いきなりですが問題です.文章題を読んで,答えを求めるための式を選びましょう.
1.
文章題:12粒のチョコレートが,縦横きちんと並んでいます.1つの列には3粒あります.全部で何列ありますか.
式:12+3 3×4 12×3 3−12 6+6 12÷3 12−3 3÷12
また和訳しました.出典は以下のとおり.
- Brown, M. and Kuchemann, D.: "Is It an 'Add', Miss? Part 1", Mathematics in School, Vol.5, No.5, pp.15-17 (1976). http://www.jstor.org/stable/30211617
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- Brown, M. and Kuchemann, D.: "Is It an 'Add', Miss? Part 2", Mathematics in School, Vol.6, No.1, pp.9-10 (1977). http://www.jstor.org/stable/30211887
- Brown, M: "Is It an 'Add', Miss? Part 3", Mathematics in School, Vol.10, No.1, pp.26-28 (1981). http://www.jstor.org/stable/30213609
Part 1とPart 3では,文章題といくつかの式を生徒*2に与え,答えてもらうとともに,インタビュー調査をしています.Part 2は,作問です.Part 1とPart 2で出てくる数は整数なのに対し,Part 3では小数を取り扱っています.
これら3つの報告で共通して,子どもたちの四則演算の理解度は,“+ − ÷ ×”の順で難しい,と主張しています.わり算のほうが,かけ算よりも簡単だというのです.
これには一つ事情があって,Part 1とPart 3では,わられる数とわる数を逆にした,わり算の式も,「わり算だと認識している」と解釈しています.冒頭の文章題であれば,12÷3に加えて3÷12も(そして3×4も),"all accepted" (p.17)です.
式の提示にも,気になるところがあります.Part 3, p.26の問題文を一つ,和訳します.
C.
文章題:ミンチ肉がkgあたり88.2ペンスで売られています.0.58kgだといくらですか.
式:88.2+0.58 0.58÷88.2 88.2÷0.58 0.58−88.2 88.2−0.58 0.58×88.2
式は6つです.「四則演算」と「被演算数・演算数のペア」に注意すると,式は8つ作れるのですが,2つ,足りません.何かというと,たし算とかけ算は1個ずつしかないのです.選択肢が少ない分,それが選ばれる可能性も減ります.
ところでこの文章題は,"Numbers Less Than One" (p.27),すなわち乗数が1未満の場面で,かけ算として正しく認識する割合が低くなること*3と関わってきます.他の文章題は,1より大きい数ばかりです.
出題内容や正解の判断には気になるところが多く,日本で同様の調査をすると,話が変わってしまうようにも感じますが,演算決定として「わり算のほうが,かけ算よりも簡単」という主張の存在については,気に留めておくとします.これは,使用する数に制約があるからではないかと推測しています.これまで読んできた2年向け問題集でも,たし算・ひき算・かけ算を混ぜた文章題を見ていると,そこに出てくる数が1桁ばかりだったらかけ算と判断できるなあ,と思ったものでした.
Part 1のp.16に,「かけ算とわり算の順序」あるいは「わり算の順序」に関する,面白い生徒の思考の説明がありました.英文と私訳を載せます.
Fairly clear identification of multiplication and division items, although often the inverse was chosen, e.g. 3×4 for the chocolate item. No distinction between 391÷23 and 23÷391 was made.
(しばしば逆の演算(例えばチョコレートの問題では3×4)を選ぶが,かけ算・わり算の問題だという認識はきちんとできている.391÷23と23÷391の区別がついていない.)