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緑表紙にアレイ図

「小学算術」の研究

「小学算術」の研究

大学図書館で,気になる本を見つけました.2回に分けて,思ったことを書いていくことにします.
本題ではないとはいえ,この本がどんなものなのかについては,ちょっとでも書いておくほうがいいでしょう.まず著者・高木佐加枝は,名前だけでは男性か女性か分かりにくいのですが,男性です.本のはじめに,写真が入っています.また数学教育の研究の方法によると,本名は高木与次兵衛とのこと.
Amazonでは書名ほか,表示される情報は少ないのですが,読んだ本の表紙には,書名として『「小學算術」の研究 (緑表紙教科書)編纂の背景と改正点及び日本算数教育のあゆみと将来への論究』とあります.この本のメインテーマは「緑表紙のwhy/what/how」と言ってもいいでしょう.「(略)戦前には,文部省嘱託として「尋常小学算術」(いわゆる緑表紙)の国定算術教科書の編纂に実践家を代表して参画した」(pp.3-4)という方です.
上記PDFファイルには「同(引用者注:昭和54年) 教育学博士」「退官されて7〜8年の後,教え子の一人のお勧めで名古屋大学へ「小学算術の研究」を学位論文として提出された」(いずれもp.86)と書かれています.本に戻って,まえがきには「教育学博士号を受領した学位論文を平易に書き改めたもの」(p.3)と記されています.
緑表紙も高木佐加枝も,Wikipediaでまともにヒットしないのが残念ですが,この2つのキーワードのペアで,いろいろなところに登場しているようです.大学図書館でチラ見した『伝説の算数教科書“緑表紙”―塩野直道の考えたこと (岩波科学ライブラリー)』にも,たびたび出現しています.


『「小學算術」の研究』の中に,かけ算の理解に関連して,2つのページで,アレイ図を見つけました.一つはp.247で,どの教科書に載ったかの情報がない上に,問題文が現代かなづかいのひらがななので,教科書には載っていない可能性があります.しかしもう一つは,教科書からと考えざるを得ません.

(例)
○○○○○ ○○○○○ ○○○○○ 
○○○○○ ○○○○○ ○○○○○ 
○○○○○ ○○○○○ ○○○○○ 
○○○○○ ○○○○○ ○○○○○ 
ミンナデイクツアルデセウ。〔小算三上 p.66〕
(p.255)

「アレイ」という言葉はもちろんないものの,教科書にアレイ図が! 過去に書いた2件()に追記が必要!? …
というのは私個人の話ですので置いといて,さっそくですが解答です.

この図の計算方法としては普通
a. (5×4)×3
b. (4×5)×3
c. (5×3)×4
の3通りが考えられる。児童にできるだけこれらの考え方をさせなければならない。
(p.255)

3つの因数でも,交換の法則が成り立つことを知るための出題です.なお,2つの場合も,それより前のページで取り扱われていて,後日ここで確認する予定です.
現代の視点で,それぞれの「式の読み」をしてみましょう.まずaですが,横に5つ縦に4つ並んだアレイの総数は5×4で,そんなアレイが3つあるから(5×4)×3です.
bは,アレイの総数を求めるのに縦の数を先にしてもいいということで,4×5,それが3つだから(4×5)×3です.
cは,アレイではなく,1つの行に着目します.すると個数は5×3になります.同じものが4行あるので,(5×3)×4です.
そして話としてはaとcを比較し,5を4倍してから3倍しても,5を3倍してから4倍しても,答えは同じになる,これが3つの数における乗法の交換法則だ,と展開させています.
といったわけで,これは結合法則ではなく,交換法則の話なのです.この図で結合法則を確認するには,cの考え方を少し変更させて,4×(5×3)という式にし,これとbとを比較すればいいのですが,この本では,結合法則の説明には別の事例を当てています.
別の観点で,この出題を見直してみます.3と4と5を「かける順序」というと,もっとあるわけです.『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』pp.33-34によると,12通りです.漏れなく重なりなく,書き出してみましょう.

  1. (3×4)×5
  2. 3×(4×5)
  3. (3×5)×4
  4. 3×(5×4)
  5. (4×3)×5
  6. 4×(3×5)
  7. (4×5)×3 …b
  8. 4×(5×3)
  9. (5×3)×4 …c
  10. 5×(3×4)
  11. (5×4)×3 …a
  12. 5×(4×3)

「…a/b/c」を書かなかった,残りの9つの式は,積としていずれも60ですが,先ほどのアレイの並びを求めるための式として,認められない可能性があるわけです.
例えば,先ほどcの変形で4×(5×3)になると書きましたが,これは,4行15列の大きなアレイを作るという方針になります.
そのように操作をしていいのか*1というと,例の文章題で,トランプ配りを根拠にして,かけられる数とかける数とを入れ替えた式が,その場面に対する式として認められるのか否かと,つながってくるのです.
(最終更新日時:Sun Jun 17 08:26:04 2012ごろ.実践か→実践家)

*1:そのアレイの出題と同じページに,「まる十を一組と考え」る方法と,囲い込みのされたアレイ図,そして「10×(2×3)=(10×2)×3」「10×(3×2)=(10×3)×2」という式が書かれています.