わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

教育評価,2冊目

もう1つの変革をもたらすことができる力として、連邦政府の財団、法人財団、私的財団からの影響力があげられます。財団からは、教育に関連したプロジェクトに財政的支援が行われていますが、(略)
財団による影響力の行使の最近の一例として、数年前、全米科学財団(NSF)が出したすべてのプロポーザルに、結果アセスメントについての計画を盛り込むことを求めた件があります。その後、NSFは団体のウェブサイトに、良い評価プランの例を掲載し、教員が、良い評価がどのように構成されているかを学べるようにしています。私自身も、私の大学でこの要求による影響を確認しています。NSFからの研究費に応募しようとしている学部教員が、私のオフィスを訪れ、たとえば、形成的評価と総括的評価の意味の違いについて質問したり、あるいは、自分たちのプロジェクトの評価プランの立ち上げについての協力を求めたりするようになりました。一度、このような概念を身につければ、外部資金を求めるときだけでなく、自分たちの教育プログラムにこれらの概念知識を利用することができるようになります。
(『学習経験をつくる大学授業法 (高等教育シリーズ)』p.271.太字は原文通り)

大学教育にも「形成的評価」です.
再勉強をしたくなりまして…1冊,本を購入し,通読しました.

教育評価 (岩波テキストブックス)

教育評価 (岩波テキストブックス)

教育評価のための様々な手法の紹介だけでなく,その国内外の歴史そして論者の説明が充実しており,『教育評価 第2版補訂2版 (有斐閣双書)』と並んで,「教育評価」を学ぶ際の入門書になるのではと思います.
本書の指す「教育評価」が何なのかについて,“はじめに”と“おわりに”から抜き出します.

事実,「教育評価」に関する理論や実践は,ここに来て大きな変革の時代を迎えようとしている.それを簡潔に言えば,子どもたちを「ネブミ」して勉強や発達をあきらめさせる道具となっていた「教育評価」から,子どもたちに質的に高い学力を保証し,教育実践への参加を促す装置としての「教育評価」へと転換しつつあるとまとめることができるだろう.このテキストではこのような「教育評価」の新しい動向の一端をまずは序章で確かめた後に,第I部では「教育評価」の考え方の転換を,それも苦闘の歩みを振り返りながら,明らかにしてみたい.
(p.iv)

本書の特徴は,次の3点にまとめることができる.(略)そのひとつは,本書は基本的に「目標に準拠した評価」に着目し,その発展に寄与するために書かれている.これこそが現代の教育世界の混迷を基本において打開し,子どもたちの未来を切り拓くものと確信するからである.(略)
(p.223)

「目標に準拠した評価」は,「絶対評価」であり,また「到達度評価」のことでもあります.
と言えればいいのですが,要注意です.wikipedia:絶対評価では,絶対評価の一つを到達度評価=目標に準拠した評価としています.絶対評価のもう一つは認定評価で,今回取り上げた本のp.17(コラム1-1 「絶対評価」の交通整理)にも,この名称が見られます.著者は混同を避けるため,目標に準拠した評価=絶対評価とはしていません*1
到達度評価の特徴は,pp.48-51に書かれています.要約してみます.

  • 目標論と評価論を表裏一体の関係としてとらえ,「相対評価」を克服する.
  • 到達度評価は到達目標に関連づけられる*2.「2次関数ができる*3」「江戸時代の産業構造がわかる」など,獲得すべきことを実体的に明示したものが到達目標となる.各到達目標は,関連する諸目標との間で構造や系統をなし,教材・教具を用いて授業などで展開・学習できるものでなければならない.この目標を規準とする評価論が,到達度評価である.
  • 到達目標は,学習権(教育をうける権利)に対する国家・共同体の義務となる.
  • 学校における教育課程(カリキュラム)編成の方法原理には「自主編成」のみならず「民主編成」が必要となる.民主編成とは,基本的には学校の教職員集団の民主的な合意に基づいて到達目標づくりを行う営為を指し,これにより学校の実質的な教育責任(どの教師が担任しようとも,この学校ではこれだけの学力を子どもたちに形成すると公的に約束する)を明らかにできる.
  • 目標は立てたら終わりではなく,そこで実施される教育方法をも含めて評価の対象となる.教育実践(自主編成も)はロマンあふれるホットな行為であるが,リアルにクールに診断することも必要であり,到達度評価の活用,そして目標が明確な評価行為を通じて,「教えたはず」「教えたつもり」をなくすことができる.

少しだけ,本から離れます.自分の所属する学科でも,カリキュラム見直しは「民主編成」であると思っています.実際かつて,ある教員が「学科の教員は,学部科目であればどの科目でも担当できるでしょう」とおっしゃっていましたが,まあそれは極論ですね.
ともあれやっと,冒頭の「形成的評価」について,引用する準備ができました.

しかしながら,教育実践をリアルにクールに診断するといっても,それはあくまでも教育的関係性の中で実施されるものであり,その目的は指導と学習に反省的契機を与えることである.そして,この立場をもっとも典型的に示しているのが,「形成的評価」の提唱であろう.従来の教育評価では,実践の最後にのみ評価を実施していたが(子どもたちの「ネブミ」行為としての評価であれば,これで十分だった),教育実践を改善しようとすれば,実践の開始時に「診断的評価」を行うとともに,実践課程でも評価行為を機能させる「形成的評価」を実施することが求められる.そして,実戦の終わりには学力の総合性・発展性を評価する「総括的評価」が行われるのである.このような評価行為の分化(とりわけ「形成的評価」の提起)とそれに伴う「回復学習・発展学習」の提唱は,「到達度評価」が「エバリュエーション」概念の正統の嫡子であるとともに,その継承・発展を担う立場であることを示した(略)
(p.51)

形成的評価と,その前後に行うとされる「診断的評価」「総括的評価」について,具体的な実施方法や注意点は,pp.121-125にあります.ここでもまた,重要そうなものを取り出します.

  • 学習観は,行動主義ではなく構成主義
    • 行動主義:「既知」の上に「未知」をまるでブロックにように積み上げていく.
    • 構成主義:「既知」と「未知」とで葛藤や調節による相互作用を経ながら「既知」が組み替えられていく.
  • 子どもたちが新しい教育内容を学ぶにあたって必要(前提)とされる学力や生活経験がどの程度あるかを確かめるのに,診断的評価が使用される.もし決定的な学力不足が確認されたときには,授業の開始前に回復学習が実施される*4
  • 形成的評価は,授業過程において実施され,子どもたちにとっては学習の見通しを得るため,教師にとっては指導の反省として行われる.成績付けには使われない.
  • 形成的評価のキーとなるのは「子どもはつまずきの天才」「つまずきの共有化」.
  • 総括的評価も「ネブミ」のための手段とはせず,子どもたちはどれだけ学習のめあてを実現できたか確認・フィードバックし,教師は実践上の反省を行う.
  • 総括的評価は,形成的評価の積み上げではない.また「基礎」を積み上げれば「応用」能力が形成されるわけではない.形成的評価は学力の基本性を担い,総括的評価では基本性・発展性を対象とし評価する.

診断的評価・形成的評価・総括的評価と,小学校算数のかけ算の指導について,過去にも私案を書いていますが(たとえば,その後「×」から学んだこと・毒編 - 9.「演算決定」「形成的評価」は耳慣れないのですが,あなたの言葉で説明してもらえませんか?),この本で得た知見をもとに,日を改めて文章化したいと考えています.なお,同書で「乗法の意味理解」が取り上げられていまして,コアになる考えは「一あたり量×いくつ分=全体量」です(p.120, pp.155-159).これについても,集中して読み直すことにします.(まずは資料集に追加をしました.)
あとは本を読んでページを書き残した,自分用の備忘録です.

  • 29:タイラー主導の「教育評価」.「教育評価(evaluation)」とは,「測定(measurement)」や「試験(examination)」とは違って,生徒の序列づけや組分けのためではなく,カリキュラムとそこに内包されている仮説を吟味し改良するために,さらには生徒たちにも学習に有効な情報を与えるために行われるものである.
  • 45-46:「相対評価」批判.遠山啓の名前も.
  • 73-74:真正の評価,リアルな課題.「太郎さんはアメを3個もっていました.おかあさんから何個かアメをもらいました.今,太郎さんはアメを5個もっています.太郎さんはおかあさんからアメを何個もらったのでしょう」では「ヘンな問題」.「袋に入れてアメをもらいました」とすればリアルさが増し,正答率も上がった.
  • 77:エバリュエーションとアセスメント
  • 90-91:すぐれた教材・教具の条件.真実性,典型性,具体性,直観性,意外性.
  • 91:教科学習における学力は「learn(習得・習熟としての学習)」,総合学習における学力は「research(探求的な学習)」.
  • 115:歴史の当事者への共感的理解.「豊臣秀吉になったつもりで太閤検地を考えよう」「当時の農民になって太閤検地をみてみよう」.
  • 129:つまずき対応4段階.「つまずきは子どもの責任」「つまずきをなくす授業」「つまずきを教師が生かす授業」「つまずきを教師と子どもたちがともに生かす授業」.
  • 136-137:規準と基準.「規準(criterion)」が量的・段階的に示されたものが「基準(standard)」.
  • 139-143:評価方法の原理.妥当性…カリキュラム適合性,信頼性…比較可能性.
  • 144-145:ルーブリックの例.評価指標は子どもたちにも公開すること.
  • 147-148:目標に準拠した評価として,客観テストを実施する際の注意点.
  • 148-149:様々なテスト形態.作問法,類題法,算式法,訂正法,概念地図法,描画法.
  • 159-165:ポートフォリオ評価.
  • 208:相対評価正規分布曲線.「正規分布曲線」は学力と知力との相関関係を強調する素質決定論に根ざすものであり,「正規分布曲線」を描かないときは,テストの問題作成や生徒集団の側に責任を転嫁する.

(最終更新日時:Mon May 7 22:45:24 2012ごろ)

*1:「目標に準拠した評価」と「到達度評価」について,明確な差は読み取れませんでした.p.48に「「目標に準拠した評価」の歴史的な形態である「到達度評価」」と書かれています.またp.54の章末注19には,「到達度評価」の初出は1975年で,京都府教育委員会作成の文書とあります.

*2:一方,相対評価は方向目標に関連づけられる.

*3:原文ママ.「2次関数がわかる」か?

*4:個人的には,既習事項の確認のためのテスト問題では,1人でも正解できなかったら,回復学習をすべきように思う.もしくは「復習テスト」として実施し,すぐに正解と解説をすべきだろう.ノートに書かせて,回収すれば,子どもたち全体で見たときのレディネスが数量化できる.