わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「違う」と書かずに,違いを伝える

1. ②②②②②と⑤⑤

[isbn:9784491025223:detail]

今から見ると,やや古い本です.編著者は横浜国立大学教授ですが,実践編執筆者一覧を見ると,「小松市立」(石川県)の小学校を所属としている先生方が多くあります.
さて…第2学年「かけ算(1)」の指導展開構想(p.50)の出だしに,びっくりさせられました.

1. 考える足場をつくる
T:答えを求める式が2×5になるもんだいをつくりました。どちらの問題が正しいですか。

《みらいさん》みかんが1さらに2このっています。5さらあります。みかんは、ぜんぶで何こになりますか。

《つばささん》みかんがのっているさらが2さらあります。1さらに5このっています。みかんはぜんぶで何こになります。

C:みらいさんが正しい。図でかくと、②②②②②になるのはみらいさん。つばささんだと、⑤⑤になる。
C:2個のまとまりが5つ分という意味だからみらいさんが正しい。つばささんだと、5このまとまりが2つ分になる。
T:かけ算の式から、もんだいを作る時は、同じまとまりの数に気をつけて作ることが大切ですね。

これまで見てきたものと比較すると,2×5,5×2となる一対の文章題を提示しているのは,東京書籍の教科書です.また2人が作ったという問題を見て,式に合うのを選ぶのは,大日本図書の教科書にあります.
それで,びっくりしたのは何かというと,最初の児童の発言です.「②②②②②」「⑤⑤」表記しているところです.
もちろん「マル2」などと発言しているわけはなく,「この図のように」とするか,または「2こ,2こ,2こ,2こ,2こ」,もっと減らして「2,2,2,2,2」と言うことが考えられます.「⑤⑤」は,「5こ,5こ」もしくは「5,5」です.
図は本文中にありませんが,ひとりブレストして,いくつか作ってみました:




いずれも,みらいさんのほうは,たし算の式にすると2+2+2+2+2,かけ算の式にすると2×5なのに対し,つばささんのほうは,たし算は5+5,かけ算は5×2です.
最後の長方形型配置については,その逆も言えそうです.すなわち,どちらも,2+2+2+2+2,2×5であり,5+5,5×2であるという主張ができそうです.

かつて,そのように配置にすることは,積指向であると認識していました.今回の図示を通じて,長方形型に配置するという操作により,答えを得るべき対象を,特殊化していると感じるようになりました.

その種の特殊化---与えられた問題に対し,特殊な場合を考えること---には,連想するものがあります.

塾で,生徒の席(長机だったなあ)に座って,問題を解く側から,先生用の座席に替わって,生徒が問題に取り組む姿を見る側になって1か月くらいしたときのこと,塾長が部屋に入ってきまして,生徒も先生も解いてくれと,紙を持ってきました.

この「とんがっている」7箇所の角の和を求めなさいというものです.
生徒は,高校3年生3名です.早々と投げ出していました.高校の数学では,この種の問題は出そうにありませんからね.
スマートでなくても何か解き方があるかなと,その場でひねり出しました.具体的には,7点を正七角形として,線で結び,一つの角の大きさを求めれば,その7倍で答えが出せるだろうというものです.苦労して,授業時間内に解きました.後日,大学の友人に見せたら,補助線を引いたスマートな解法を教えてくれました.なんだけど,今,その補助線が見えてこないなあ.

型・形

正七角形をもとにした図形を使うのが,特殊化にあたります.その方法によって求めた値が,正七角形でない形でも等しくなることを,確かめないといけません.
答えとなる値が変わるような特殊化として,確率の問題があります.

  • 2個のサイコロを振った.そのうちの一つが偶数のとき,もう一つが奇数である確率を求めなさい.

は,条件付き確率に注意すると,確率は2/3となります.

  • 大小1個ずつ,2個のサイコロを振った.そのうちの一つが偶数のとき,もう一つが奇数である確率を求めなさい.

という特殊化を行っても,同じく2/3です.しかし,

  • 大小1個ずつ,2個のサイコロを振った.大きいほうのサイコロが偶数のとき,小さい方のサイコロが奇数である確率を求めなさい.

とすると,これは独立な事象なので,1/2です.ここで確率が変わったのは,「大きいほうのサイコロが偶数のとき」は「そのうちの一つが偶数のとき」の一部だけれど,それと同値ではないからです.
みらいさんの作った問題について,上記の指導展開構想では「5×2」のみであることが読み取れます.一方,かけ算の順序を批判し,長方形型配置の図にできるという主張に基づくと,「5×2」も「2×5」も,その場面を表す式だとなります.他の図と比較したとき,2つのかけ算の式が得られるのは,特殊化をしたからではないか,となります.
ともあれ小学校の授業では,数える対象を長方形型で配置しても,皿のグルーピングがあるために,5+5や5×2とする可能性はなさそうなのですが.

2. ABC,ABC,ABC,ABCは,4×3=12

[isbn:9784799900475:detail]

タイトルだけ見ると,褒める対象が子どもではなく「算数言葉」となっていますが,その意図は,まえがきの中で「形式的に言語を教えるのではなく、授業の中で子どもとの対話を通して、子どもならではの自然な言葉として育てていくことを願っている。」(p.3)と記されています.
さて,第三章(議論白熱! 算数授業で大事にしたい言葉)の中で,トランプ配りを見かけました(p.110).

盛山 わり算の導入で「おはじきが□こあります。それを3人で分けます。一人分はいくつでしょう」という問題を出しました。「□こ」と言った瞬間に「答えが出せないよ」とか「どういう意味?」という言葉が出ました。
田中 確かめの言葉ですね。オープニングで問題に対する質問の言葉をマップに加えましょう。条件を確かめる言葉、問題に対しての質問の言葉も必要だということですね。
盛山 子どもたちは「□にいくつ」と数を欲しがりましたが、「Aくん、Bくん、Cくん3人に分けるよ」と、総数が入っている袋から3つの封筒に分けていきました。「先生の動きを見ていて」と投げかけて、(A、B、C)、(A、B、C)、(A、B、C)、(A、B、C)と4回袋に入れたんです。すると、子どもが「わかった!」と言ったので、「どうしてわかったの?」と問い返すと、だって、4回作業したから」「4×3は12だから、はじめの□には12が入るよ」というかけ算の考えに持っていきました。

4回,入れたけれど,式は4×3としています.その意図は,入れ方ではなく,入れた結果に着目させる(『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66改変)ことでしょう.「Aくん、Bくん、Cくん」それぞれで見ると,おはじきを4個ずつ,そして3人いるから,4個×3人=12個です.また等分除とみたとき,わり算の式は12÷3=4,それに対応するかけ算の式は4×3=12,と解釈することもできます.
実際には子どもは「3×4は12だから」と言ったけれど,先生が「4×3は12だから」に置き換えて授業を進めた,という可能性も否定できませんが…ここは,トランプ配りを用いても,かけ算の式は1通りだけなのですよと,示しているように感じました.その後の展開*1は,筑波の授業でよく目にするパターンです.

3. 4+4+3+4=15と4+3+4+4=15

2年生に①の図を見せました。口々に「15だ」。そこで「数え間違いじゃないの?」と問うと、「式にできるよ」という、式を用いて15であることを説明できるという意図の発言でした。4+4+3+4=15という式を板書すると、一人の子が、右から順に図を指さしながら式の説明をしました。すると別の子が、「それじゃ反対だよ。」と、4+3+4+4=15と書き、さらに他の子が図をひっくり返し、その式と図の関係について説明しました。
この後、子どもたちは、二種類の式と図を見比べながら説明し、式は計算をするためだけでなく、図(数)の見方を表すことができるという結論に至りました。
このように一つの考えを式と図という別の表現様式にしてみると、子どもたちにその意味を見比べる必要が生まれます。すると新たな気付きや発言が生まれ、それをきっかけにまた見比べる活動が生まれます。その繰り返しが、考えを共有することに繋がります。
(市村広樹:「式も考えを表す「言葉」です」,『ほめて育てる算数言葉』p.41)

①の図は次のとおり.最初に見せたのは,上の「4個,4個,3個,4個」の囲みだけなのでしょう.

式と図の対応づけとして,興味深い授業の展開だと思います.「4個,4個,3個,4個」と「4個,3個,4個,4個」は違う,ではなく,それらを違うものとして,異なる式に表すことができる,というのが主眼となっています.4口のたし算ですが,2つのたし算にまで減らすとそれは,朝四暮三です.
ただ,式にせよ,この図にせよ,左から右に書くことを,暗黙の了解事項としているところは,少々気になります.図については,マルを,Z型ではなくN型*2で打っていかないといけません.もし,国語の縦書き*3でマルを打っていったのなら,上の図も4+3+4+4=15とするのが「ずのじゅんばん」となります.
このページの結語は「式も、算数の言語の一つです。」.この主張は,算数教育の実践について本で読んできたことと合致し,近年の(学習指導要領改訂に基づく)「言語活動」「算数的活動」に即したものと言えます.その一方で,例えば- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキの主張と競合しそうな点は,配慮しておきたいところです.

4. 段数×3よりも3×段数

『ほめて育てる算数言葉』pp.53-54では,正三角形の規則的な配置をもとに,段の数と増えた辺の数の関係を求めています.例えば次の配置では,段の数は3,辺の数は27ですが,2段の場合と3段の場合を比較すると,増えた辺の数は9となります.

(一)は飛ばして(二)を書き出します.

(二)式の意味を考えさせ,言葉で表現させる
その後,「増えた三角形の数」「同じ大きさの三角形の数」「増えた辺の数」の3つの変わり方を表に書き込み,式に表せるものは表した.③の「増えた辺の数」の変わり方では,「だんの数×3=増えた辺の数」という式が出た.
「だんの数に3をかけると増えた辺の数になるんだね」
というと,子どもたちは,
「なんかおかしい」
と言い出した.すると,
「『だんの数』と『増えた上向きの三角形の数』が同じになる」
とある子どもが言う.そして,
「だったら『3×だんの数』の方がいいんじゃない?」
と式の意味を理解した発言が出たので,みんなで確認した.

p.54下段の表と言葉も,見ておきましょう.

「だんの数×3=増えた辺の数」「3×だんの数=増えた辺の数」がともに,関係を表した式となるのは,Vergnaudの解説をもとに確認することができます(次のステップ2×30g).「だんの数×3=増えた辺の数」のうち「×3」は,“だんの数”という量空間と“増えた辺の数”という量空間とを(乗法的に)結びつける関係であり,表で言うと,上下の行を結ぶ矢印と「×3」によって視覚化されています.それに対し「3×だんの数=増えた辺の数」については,3を基準量とし,段の数が増えればそれに応じて(乗法的に),増えた辺の数も増えます.表では,横方向につけられた矢印と「×2」「×3」「×4」「×5」が対応します.
とはいうものの,子どもたちは「だんの数×3=増えた辺の数」はおかしいと言い,「3×だんの数=増えた辺の数」の方がいいと進んでいきます.
違和感(おかしさ)の正体は,かけられる数と積の単位(もしくは量空間)が異なるところです.単位をつけるなら,例えば「だんの数[段]×3[本/段]=増えた辺の数[本]」とできますが,かける数が1あたりになる---「1あたり量」でかけ算を学習していないとしても---という認識が難しいのではないか,と想像します.
Vergnaud (1983)に依拠している,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.187でも,表の中では「×a」と書く一方で,式は「〔求める全体量:x〕=〔単位あたり量:a〕×〔単位のべ量:b〕」としています.

5. まとめ

2009年,2013年に発行された本から,いくつか新たな「表し方」を発見できました.
『ほめて育てる算数言葉』で取り上げた事例は,a×bとb×aとが「違う」と書かれていなくても,「違う」「違いがある」と,読み取ることができました.式に表す・式を読むといった算数的活動の,新潮流になっていくようにも感じました.

(最終更新:2013-07-27 朝)

*1:封筒に入っているおはじきの数は,Aくん,Bくん,Cくんで異なっています.1個ずつ入れていなかったからです.わり算にするには「同じ数(ずつ/に分ける)」が必要なのでした.

*2:より正確には逆N型,もしくはИ型.

*3:右上から書くN型.これもある意味,逆N型.