない.

「基本的に」を入れたのは「例外」があるからで,具体的にはデカルト積のピクトリアル(3. ワクワク授業づくり - お菓子)です.

*1:項番号のあと,小見出しなしで文になっているところもいくつかあり,それらはリストに入れていません.それと「(4.5.5)」が欠落しています.