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掛け算・割り算の常識

  • 野﨑昭弘: 掛け算・割り算の常識, 数学教育, No.740, pp.48-51 (2013).

https://twitter.com/metameta007/statuses/350925928668467200で知り,さっそく『数学教室 2013年 07月号 [雑誌]』を取り寄せました.
この著者で思い出すのは,『離散系の数学』です.大学1年,前期・後期の専門必修科目で,教科書に指定されまして,組み合わせ数学(包除原理など)やグラフ理論の入門となるところを学びました.
さて本文へ.ヘッダには「○連載● 算数・数学の常識・非常識(4)」とあります.そしてこの4ページには,小学校で学ぶかけ算とわり算の“面白いところ”が詰まっているように感じました.はじめ2ページほどは,「1 掛け算・割り算の基礎」として,2〜3年で学習する話です.ページをめくって後半は「2 分数の掛け算・割り算」で,6年の内容と重なります.
その,1の終わりに,「掛け算の順序について」と題した文章がありました.

掛け算の順序について さきほど「4人に2つずつ,りんごを分けるときの,りんごの総数」を,
   2こ/人×4人=8こ*1
と計算しました。このように,掛け算を
   1あたり量×いくつ分
と書き表すのが,かけわり図を使うときの標準的な考え方です。では同じ問題の答えを
   4×2=8(こ)
のように計算するのは誤り? それともこれでよい?――という問題があって,一部で(先日はある新聞でも)大議論が行われています。
高校・大学の先生なら,答えは同じなので「4×2でもよい」と考える,と思いますが,「4×2ではよくない」場合もありえます。それは
① 掛け算の意味を「1あたり量×いくつ分」として,ていねいに説明していて,
② それがわかっていない子に,順序の混乱が現れている
と見られる場合です。
しかし「何を1あたり量と考えるか」は,実はひと通りとは限りません。その上,中学校で文字式を学ぶと,たとえば“3x”のように「既知数3を左,未知数xを右」に書く習慣を教えられ,そこでは「どちらが1あたり量か」は無視されます(“x”のほうが1あたり量であることも,ありうる)。ですから,せっかくの
  「意味を理解するための指導」
が,「こうでなければいけない」という暗記の強制になってはいけませんので,そのあたりは「柔軟性をもって,子どもの考えもよく聞いて,対処しなければならない」と私は思います。
(pp.49-50)

最初の問題設定が「4人に2つずつ,りんごを分ける」とあって,そのシチュエーションに“分ける”という言葉を使うのは,かけ算の意味を理解するための指導としていいのかなという不安もあります.これについては,その語句があるすぐ左のカラムに,

〈例題1〉りんごをひとりに2こずつ,4人に分けるには,何このりんごがいりますか?
(図3:省略)
問題に「分ける」という言葉があるので,反射的に「割り算!」と思う子もいるようですが,図3のように「全体量がわからない場合は,掛け算」なのです。

とあり,意図的に使っていると見ることができます.
次に,①②を含む段落は,「1あたり量×いくつ分」は別の表現に置き換えた上で,最近の指導の仕方や考え方と合致しています.今年の本からだと,どっちの式でもいいのかな - 北数教です.もう少し前に刊行され,考え方を示したものには,「かけ算の導入」『小学校指導法 算数』があります.
しかし,「しかし」から始まる文は,残念ながらここが数学教育協議会の限界といったところです.というのも,知る限り戦後から,そして現在でも,「まとめて数える*2」ことが,かけ算の素地となっており,それに基づくと,上のりんごの問題は,2が“1つ分の数”に特定されます.実際に指導例が『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66,『算数授業力アップ! つまずき指導のアイデア12か月 1~3年編』p.49に記されています.その一方で,りんごの問題と同様の,“1つ分の数”と“いくつ分”が区別される場面で,かけられる数・かける数を反対に書いた式も認められるという授業や,低学年向けテストの事例は,見かけません.
数学教育協議会の限界」を,もう少し穏健に書くと,次のようになります.すなわち,遠山啓らが主張してきた,乗法を加法から切り離す*3という方針の採用は,まとめて数える活動が乗法の素地であるという考え方を採用できないことを意味します.
なお,「掛け算の素地」という表現を含む本に『算数再入門―わかる、たのしい、おもしろい (中公新書)』があり,優しい本の前半で取り上げました.


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*1:引用注:「こ/人」「人」「こ」はそれぞれ上付きです.このページには,同様の上付きがいくつかあります.

*2:「2,4,6,8,10,…」や「5,10,15,20,…」と数えていくことが,含まれます.

*3:例えば,「+・−と×・÷はべつの演算とみなす」(『遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)』p.120).

*4:これを含む1年から6年までの本が,今回見てきた「数学教室」No.740の裏表紙にて広告されています.