わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

水道方式入門に《BA型》

 用語の確認を.「水道方式」は,数学教育協議会が推進してきた算数教育の方法です.筆算を重視するとともに,加減乗除それぞれで式の形が系統化されており,「一般から特殊へ」という指導の流れを持っています.
 《BA型》は,当ブログ独自の,文章題のタイプの一つです.A,Bの順に数が現れ,B×A(=P)の形で式に表すことが期待される問題をいいます.算数教育の実践においては,「基準量が後に示された問題」と書かれます.他のタイプには《AB型》《複数解》があります.

 それで何があったのかというと,1971年発行の『新版 水道方式入門 整数編』に,《BA型》が入っていたのでした.

〔練習もんだい〕
(略)
② 学校にはせいとが784人います。1カ月に1人が画用紙を25まいずつつかうとすると,この学校では1カ月に何まいの画用紙がいりますか。
(p.261)

 他の出題例(pp.200-222)と同様に考えると,式は,25まい×784です*1
 ただちに,784×25でもいいんじゃないかという疑問が浮かびます.本には正解が載っていませんが,この問題が何の学習を意図しているかに注目して読み直すと,784×25ではないと言わざるを得ません.少し,引用します.

ところで乗数に0が含まれる計算やI,II位数×III位数 の計算は,×II位数 のときと同様に一般的な方法で解かせます。
0のある乗法は簡便算でもやれますが,これは,この後でまとめて扱います。また,I,II位数×III位数 も交換法則によって乗数,被乗数をとりかえて計算すると簡単ですが,ここではオーソドックスに規則どおり計算させておき,後で交換法則を使って簡便法として扱います。
(p.255)

多位数の乗法では,乗数のけた数が多く被乗数のけた数が少ない3×246,75×468のような計算は交換法則によって,246×3,468×75に直して計算するほうが便利です。でも,この方法をはじめから教えるのは感心できません。どんなケタ数の乗法でも計算規則を忠実に守って計算すれば,必ず正答を得ることができるのだということを理解させることが,この段階では大切だからです。一般的な計算の方法を会得してから,もっと便利な計算の方法はないかを考える段階で望ましいとおもいます。
(p.261)

 「I」「II」「III」はローマ数字です.「I位数」「II位数」「III位数」は,1桁・2桁・3桁の整数に対応します.なお,当時の小学校学習指導要領の算数からは,「1位数」「2位数」「3位数」そして「4位数」を見ることができます.
 画用紙の問題が入っているpp.255-261は,「3. III位数×III位数」というくくりです.そこに,上の引用のとおり「I,II位数×III位数」,具体例としては25×784の計算が,含まれます.「2. III位数×II位数」はpp.252-254ですので,784×25の計算はそこで扱われるべきものとなります.
 この本では《BA型》がもう1問,見つかりました.

7. まさるさんの学校のせいとの数は872人です。給食費を1人から1250円ずつ集めるとぜんぶで何円集まりますか。
(p.270)

 これは第V章§5,〔練習もんだい〕の最後です.奥付によると,第V章§1〜§5の著者は「岡田 進  東京 数学教育協議会会員」とあり,除法を扱う§6からは別の人です.
 画用紙・給食費の文章題の出現は,「そろそろ式は反対に書かなきゃいけないころだ」(『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』pp.62-63)を想起します.それと別に,九九の範囲を超えて,ある人数に対し,それぞれ同数の半紙を配るという《BA型》の出題例を,本探し,出題探し,教え方探し(2. 数研出版の検定外教科書とワーク)で見てきました.
 『新版 水道方式入門 整数編』の編集に,遠山啓がどのくらい関わったのか,本からは定かでありません.奥付をもう少し見ておきますと,発行は「1971年9月15日 初版発行」「1985年4月10日 16版発行」で,編者として「遠山 啓  東京工業大学名誉教授(1979年歿)」が書かれていました.
 遠山が科学朝日で「4×6だけが正解であり,ほかを誤りとする理由はどこにもない」と書いたのは1972年です.没年月日や刊行・講演のいくつかの日付は,昨年末にまとめています.

*1:パー書きを使うなら,25まい/人×784人です.