わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

優しいが易しくない本

いきなりですが問題です.小学校の先生になって,次のセリフの続きを作ってください.

「テストで,『前方後円墳』と書いてほしいところに,『しゃもじ型古墳』と書いた子がいた。

次の本から,とってきました.

さっそくですが答えを引き写します.

先生はいい答えだなあと思い○にしてやりたい気持ちがいっぱいだったが,でもそうもいかないね。申し訳ないが×だ。
ただこの答え,江戸時代だったら正解だ。なぜかと言うと,みんな遠足で行ったよね。あそこはひさご塚といった。ひさごとはひょうたんのことだったね。これは江戸時代の人がつけた名前だが,そのころは形からイメージして古墳に名前をつけた。だから江戸時代なら『しゃもじ型』という答えも立派な正解となる」
(p.92)

この本は何かというと,小学校の先生(学級担任)向けのものです.様々な個性を持った子どもたちに向けて,そしていろいろなシーンで,どんな「言葉かけ」をすれば子どもたちが伸びるか,どんな言い方をしてはいけないのかを,多岐にわたって紹介しています.多くのトピックは見開き2ページですが,詳しい解説が入って,4ページになるものもあります.
前方後円墳の話には「珍答・迷答」という見出しがついています.単に正しい言葉を覚えよう(テストで確かめよう)というのではなく,突拍子のない子どもの反応にどう接し,先生の考えを教室で子どもたちに示せばいいのかを,提案しています.
上の話には,直接書かれていませんが気になることがあります.「ひさご塚」「ひさごとはひょうたんのこと」「江戸時代の人がつけた名前」などは,短いストーリーの,重要な構成要素となっています.「ひさご=ひょうたん」は国語的な要素を含みますが,これら3つの言葉,そしてその組み合わせから思いつく教科はというと,社会です.奥書の著者紹介によると,社会科指導の本を書かれているとのこと.この1点だけでは,まあ,根拠に乏しいのですが,著者は社会科を専門にされていたことが想像できます.
それから,先生の説明を聞くと,「江戸時代には小学校はないよ」とか,もっと突っ込んで「江戸時代の教育の中に,名前をつけてみようといった創造性を育む指導なんて,なかったのでは」といったツッコミをしたくもなります.
とはいえ,そういったツッコミが来ても「うんそうだね.よく気づいたね」と対応できます.ふたたび想像ですが,そういったことまで想定して,「江戸時代だったら正解」と言っているように思えてなりません.
本のだいたい半分を読んだあたりで,この本は「優しいが,易しくない」と思うようになってきました.小学生に向けてということもあり,子どもを伸ばす表現はどれも優しく,愛情がこもっています.しかし,我が子に,ゼミの学生に,的確にその種のほめ言葉,励ましの言葉をかけているのかというと,うまくいっていないなあと感じるわけです.
「言葉かけ」を主軸とすると,教える-教わるに代表される上下関係は,重要でなくなります.実際,大人も言葉かけによって,影響を受けることがあるわけです.
うえの子が生まれるよりもずっと前のことですが,妻が,妻の父母に叱られ,別室に行ってひどく泣いたことがありました.まあ何かケアしようかとそばに行き,いろいろ言った中でどうやら「成功の反対は,失敗ではなく,『何もしない』なんだよ」というのが琴線に触れたようで,立ち直ってくれたのでした.
先生としても,「言葉かけ」といった概念を知らない,子どもの何気ない一言で,ハッとさせられることが少なくないはずです.
かくいう自分自身に胸を当てて,何か言葉をかけられて人生が変わったかなと,記憶をたどってみたものの,ちょっと思い浮かびません.もはや,大学にせよ家庭にせよ,言葉をかける側に回っています.この本で何度も強調されている,「賞賛・受容・共感・承認・感謝・感動」に注意し,ポジティブ思考を忘れず,自分がいるときにも良好で,いなくなっても持続するような,人間関係・信頼関係づくりに,努めていくことにします.
以下は自分への備忘録です:冒頭に書いた前方後円墳と同じくらいに感銘を受けたものに,アサガオのタネ(pp.98-99)の話と,くつを隠されたときのクラス全体への言葉かけ(p.114)があります.