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かけ算およびわり算の文章題に対する子どもたちの解法:長期調査

一昨日のある意味続きです.[Anghileri 1988]には以下が参考文献に入っていました.

  • Brown, M.: "Number operations", Children's understanding of mathematics, pp.11-16, John Murray (1981).

しかしWebからは取得できませんでした.代わりに,これを引用している論文を見つけました.

シドニー都市部のカトリック学校から8校をランダムに選び,小学校2年女児60名*1にインタビュー調査を2年間にわたって4回(各年の3〜4月と11〜12月),実施しています.
最初の実施では,かけ算もわり算も未習です.最後の時点では,簡単なかけ算の計算は学習しているものの,わり算の計算はしていません.したがって,かけ算・わり算で直接的に答えるのでは(必ずしも)なく,学年が上がればかけ算・わり算で表して容易に答えられる問題に対し,それらを知らない(または学習していく)子どもたちがどのような解き方(strategies)で答えを出すかというところに,著者の関心があります.
著者はあらかじめ,「小さな数の文章題」「大きな数の文章題」「文章題を図にしたもの」のカードを作っています.ここで小さな数は4〜20,大きな数は20〜40です.
インタビューは被験者ごとに実施しています.「小さな数の文章題」に対して,答えてもらい,正しく答えられたなら,「大きな数の文章題」も解かせます.いくつかの出題では,答えられない児童には「文章題を図にしたもの」を見せ,答えてもらっています.
「小さな数の文章題」は,p.28の真ん中,Table 1にあります.以下はその英文と私訳です.

  • Multiplication
    • Repeated Addition
      • (a) There are 2 tables in the classroom and 4 children are seated at each table. How many children are there altogether?
      • (b) Peter had 2 drinks at lunchtime every day for 3 days. How many drinks did he have altogether?
      • (c) I have three 5c pieces. How much money do I have?
    • Rate
      • If you need 5c to buy one sticker how much money do you need to buy two stickers?
    • Factor
      • John has 3 books and Sue has 4 times as many. How many books does Sue have?
    • Array
      • There are 4 lines of children with 3 children in each line. How many children are there altogether?
    • Cartesian Product
      • You can buy chicken chips or plain chips in small, medium or large packets. How many different choices can you make?
  • Division
    • Partition (Sharing)
      • (a) There are 8 children and 2 tables in the classroom. How many children are seated at each table?
      • (b) 6 drinks were shared equally between 3 children. How many drinks did they have each?
    • Rate
      • Peter bought 4 lollies with 20c. If each lolly cost the same price how much did one lolly cost? How much did 2 lollies cost?
    • Factor
      • Simone has 9 books and this is 3 times as many as Lisa. How many books does Lisa have?
    • Quotition*2
      • (a) There are 16 children and 2 children are seated at each table. How many tables are there?
      • (b) 12 toys are shared equally between the children. If they each had 3 toys, how many children were there?
    • Sub-division
      • I have 3 apples to be shared evenly between six people. How much apple will each person get?
  • かけ算
    • 累加
      • (a) 教室に2つのテーブルがあり,それぞれのテーブルに4人の子どもが着席している.子どもは全部で何人か?
      • (b) Peterは3日間の昼食時にいつも2杯の飲み物を飲む.全部で何杯飲んだか?
      • (c) 5セント硬貨を3枚持っている.全部でいくらか?
    • 割合
      • ステッカーを1枚買うのに5セント必要なら,2枚買うのにいくら必要か?
      • Johnは3冊,Sueはその4倍の本を持っている.Sueは何冊の本を持っているか?
    • アレイ
      • 3人ずつの子どもの列が4列ある.子どもは全部で何人か?
    • 直積(デカルト積)
      • チキン味の揚げ菓子とあっさり味の揚げ菓子が,それぞれ小中大の袋に入っている.商品の組み合わせは何通りあるか?
  • わり算
    • 分割(共有)*3
      • (a) 教室には8人の子どもがいて2つのテーブルがある.それぞれのテーブルに何人の子どもが着席しているか?
      • (b) 6杯の飲み物を3人の子どもが同じ数になるよう分けた.それぞれ何杯の飲み物をもらったか?
    • 割合
      • Peterは20セントを払って4つのキャンディを買った.どのキャンディも同じ値段なら,1個はいくらになるか? 2つだといくらか?
      • Simoneは9冊の本を持っていて,それはLisaの3倍にあたる.Lisaは何冊の本を持っているか?
    • 包含除
      • 16人の子どもがいて,2人ずつテーブルに着席している.テーブルはいくつあるか?
      • 全部で12個のおもちゃがあって,子どもが同じ数だけ持っている.どの子どもも3つのおもちゃを持っているとき,何人の子どもがいるか?
    • 細分
      • 3つのりんごを,6人に同じになるよう分ける.それぞれの人はどれだけのりんごをもらえるか?

気になったのは,「アレイ」と「直積」です.まずアレイに関しては先日,TOSS vs AMIで比較しましたが,それらと同種の出題をしています.http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdf#page=89の「Arrays」のところにも,同様のものが見られます.
直積の文章題には,因数となる「2」や「3」といった数が明記されておらず,それが原因で正解率が低いのではないかという懸念があります.たし算の話を連想しました.
ともあれ,次の次のページに,正解率の表(Table 2)が載っています.

いずれも,それぞれの総インタビュー人数を分母として,正解者のパーセンテージを出しています.累加(a)の第1回は,「小さな数の文章題」で正解したのは50%,そこで正解できなかったけれど「文章題を図にしたもの」だと正解したのが50%(したがって文章題と図のどちらかでみな正解),また「大きな数の文章題」で正解したのは27%なので19名が正解,と読めばよさそうです.
インタビューを進めるごとに,正解率が上がっています.またアレイの正解率は累加と差がないことも,見て取れます.
直積は非常に低くなっています.割合が高いのは,お金を日常扱っているからでしょうか.
主要な解き方は,その次のページのTable 3(かけ算),さらに次のページのTable 4(わり算)です.Table 3のみ貼り付けます.

解き方の各名称ですが,pp.40-41にAppendixがついています.訳しておきます.

  • addition fact:4+4=8など,覚えているたし算の答えを使う.
  • counting-all:1,2,3,…と順にを数える.
  • skip counting:2,4,6,…と飛ばしながら数える.
  • rep.addition:5+5=10,10+5=15として数え足す.
  • multi.fact:2×4=8など,覚えているかけ算の答えを使う.
  • direct modelling:具体物や指で数える.

表を眺め,「かけ算の順序論争」と照らし合わせてみると,次の2点が言えそうです.一つは,アレイ(長方形配置)を,かけ算の文章題で解き方として使うのには,無理がある点です.離散的な構造としてのアレイ,連続的な構造としての長方形(面積)については,それぞれ教える必要があります.
もう一つは,この表や,論文の記述を見ても,トランプ配りで---それは日本ローカルか,えっと,「教室に2つのテーブルがあり,それぞれのテーブルに4人の子どもが着席している.子どもは全部で何人か?」に対し「2+2+2+2=8」と計算して,答えを出している児童がいるのか(いるとしたらどのくらいなのか)が不明な点です.もちろん著者の関心は,そんなところにないのでしょう.日本でこの種の調査をするなら,できればこの点にも配慮してくれたらなあ,でも誰もそんな調査しないだろうなあ,と思っています.
Results (p.29)の2番目の段落が,小学校の算数を超え,自分であればプログラミング授業や研究室での出題・指導・相互理解に関係しそうだなと思いながら,また訳してみました.

In comparing small and large number problems, a marked decrease in performance overall was found for large number problems with many children reverting to direct modelling and counting procedures. Further analysis of individual profiles revealed some contrasting evidence that 25% of the children were unable to solve two or more of the easiest 11 small number problems at any interview stage. Many of these children relied on immature strategies, such as using key words, looking at the size of the numbers to choose an operation, or applying number facts incorrectly. These strategies showed that the children were unable to analyse and apply meaning to the range of situations and number combinations required. This was consistent with research findings by Sowder (1988) and Carpenter & Moser (1984).
(「小さな数の文章題」と「大きな数の文章題」とを比較したとき,具体物で数えたり一つ一つ数えたりするという手続きに立ち返って考える多くの児童で,「大きな数の文章題」に対して正解数が顕著に低下した.詳細な分析を通して,11個の最も簡単な「小さな数の文章題」のうち正解数が1個以下という児童が,聞き手の働きかけもむなしく,25%に及ぶことが明らかになった.そういった児童の多くが,解き方に習熟しておらず,キーワードや,数を見て演算の決定をしたり,計算間違いをしたりしている.その行動では,調査対象の出題や数の組み合わせに対し,問題文の状況を理解したり答えを出したりできていない.これはSowder (1988),Carpenter & Moser (1984)による研究結果と合致している.)

http://mackie23450.blogzine.jp/blog/2013/07/post_d9d8.html#comment-55956878(現在はデッドリンク)にて,当記事を読み込んだ上で詳細なコメントを書いてくださっています.その中からいくつかを『…』で引用し,思うところを書いておきます.

  • 『このなかには(1つ分の数)×(いくつ分)が含まれていません』:はい,それは,かけ算の式で表すための“手段”となります.この論文の調査や,いくつかの海外文献では,かけ算で求めることのできる(さまざまな)“対象”にも配慮しています.当ブログでは,手段に関連して《倍指向》《積指向》,対象に関連して《倍の乗法》《積の乗法》と命名して検討し,「倍」と「積」から学んだことにてQ&Aをつくりました.
  • 『これは、(1つ分の数)×(いくつ分)というのが、日本では、数教協によって1970年代に教科書に導入されたとき、累加とは区別されるべきことが強調されたからでしょうか』:「数教協によって1970年代に」は時系列的に要注意です.中島1968aの文献では,最初のページに「(基準にしている大きさ)×(それをもとにした数)」,また5年向けの調査の中に「『「かけざん」は「同じ大きさのもの」が「いくつかある」とき,「そのぜんたいの大きさを求める計算である』というように学習してきました」とあるので,(1つ分の数)×(いくつ分)と同等の乗法構造は1960年代からあったと考えるほうがよさそうです.とはいえ,数教協が進めてきた乗法の意味づけを(算数・数学教育において)軽視してきたわけではなく,日本数学教育学会による,乗法の意味づけ計算手段から切り離して,かけ算を意味づけるで記したとおり,比較的最近の刊行物から,考え方や(教育学部生向けの)指導事例を見ることができます.
  • 『割合の設問に対する正答率がとても高いのは、たしかに不可解です』:ここについて個人的には,5×2(=5+5)が,かけ算の式の中では最も答えを求めやすいからではないかという仮説を持っています.
  • 『あと疑問なのは、小さい数や大きな数では、インタビューを重ねるごとに正答率が上がっているのに、絵では下がっていることです。なぜでしょうか』:小さい数の文章題のいくつかでは,言葉だけだと場面の認識ができなかった子どもに限り,絵を見せているからです.ステージが進めば,場面の認識が言葉だけでできるようになり,絵を見せる頻度が下がった,と言うこともできます.

*1:最初は70名で,回を追うごとに少しずつ減っています.

*2:この英語表記についてはhttp://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/82.htmlで整理した.

*3:全体の数量と,いくつに分けるかが既知で,分かれた1つがどれだけの数量を持つかを求める.等分除ともいう.