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「向山型算数」読み始め

算数の教え方には法則がある

算数の教え方には法則がある

奥書ページの著者紹介によると,著者は「TOSS授業技量検定六段」とのこと.その左のページに,カギカッコつきで「TOSS」と書かれていますが,本文にはこの固有名詞がほとんど見られません.代わりに目立つのが「向山型」「向山洋一氏」です.
これまで,「向山型」についての本を購入することは,あまりありませんでした.理由としては,まず,問題解決のwhy/what/howで見たときに,howの分量が多く,whatやwhyの読み取れる部分が他の算数教育の本と比べて少ないように思えるのがあります.それと,「向山型算数」の本を知るようになったのは,《BA型》《複数解》といったタイプのかけ算の問題を調べている最中でして,その書籍群からは,《BA型》の出題例がほとんど見られなかったのでした*1
冒頭に挙げた本を,なぜ買ったのかというと,《BA型》を見つけたからです.

(2) 子どもが作る文章問題のほとんどは,出てくる数字の順序で計算する
(略)
だから,次のようなかけ算問題には混乱が生まれる。
「ベンチが5こあります。そこに6人ずつすわっています。ベンチにすわっている人は何人でしょう」
問題をつくったA男は,数字の順序で5×6としてしまった。
そこで「絵」を描かせると,「ああそうか」とA男は6×5の式が立てられた。

(p.71)

背景としては,2年生に文章題を作らせています.指示は次の3つ(pp.68-69.原文は項目ごとに箱囲み).

  • おはなしの問題をつくってごらんなさい。
  • おはなしにあう絵も描いてごらんなさい。
  • 式と答えも書きなさい。

1問できたら,先生がチェック.たし算,ひき算,かけ算の,「子どもが作った文章題」が並んでいます.
なお,児童らに文章題を作らせるのは,「向山型」が初出というわけではなさそうです.これまで『さんすうの授業 第1階梯 小学校1・2・3年生』『教育評価』(p.158)で見かけています.後者について,章末注によると,それもまた80年代の試みのようです*2


冒頭の本から,高学年の「かけ算の順序」を知ることもできました.

A 計算問題「8+0.5×2」【正解9】
B 文章問題
「水そうに8Lの水が入っています。
この中に0.5Lの水を2はい入れました。水そうに入っている水は,全部で何Lでしょう」
(図省略)
2つの設問を出す。
(1)答えを求める式はどれでしょう。
{1} 8+0.5×2
{2} (8+0.5)×2
{3} 8+2×0.5
{4} 8+0.5+2
【正答{1}または{3}】
(2)答えを書きましょう。【正解9(リットル)】
(略)
文章問題のほうが高かった(引用者注:正解率)。なぜか。文章とイラストがあると,「8+0.5×2」の具体的な場面がイメージできる。イメージできると,「計算順序」が理解しやすいのだろう。
(pp.58-59.「{数字}」は原文では丸囲み数字)

引用の終わりのほうにある「計算順序」とは,「乗法,除法を加法,減法より先に計算すること」略して「乗除先行」のことです.
それよりもむしろ,多肢選択式で,正解になるのが2つあるほうが気になります.違いは何かというと,「0.5×2」と「2×0.5」です.
本から離れて,元ネタに当たってみました.

小学校は4〜6年が対象で,平成17年2月17日実施.抽出調査です.
「水そう」の問題文,解答類型と反応率は,p.99(PDFファイルではp.103)にまとめられています.次のページは,「8+0.5×2」の計算です.どちらも,5年生向けの出題とのこと.さらに,4つから選ばせる問題文は「下の{1}から{4}までの中から1つ選んで,その番号を□の中に書きましょう」ともあります*3
実際に解答した子どもたちのうち,そこそこの割合で,{1}か{3}かで悩んだのではないでしょうか.
とはいうものの,これは「乗除先行の理解」を主眼に置いた出題となっており,1つを選ぶ問題に2つの正解があることの意図や補足などは,見当たりませんでした.
個人的な仮説を書いておくと,問題作成の時点では{1}だけが正解という方針だったけれど,実施・集計のあと,調査結果として取りまとめるまでのどこかで,{3}も正解にすべきではという意見があり,受け入れたのではないかと思っています.
これが契機となったのかどうかは分かりませんが,全国学力テストでは,式の中から,長方形の周りの長さを「2つ」選ばせたり(平成19年度算数B),解答類型の注意書きに「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」(平成22年度)が記されたりしています.
(最終更新日時:Thu Jun 28 12:56:25 2012ごろ.「7×5」を「5×7」に訂正しました)

*1:とはいえ,向山型のかけ算の指導で,印象に残っているものもあります.先生が黒板に,手袋を7つ描きます.指の数を,式で表して求めようという出題ですが,「5×77×5=35」と書いたら間違いです.よく絵を見ると,一つの手袋だけ,指が4本なのです.この出題を通じて,乗法が用いられる場合を理解させようとしたわけです.

*2:「32)「4×8=32となるようなお話をつくってください」という作問法は,佐伯胖たちの調査によって採用され,その後筆者たちも日中,日米の学力比較調査で使用した.今回,「絵を描くこと」を加えることで,よりパフォーマンス評価の要件を整えることにした.佐伯胖・長坂敏彦・上野直樹「小学校算数における理解のドロップアウト」『子どものドロップアウトに関する教育学的研究』1987年度特定研究成果報告書,代表田中耕治『日中両国における小学生の数学思考の発達に関する比較研究』(科学研究費補助金研究成果報告書),2001年3月参照.」(『教育評価 (岩波テキストブックス)』p.167).佐伯らの文献はCiNiiでヒットせず.

*3:結果のポイントp.9で,「計算問題」と「具体的な場面を設けた問題」との比較がなされており,ここに「正解:{1}または{3}」が書かれています.正答率の数値を含め,『算数の教え方には法則がある』は,これを引いたと思われます.