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新しくて古い,算数・かけ算の順序

算数は結果、数学はプロセス

小見出しへのツッコミから.
算数でも,プロセスすなわち「なぜそうなるか」を重視します.「PISA型」という名称もあり,全国学力テストの算数B問題が代表的です.
言葉ではなく式を答える出題だと,東京都算数教育研究会(都算研)による調査が目を引きます.(1)□−□=9 (2)□−□=9をもとに,差が9になるような数の組み合わせを2種類,書くもの(1年)や,

といった,L字型の配置でかけ算を使っておはじきの求め方を2つ書くもの(2年)が見られます.
解答者数は1〜6年の各学年,5万人前後で,東京都内の約半数の児童が解答している計算になります.2年おきに実施していることと合わせて,授業を通して学習した事項---1つの場面に複数のプロセスが可能なことも含めて---を,入念な計画・配慮のもとで調査していることがうかがえます*1
その学力実態調査の報告と,冒頭でリンクした記事とで,対象となる読者が異なりますから,それらに優劣をつけるわけにはいきません.
しかしそれぞれの出題と解答例を通して,「算数観」を知り,比較することは,算数教育に直接,携わらない者でも,可能なわけです.

繰り返しますが、数学は算数とは似て非なるものです。大胆に言ってしまうと、算数では正しい結果を得ることに価値がおかれ、数学では結果そのものよりも、どうやってその結果に達したかのプロセスに価値がおかれます。すなわち算数では計算の正確さが、数学では論理の正しさが求められているのです。

小学校の算数の授業では,最終的な答えは一つであっても,問題に対して様々な考え方・解き方や式が出てくるよう,計画され,進められています.先生方は「学習指導案」を書き,そのいくらかはPDF化されており,我々はそこから,何をねらいとしてどんな授業をしているのか,学年間でどのようなつながりがあるのか,大枠は何で小ネタがどこに入っているか,などを見ることができます.
それから,「算数では正しい結果を得ることに価値がおかれ」ることは,後述の「掛け算の順序問題」が発生することと,矛盾します.結果だけ出せればよいのなら,先生は,a×bかb×aか,なんてところで立ち止まらなくていいはずです.しかし,日本の算数では,6×4と4×6,2.4×7と7×2.4では,答え(積)は同じだけれど意味は違うとされます*2
実情として,「掛け算の順序」を問題にしているのは,学校教育に直接携わらない人々ばかりで,より丁寧にその問題(子どもたちに何を身につけてほしいか)を考えている方々は,「かけ算の意味」「かけられる数・かける数の意味」「式の意味」「演算決定」あたりを,主要なキーワードとしています.
小学校で「論理の正しさ」までは難しいかもしれませんが,根拠を問うことは可能です.ある文章題で6×4と式を立てた子に,「どうして6×4なの?」と尋ねればいいのです.

算数ではこの計算方法でなぜ正しい結果が得られるかを考えることはないと思います。小学生が「筆算を使うと正しく計算できる理由」を考えなくてはいけない場面はほとんどないでしょう。なぜなら答えが正しければそれでよいからです。23×15の計算を、算盤を習っている子どもが算盤式の暗算で答えたとしても、あるいはちょっと知識のある子がインド式で計算したとしても、正しく「345」でありさえすればちゃんと点がもらえるはずです。

筆算の問題に対し,子どもが部分積を書かずに答えだけを書いていたら,正解・不正解のチェックよりも前に,「正解を丸写ししたのでは」「電卓を使ったのでは」が思い浮かぶのではないでしょうか.「暗算(または他の方法)で,ちゃんと解けたね」と思うのは,特殊な指導をしている場合に限られます.

……というわけで(話を戻します)10進法が使われている世界では、23は、
23=10×2+1×3=20+3
という意味です。これに、
15=10×1+1×5=10+5
を掛け算するわけですが、じつは先の筆算は23×15を、
23×15=(20+3)×(10+5)
と分解し、後に勉強する分配法則を用いて、
(図は省略)
3×5=15
20×5=100
3×10=30
20×10=200
であることから、
(図は省略)
と計算しているのを簡略化したものなのです。これが「筆算を使うと正しく計算できる理由」です。
たかだか筆算で小難しい話になってしまいましたが、数学ではいつも、どうしてそのようにすると正しい答えが得られるのかを誰にでもわかるように論理的に示す必要があります。

見聞きする限り,小学校でも筆算の原理を,同様の流れで学習しています.分配法則という言葉はさておき,十の位と一の位で分けるのは,10円玉・1円玉を使うなどして行われています.都算研による調査にも入っていて(3年),86%,77%という正答率を記したのち,「誤答の原因は、位取りや数の意味を意識しないで形式的に筆算の仕方を覚えているからと考えられる」と分析しています.
ところで「分配法則」だけが出てきましたが,交換法則も用いられています.というのは,3×5と20×5の計算をする際には,「五三15」「五二10」と,筆算ではかける数にあたる5を,先に言います.戦前の小学算術や,戦後でも水道方式の本に,乗数先唱という言葉が見られますが,3×5が「五三15」で求められるのは,交換法則を思い浮かべるのがよさそうです.それと,「三五15」「二五10」と,2つの段(2の段・3の段)を使うのに比べて,「五三15」「五二10」だと,5の段だけで答えが出るという,計算やたしかめのコストも,ちょっとしたことですが大事です.

もう1つ例を出しましょう。有名な鶴亀算です。

鶴亀算については,中山理『算数再入門』pp.174-179で「算数と数学のちがい」として,比較があります.
「50円の切手と80円の切手を合わせて40枚買ったら、代金は2750円でした。50円の切手と80円の切手を、それぞれ何枚ずつ買いましたか」という問題に対し,中学校2年生では,連立方程式を立てて解きます.中学校1年生では,1次方程式です.小学校6年生の解き方は,記事と同じ流れです*3.小学校4年生では「表で解く」として,合わせて40枚という制約条件のもと,50円切手と80円切手の枚数を1ずつ変えていくと代金がどうなるかを表にし,そこから答えを見つけるという方法を示しています.
表で解くのは,手間がかかるし,計算ミスも起こりやすいのですが,それでもその解法を著者が記したのは,「数量関係」と密接に関わるからです.鶴亀算ではないにしても,2つの量の関係を表にする活動は,小学校でもなされており,時期としては4年が適当でしょう.

いかがでしたか? 覚えていましたか? でも、ここでは鶴亀算を覚えていたかどうかはどうでもよいことです。問題は、算数で小学生がこの方法を習うとき、多くの場合「なぜこのようにすると解けるのか」を考えていないことです。
もちろん小学校や塾の先生の中には算数の授業の中で「なぜこうすると解けるのか」を熱心に教える先生もいらっしゃると思います。そういう先生は最初に極端な例(全部鶴だと考える)を想定してから実際の事例に沿うように補正していくという考え方の応用性にまで話が及ぶ授業をされていることでしょう。
ただしこの場合、先生は算数を通して「数学」を教えていると言っても過言ではありません。算数を算数として、あるいは中学受験を突破するための技術として教えるのであれば、「こういう問題はこういう風に解くんだぞ」と教え、生徒が典型的な問題を典型的な解法で解けるようになれば、そしてほんの少し応用ができれば、それで十分です。

そういえば「受験算数」ということばもあるようで….
教師向けの算数教育の書籍や,PDFで公開されている学習指導案を読んでいけば,原理,言い換えると「なぜこうすると解けるのか」を,重視しているのを知ることができます.学年が上がっても,小数×整数と,整数×小数のそれぞれで,「なぜその計算が必要か」「なぜこうすると解けるのか」を学習しています.
「熱心に教える先生」という言葉は,一部の先生に限られるという意図だと理解しましたが,一部に限られないのは,日米ほかを比較した調査研究で,示されています.


「掛け算の順序問題」については引用せず,これまで書いてきたことを整理することにします.

  • かける数にあたるほうが先に出現する文章題を使って,かけられる数・かける数の意味を確認する指導例は,水道方式が出てくるより前,昭和26年の学習指導要領にもあります.
  • 授業では,「なぜそのようにするのか」がしっかりと議論され,学級内で共有されます.そこでは「どうして4×6と書かないといけないか」よりもむしろ,「6×4と書いたら,何を表すことになるか」という形で,見ていくことになります.
  • トランプ配りは,かけ算ではなく,等分除を理解するための手段として確立されています*4.トランプ配りをさせないようにする指導や出題の例もあります.学術調査においても,子どもたちがかけ算をトランプ配りのように考えているという事例は出てきません*5


冒頭でリンクした記事について,残念に思うことがあります.先達へのレスペクトが含まれていないことです.
2種類あって,一つは,日本で培われ,海外でも高く評価されてきた,算数教育そのものです.教材・出題のほか,教師と子ども,子どもどうしのやりとりが,抜け落ちているように思えてなりません.
そして,開米瑞浩氏の名前も挙げておかないといけません.2011年の暮れ,誠ブログで一連の記事をリリースし,注目を集めました.後篇を読みまして,対象・問題を分類しそれぞれにアドバイスを与えていく展開というのは,開米氏のアプローチと重なって見えました.
開米氏はその後,Wikiを開設され,誠ブログの内容がいくらか転記されていますが,ある日を境に更新が止まり,本人による更新は1年以上,見られません.
小学校の算数を,自説の賛同を得るための敵役として取り上げ,使い捨てにすることが繰り返されるのは,避けてほしいものです.


Books:

[isbn:9784121019424:detail]

[isbn:9784491027326:detail]

[isbn:4316389106:detail]

[isbn:4788503883:detail]

[isbn:9784762820380:detail]

Links:

(最終更新:2013-04-21 早朝)

*1:かけられる数とかける数を反対にすると誤答としている出題も,第2学年大問3,第6学年大問2(2)に入っています.

*2:海外でも,a×bとb×aが同じでないような,日常生活の例を問う出題があります.

*3:「8匹全部が鶴だとすると、足の数は、8×2=16より16本となります」の式では,鶴1羽の足の数が,かける数に来ています.『算数再入門』でも,「40枚とも50円切手を買ったとすると、40×50=2000で2000円ですみます」と,枚数が先になっているのは,興味深い共通点です.

*4:国内では1970年代,海外でも同時期から1990年代を中心として,小学校で学習するかけ算・わり算の構造(モデル,性質)が研究されました.その過程で,トランプ配りのかけ算への適用は淘汰されたと見るのがよさそうです.遠山啓は,1972年の科学朝日の記事で,みかんを配る問題を,長方形に並べた机の台数を求める問題と結びつけ,4×6でも,6×4でもいいという主張をしましたが,晩年,講演の中で,「タイル×タイル」は子どもにはなかなかわかりにくく,一般性としては「総量=内包量×容量」が良いと言っており,認識が変化しています.

*5:教師らの観察では,見られるようで,その対応例として,1本の木に5種類の異なる花が咲き,そんな木が4つあるという「ふしぎな花のさく木」があります.