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今後どんな新しい現象が見つかると,あなたの理論は間違いになる?

独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則

独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則

まだ読んでいるところです.
2003年に出た『素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術』の改題とのこと.しかし「新版あとがき」(p.255-)というのも入っています.「EMACS」の縦書き・全大文字(p.68)は,いただけません.
ああなるほど,そういう考え方があるのかと,思った箇所を抜き出します.

さて、八〇年のころの話である。私がある会議に参加した時、ミンスキー教授とカーネギーメロンの大学院生と私の三人が朝食の席で一緒になった。アメリカの研究者たちの特質は食事の席でも研究の話を休めないことである。ここでも当然そうなった。
そのうち、ミンスキー教授が、「『フレーム理論』があいまいだなどと言う人がいるが、私が発表してからの自然言語解析の分野ではフレームを使ったやり方で、すでに世界で二〇〇ぐらいの博士論文が出た。なにをか言わんやだ」と言った。すると、大学院生が、「ミンスキー教授、今後どんな新しい現象が見つかると、あなたのフレーム理論が『間違っていた』ということになる可能性があるか?」と尋ねた。こんなことを、ミンスキーのような大先生に大学院生が朝食をとりながら面と向かって言うところがアメリカである。それに対する答えがふるっている。
「ネバー(Never 絶対にない)! なぜなら、私は、フレーム理論に神経生理学、計算理論学、数学、心理学などでこれまでにわかっているすべてを取り入れた。かつ、それは十分あいまいに作ってあるので、どんな現象が現れても取り込むことができるからだ」
(p.11)

「なんと幼稚な、なんと素直な、なんといい加減な考えか」(pp.7-11)の,ほぼ終わりのところです.ウェゲナーの大陸移動説,マンデルブロ博士のフラクタルのあと,ミンスキー教授のフレーム理論が出てきます.p.10の小見出しには,「何でもありの理論」とあります.
上の引用で,中心となる応答を,自分なりに書いてみます:
Q: 今後どんな新しい現象が見つかると,あなたの理論は間違いになる?
A: 絶対にない.既知の事柄をすべて取り入れており,かつ新しい現象を取り入れられるようにしているから.
あるいは,過去・現在・未来と,知識(現象を含む)の発生を分け,「生きていける」ようにフレーム理論をつくってきた,という解釈もできそうです.


この本を読み始めるまで,書き放ったのはいいけれど,補足しておかないとと思っていたことがあります.

最後にですが問題です.

かけ算の順序論争に,「調和」はあるのでしょうか?

さっそくですが回答です.次の内容が,「調和」を最もよく表したものだと,思っています.

(略)
(『小学校指導法 算数』pp.91-92)

自分なりの「調和」として,ぼくのかんがえた Multiplicative Structuresにリンクしておきます.

教育も,支配から調和へといかないものか

ここに,金出氏が「ふるっている」とした,ミンスキー教授の応答を重ねることができます.まず『小学校指導法 算数』の該当部分は,世の中の使われ方や,学習者の発達段階,そして算数教育の知見に基づき,乗法の指導のあり方を提言しているわけです.
「ぼくのかんがえた Multiplicative Structures」は,Vergnaudの解説に依拠しつつも,「累加の簡潔な表現」を採用している学習指導要領解説,「1あたり」や「量」を重視する数教協スタイル,そしてかけ算の順序論争の観察を通じて得た,ある種の人々の考えを,自分なりに取り込み,一つの表であらわしたのでした.そしてそこには,「複比例」「トランプ配り」など,位置づけを断定していない,あいまいなところもあります.
まあ,あいまいなままで終えておくと後味も悪いので,思うところを書いておきます.複比例は,倍・比例・面積のすべてに関わってきますし,複比例をマスターしたら,そこからうまく切り出すことで,倍も比例も面積も取り扱えます.トランプ配りは,遠山の解説に基づくなら*1,1あたりに直積が結びついて,説明可能となります.


関連:

*3:英辞郎で引くと差がなさそうなので,補足.自分の知る限り,vagueは「明確に定められない」,ambiguousは「複数の解釈が取り得る」という区別があります.ついでに,これも自分の知る限り,vagueの意味で日本語を書くときは「あいまい」,ambiguousは「曖昧」と書き分けられていることが多いです.なるほど,ひらがなのほうが(特に前後にひらがなが加わると)一見して分かりにくく,漢字だと語句はすぐ分かるなあとも感じます.

修士論文・卒業論文執筆へのアドバイス(2007年度)*3

*1:「6×4,4×6論争にひそむ意味」で,トランプ配りを書いた直後にある,机の文章題から,みかんの文章題とそれとを関連づけるべきだということが示唆されています.