わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

輸出?

[twitter:@kankichi573]さんのツイートは,少ない字数のやりとりなのでそういう主張もありかな程度に思っていましたが,昨日[twitter:@sankunanaku]さんがリツイートしていたので,放っておくわけにもいかず,ちょっと書いておきます.
ツイートの前後関係は,https://twitter.com/kankichi573/status/314920996660465664から知ることができます.私自身のツイートといただいた返信は,takehikom 2013-03-16 #掛算 - Togetterにまとめています.
この件,こちらの理解は次のとおりです.

  • 内包量×外延量,I×Eの冒頭で引用した書籍からは,内包量・外延量などの概念が「輸出」されたと読み取ることができない.

認知心理学からみた数の理解』の引用箇所は,数学教育協議会(遠山・銀林)由来の内包量・外延量と,ある海外文献のintensive quantity,extensive quantityによる構造化を,結びつけて紹介したものとなっています.「Schwarz, 1988」の文献に書かれている,参考文献を見ても,日本からのアウトプットが含まれているようには思われません.
それらは独立した成果です.「かけ算とは何か? どうするのが(どんなモデルに基づくのが)学びやすいか?」を考えていくと,日本でも米国でも,そこに至るのかな*1と思っています.


Schwarzの書いたものは,KaputやGreerが引用しています.Kaputというのは

のことで,かつて順序数どうしの足し算,アフィン空間,量再考で見ていました.今読み直してみると,次のとおり,ExE(外延量×外延量)よりもIxE(内包量×外延量)のほうが良いことを記しています.

Our data from student generated problems (Schwarz, 1984) indicate that the acting across, or ExE type of multiplication, is not a ready part of students' repertoire, a fact fitting the poor representation of ExE problems in the curriculum. Our data suggesting that the IxE type of multiplication is easier and more commonly a part of student multiplication models may at least in part be a consequence of our (since revised) decision to go with purely integral coefficients, as the Fishbein and Greer results imply. (See also Ekenstam & Greer, 1983, for dramatic evidence of the constraining effect of the repeated addition model.) Thus the students' assumptions of the multiplication-as-repeated-addition model were never challenged - EXCEPT in the ExE case, where a different model needs to be invoked, the combinatorial version of the acting across model.
(pp.31-32)

内包量・外延量の話もそうですが,「算数」「数学」「物理」「実用」といった“土俵”の設定や認識が,重要になってきます.土俵とは,コンテキストあるいは適用範囲のことです.理論やエビデンスは,大人の議論として持っておいて,例えばどのようにしてかけ算を子どもたちが理解していけばいいかを,考えることになります.もちろんそれぞれの土俵は完全に別というわけにはいかず,それなりのつながりが求められます.
そうすると,[M][L][T]や組立単位・次元解析*2などは,高校の物理など,学ぶのに適切な時期があるように思えます.そして小学校の算数の学習と,次元の話を組み合わせる際に,単位正方形とそれを縦横に伸ばした長方形をもとに,「単位量どうしの積で,新たな単位量をつくる」を活用したいものです.
それでもなお,内包量・外延量にこだわるなら…次のように考えるのはいかがでしょうか.

  • 内包量・外延量は,それぞれの数量がどちらに属するかを判断することよりもむしろ,使用されるかけ算が「内包量×外延量」「内包量×内包量」「外延量×外延量」のどれに属するかを判断したり,どのタイプのかけ算をいつどのように学習すればいいかを検討するのに用いるとよい.

補足ですが,かけ算をその3つに分類しよう,という主張ではありません.先日のエントリでも,「量を伴うかけ算は,次の3種類に大別される」と書いたのでした.


内包量・外延量から離れて,「算数で,日本から海外に『輸出』されたものがあるか?」と問題を設定してみると,何例か思い浮かびました.別の機会に取りまとめるとします.

*1:http://togetter.com/li/448252

*2:Schwarzの書いた中の参考文献に,"Whitney, H. (1968b). The mathematics of physical quantities. Part II: Quantity structures and dimensional analysis. American Mathematical Monthly, 75, 227-256."があり,Schwarzは次元解析を考慮した上で枠組を提案していることがうかがえます.