わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

累加は計算方法であって,かけ算の意味ではない

かけ算の学習には,累加よりも対応づけで取り上げた,Park & Nunes (2001)では,日本人による文献が引用されています.

These two hypotheses regarding the origin of the concept of multiplication are reflected in what is considered best practice in the teaching of multiplication in different countries. The English National Numeracy Strategy (DfEE, 1999, p. 14) suggests that pupils should be taught to understand multiplication as repeated addition. In contrast, the Japanese Association of Mathematical Instruction proposes that "repeated addition is a way to calculate multiplication, not a meaning of it" (see Yamonoshita & Matsushita, 1996, p. 291). In spite of the importance of finding a solution to this divergence in advice to teachers across countries, there is to our knowledge no direct evidence regarding what progress pupils make if taught in one way or the other. Our study will provide this much needed evidence.
(乗法の概念の起源に関するこれら2つの仮説*1は,様々な国でのかけ算の教育実践において最も良い方法は何かということに反映される.English National Numeracy Strategyは,かけ算を累加で理解するよう教えることを提言する.一方,日本の数学教育協議会では,「累加はかけ算の計算を行う一つの方法であり,かけ算の意味ではない」と提唱する.国をまたいだ教師らへのアドバイスにおいて,この相違に至る道筋を得るのは重要ではあるが,我々の知る限り2つの方法それぞれで,生徒らがどのように理解を深めていくかに関する直接的なエビデンスは存在しない.我々の研究は,この強く必要とされているエビデンスを与えるものである.)
(p.765)

「Yamonoshita & Matsushita, 1996」とは以下の文献です.

  • Yamonoshita, T., & Matsushita, K. (1996). Classroom models for young children's mathematical ideas. In H. M. Mansfield, N. A. Pateman, & N. Descamps-Bednarz (Eds.), Mathematics for tomorrow's young children: international perspectives on curriculum (pp. 285-301). Dordrecht: Kluwer Academic Publishing.

本はisbn:0792339983ですが,文献単体ではSpringerから購入できます.
「累加は計算方法であって,かけ算の意味ではない」で連想するものを,探してみました*2

日本式のかけ算の意味をどのように教えるかというと,かけ算をたし算から切り離して教えることが前提となる.具体的にはどうすればいいのか.
そのために,たとえば,ウサギが何匹かならんでいる絵をかいて,まず,ウサギ1匹に耳が何本あるかを考えさせる.そうすると,“1匹分が2本”であることがすぐわかるだろう.そして,たとえば,「3匹分の耳は何本か」と問い,それを
2×3
の意味だとするのである.つまり,かけ算は“1あたり”から“いくつ分”を求める計算と定義するのである.
この定義のなかには,“たし算”は一つもはいっていないことに注意してほしい.だから,「2×3の答えはいくつか」という問いをだすと,
2+2+2=6
として計算する子どももいるし,
3+3=6
と計算する子どももいる.どうしてそうしたかを問いかえすと,「ぼくは右の耳はいくつかと考えたら3で,左の耳も3でした.だから,みんなで,3+3=6としたのです」と答える.また,「ぼくはウサギを3匹書いて,その耳を1,2,3,……と数えて6になりました」という子どももいる.
そういう子どもは,すべて2×3の意味を正しくとらえているものと考えてよい.ただ計算の手段がちがっただけだと考えるのである.このようないき方だと,
2×1
も,少しもむずかしくはない.1匹あたり2本の耳は,1匹分では,やはり,2本だから,
2×1=2
となるし,また,2×0はウサギが0匹,つまり,1匹もいないのだから,耳だって1本もないはずである.だから,
2×0=0
となる.これは,子どもにとってなんの困難もない.要するに,計算手段から切りはなしてかけ算を意味づけておいたほうがずっと一般化しやすいし,発展性があるのである.
このことは×分数,×小数になると,いっそうはっきりする.
(p.118. 転載元)

(7)「かけ算の意味」と「答の出し方」の区別
皆さんの中には次のような疑問をもつ人がいるかもしれません。それは,「⑤うさぎには耳が2本ある。ウサギが4匹いると耳の数は全部でいくつか」の場合は,「1あたり量×いくつ分」になっているのは分かるけれど,同時に,2+2+2+2にもなっているから,かけ算の意味を「足し算の繰り返し」と捉えてもいいのではないかという疑問です。
これについては,「かけ算の意味」と「かけ算の答の出し方」を区別するというのが答になります。つまり,かけ算の意味は「1当たり量×いくつ分=全体の量」だ。そして,足し算の繰り返し(2+2+2+2)は,かけ算の意味ではなくて,答えの出し方の1つなのだと捉えます。
「答の出し方の1つ」と書いたのはこういうわけです。⑤(うさぎの耳)の答を出すときは,2+2+2+2でなくて,4+4でもいいわけです。だって4匹のうさぎの左の耳を数えると4本で,右の耳を数えると4本で,合わせると8本だ,でも答が出るわけですよね。これに対して,2+2+2+2というのは,1匹ずつの耳の数を足し合わせて答えを出すという方法を使ったわけです。
(p.17. 転載元)

  • Multiplication sentences describe equal set situations.
    • Repeated addition and skip counting are ways to find the total (product).
  • (かけ算の式は,それと数の等しい,決まった状況を表す.
    • 累加や,まとめて数えることは,いずれも総数(積)を求める方法である.)

([http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130216/1360948813#yoshida2009:title=転載元)

また2+2+2を、2×3あるいは3×2と、どちらでも表現できます。
そして3+3を、2×3あるいは3×2と、どちらでも表現できます。
だから、数学的には「かけ算の順序」による区別はありません。

日本に限って見ても,「累加は計算方法であって,かけ算の意味ではない」という提案は,数学教育協議会の指導法などに賛同しない人からも,なされていると言ってよさそうです.
その一方で,「累加は計算方法であって,かけ算の意味ではない」が,算数教育においてどのくらい普及している認識なのかは,それらの主張からは想像ができません.
累加を,かけ算の意味の中で使う試みは,小学校学習指導要領解説算数編に書かれています.「例えば,0.1×3ならば,0.1+0.1+0.1の意味である。」(p.141)です.とはいえ,前後を読むと,これは「例えば,0.1×3という式の意味は,0.1+0.1+0.1である」と解釈すべきようにも見えてきます.演算の意味ではなく,式の意味です.そして場面の解釈にも使えます.1dLの液体が3つあるのは1×3=1+1+1=3で3dL,これを0.1Lが3つと見れば,0.1×3=0.1+0.1+0.1=0.3で0.3Lになるわけです.
今のところ自分は,

  • 累加は,乗数がある範囲のとき,理解や計算のための良い手段となり得る

という認識を持っています.「ある範囲」として,まず思い浮かぶのは,2以上9以下の整数です.1や0,上は20くらいまで,範囲を拡張するのは,問題なさそうに見えます.被乗数は,整数でも0でも,小数でも分数でも,差しつかえありません.整数であっても,乗数が大きな数になると,累加で書いたりイメージしたりするのは非現実的となり,別の手段(例えば筆算)が求められます.小数や分数,負の値も扱うには,適切な場面設定や,数直線などの可視化ツールが必要です.
かけ算と累加を切り離すことには,反対です.累加は,加法と乗法の橋渡しをする重要な性質として,活用できるからです.2年生向けには,アレイの分解や結合により,それぞれに応じてドットの総数をかけ算・たし算の式で表せることを支えています.高木貞治は,乗法を累加で定義した上で,まず分配法則を証明し,それを使って,結合法則と交換法則を別々に証明しています(『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』pp.26-28).

*1:訳注:前のページで説明されています.それぞれに指導・学習のモデルがあり,それをより具現化したものが「累加」「対応づけ」となります.

*2:文献を見つけたら,随時追加していく予定です.