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平方個 - 3cm×5cm=15平方cmなのに3個×5個=15個なのはなぜか

id:ROYGB 面積の場合は3センチかける5センチで15センチ平方メートルと単位が変わるけど、3個と5個のリンゴの場合の単位はどうなるんだろう。平方個。

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図にすると,次のようになります.
(面積)


(りんご)


(1枚ものも,どうぞ:
りんごについては,最小単位は「1個」です.実際,1×1=1としたとしても,得られる数量は「1個」です.3×5=15あるいは5×3=15として計算したら,りんごは全部で「15個」となります.
面積はというと,縦1cm,横1cmの正方形の面積は「1㎤」です.1×1=1で得られるのも,「1㎤」です.式に単位を入れてみるならば,「1cm×1cm=1㎤」です.それをもとに,3×5=15あるいは5×3=15として計算したら,縦3cm,横5cmの長方形の面積は,1㎤の15個分ということで,「15㎤」となります.
上のりんごの配置や,冒頭でリンクした記事に見られるりんごの配置は,「直積(デカルト積)」と密接な関係があります.小学校ではりんごを丸印などに替えて,「アレイ図」として使用されます.「アレイでわかる!! かけ算」みたいな本があればいいのですが,見当たらないので,使われ方(一つの配置に対応する式がどれだけあるか)や歴史的なこと,利用上の注意などを含め,で解説を書きました.
アレイを用いたかけ算の指導は,1960年代に,SMSG (School Mathematics Study Group)が提案し,数学教育の現代化運動と相まって議論もなされましたが,どうやら一時のブームで終わってしまったようです.アレイや直積に基づいた,乗法の意味づけには,日本・フランス・中国で課題が指摘されています(12).
冒頭のブログのうち,「かけ算は、面積の計算の「縦×横」で考えると簡単」というのは,そういった国内外の学校の先生方による,子どもたちの観察を通じて得た知見を無視した,暴論と言わざるを得ません.

id:okra2 そのうち***のグループがいくつって分け方が出来ない場面に絶対でくわすわけで、こういう捉え方で物を教える様が恐い気がするんだけどなあ

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ある程度,本を読めば,かけ算に関する指導は1年から6年まで段階的になされていることが確認できます.「***のグループがいくつって分け方が出来ない場面」の存在と,それをどのようにして克服すればよいかについても知られていて,「乗法の意味の拡張」*1といったキーワードと結びついて,指導例を見ることができます.なお1年では,2, 4, 6, 8, ...と「まとめて数える」活動が,かけ算の素地となります.
「かけ算の正しい順序」という言葉を持ち出す人々の主張を見ていると,各学年の学習内容を踏まえておらず,子どもたちが順次,かけ算を用いることのできる場面を広げていくという事実についても,配慮が見られません.「基準になる数×倍」「1つ分の数×いくつ分」といった数少ないルールで,2年から6年まで押し通そうとしているところから,個人的には「掛け算の順序にとらわれている人々」と呼んでいます.


いろいろ本を読むと,例えば日常生活で「トマト3個×トマトジュース缶360本→1,080個相当」(トマト何個分)というのを見たときに,どうしてこんなかけ算ができるのだろう,という疑問に対し,複数の解釈を与えてくれます.
取り扱いやすいように,「3個×360本=1080個」と簡略化しておきます.これに対して,

  • 3個×360=1080個 … かける数の「360本」を「360倍」に変換して,「本」を取り除く.
  • 3個/本×360本=1080個 … 「1本あたり3個,それが360本ある」ので,かけ算でトマトの個数が求められると判断する.

ここでVergnaud (1983)の解釈を用いました.「360本×3個=1080個」となっていた場合の式の理解も,Vergnaud (1988)から可能ですが,以前にかける数が1あたりとして取りまとめています.

(最終更新:2013-03-15 夕方)

*1:「小数×整数」は4年,「整数×小数」と「小数×小数」は5年で学習します.なぜでしょう.