わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

自殺のあと

「近しい人の自殺に対して,どう考え,行動するのか」について,2つの本から紹介します.

1. 東工大教授

最終審査会でOKが出たあと、H教授はヒラノ研究室に姿を現し、審査協力を感謝するとともに、自らの不手際を詫びてくれた。ヒラノ教授がH教授と言葉を交わしたのは、これが最後である。
この数日後、伊豆高原のホテルで開催された研究集会に出席していたヒラノ教授は、「東工大教授焼身自殺」という新聞記事を目にして、血の気が失せた。H教授がクリスマス・イブの夜に、自宅付近の公園で灯油をかぶって、自ら火をつけたというのである。
その1週間後、高校時代の仲間との新年会で顔を合わせた新聞記者のA氏は、「中年男の自殺は、女性問題に決まっている」と断言した。30年に及ぶ経験*1からすると、それ以外のケースはありえないというのである。これに対してヒラノ教授は、アカハラきっかけ説を曲げなかった。
A記者に軍配が上がったのは、その7年後である。H教授と親しかった某教授と同じ電車に乗り合わせたヒラノ教授は、夫人と愛人の板挟みになったH教授が、死を選ぶことによって愛人問題を精算したこと、そして夫の凄惨な死に責任を感じた教授夫人が、その数年後に自ら命を絶ったことを知ったのである。
しかしヒラノ教授は、今でもあの時の心労が、自殺の引き金になったのではないかと考えている。精神医学の専門家は、人間は1つの問題だけで自殺することはないと言っている。大きな問題に、もう1つの問題が重なった時が危ないのだ。
H教授は2人の女性の間で苦しんでいた。そこにK教授のアカハラが加わった。そしてS君の論文審査が終わったところで、緊張の糸が切れたのではないだろうか。
(『工学部ヒラノ教授の事件ファイル』pp.125-126)

「8. セクハラとアカハラ」という章の最後のところです.学生S君の博士論文審査会において,審査委員の一人であるK教授が難癖をつけます.人間関係など,状況はその前のページで書かれています.審査会でごたごたあったとはいえ,論文のほうは少々の修正で合格となりました.
「人間は1つの問題だけで自殺することはない」のソースを,見つけることはできませんでしたが,思い浮かぶものはあります.事故は単一の原因で起こるのではなく,いくつかの要因が組み合わさって起こるというものです.「複合要因」です.この言葉で調べ直すと…管理・運用移譲通知を見つけました.

2. 中3女子

【事例2】中学生のB子は、3年生の2学期から、外に遊びに出なくなり、笑顔も消えた。B子の様子を両親は心配していたが、ある日B子は体がだるいからと言って学校を休んだ。母親は不安を感じながらも仕事に出かけ、帰宅した時にB子が家のどこにもいないことに気づいた。すぐ父親に連絡をし、家の周辺を探したところ、自宅の裏にある物置で、首をつり亡くなっているB子を父親が発見した。
(『現場で役立つ教育の最新事情』p.90)

「第8章 学校における危機介入の具体的な対処事例」からです.「危機介入」にはぎょっとしますが,これは「支援」の上位概念と考えるのがよさそうです.「突発的でショックな出来事に遭遇すると、個人やコミュニティにさまざまな反応が生じる。その中でも深刻な症状や機能不全などを示す場合はその個人やコミュニティは「危機状態」にあるといえる。このような危機状態に陥っている事態を「危機事態」と呼び、危機事態に対して支援チームなどが援助を行うことを「緊急支援」と呼ぶ」(p.86)とも書かれています.
架空事例とはいえ【事例2】のあと,どのように支援をしていったかが,書かれています.長いので,重要に思った部分を取り出します.なおSCはスクールカウンセラー(非常勤),SVはスーパーバイザー(この件を受けて派遣)の略です.

  • 連絡を受けた担任が校長とともにすぐにB子宅に向かう.
  • 家族は混乱しつつも「自殺」であることを表面に出してほしくないと望むことがある.
  • 亡くなったことは生徒に報告しなければならない.どのように伝えるか,話し合って決める.
  • 両親の意向で,B子は「急死」と伝えることになる.翌日の生徒集会で全体に伝え,具体的なことなどは学年に分かれたあとにする.生徒を座らせた上で報告する(泣き崩れる生徒がいるかもしれないから).
  • 学校教諭・管理職だけでなく,SVとSCも入り,事実関係の説明を受けた後,今後について打ち合わせをする.
  • 「自殺」の噂に対して,「両親からは,急死と報告を受けている」と応答することを確認する.
  • 通夜・告別式でSCとSVも出席し,生徒の様子を見る.
  • 3年生の各クラスで担任が面接を行う.SVとSCは,B子が所属していた部活の後輩たちの面接を行う.他に面接を求める生徒,教師が気にしていた生徒にも面接を行う.
  • 面接の1週間後くらいに学年全体へアンケートを実施する.食欲不振,睡眠障害,自責感,またB子と関係が深かったが無回答,に注意する.ケアが必要な生徒をリストアップし,SCとSVが対応する.
  • 噂に基づく問い合わせには打ち合わせどおり「ご両親は急死とおっしゃっています」と対応する.「と思います」は避ける.
  • 教師・管理職は通常業務と緊急時対応(遺族宅への訪問,マスコミ対応も)で消耗する日々を過ごす.SVが気づいて支援する.
  • 受験を控えていることも考慮した対応が求められる.
  • なんでも言葉で語らせることが最上の支援ではない.保健室で,生徒がぬいぐるみを抱きしめて長い時間じっとそこにいる,というのも支援になる.
  • 遺族への支援も行う.遺族の方々の意向を最優先にしたいと考えていること,その用意があることを常に伝える.
  • 「児童生徒が日常生活に戻れるようになること」を目標として,緊急支援を行う.ただし1年後に体調を崩すといった「記念日対応」も念頭におく.

ここではいじめはなかったのを前提としていますが,遺書があり,実名が書かれていた場合には,対応が異なってきます.東日本大震災の被災者の方々への支援も別であることと合わせて,章の終わりに記されています.
他の生徒らにどのように伝えるか,また全体方針や個別具体的なことについて,これが正解というものはありません(「危機介入に正解はない」(p.86))が,支援が必要な人をどのように見つけるかについては,かつて勉強したトリアージが,有用なように感じます.黒タグはないし,そもそも生徒や関係者すべてにタグをつけるのは非現実的ですが,後追い自殺が起こらないよう見抜く必要は,あるでしょう.また時間の経過に注意し,変化が起こっていないか頻繁に目をやることも,大切になってきます.


検索して知った,Webページの結語が,本エントリの「まとめ」になりそうです.

こんな悲しみと苦しみに満ちた世の中で、誰かを少しでも幸せにすることは、価値あることです。私はそう思います。

Ž©ŽE/Ž©Ž€‚ň₳‚ꂽˆâ‘°‚ׂ̈Ɂ`‰ß“x‚ÌŽ©Ó‚Æ‚¢‚¤–â‘è‚ɂ‚¢‚Ä

*1:引用注:「クリスマス・イブの夜」「灯油をかぶって自ら火をつけた」というのが大きな要因であるように思います.