takehikom 2013/01/12 13:48
>量として一致するのはなぜか.
遠山・銀林らと別アプローチですが,「数」を対象とした加減乗除を既知とし,「量×数」を適切に定義すれば,例えば3mの5倍は3m×5=(m×3)×5=m×(3×5)=m×15=15m,また同様に5mの3倍は5m×3=(m×5)×3=m×(5×3)=15mとできます。
かけ算の順序 - 青空学園だより コメント
この中で,「(3×5)」と「(5×3)」のみが数×数(交換法則が利用可能),残りのかけ算は量×数(交換法則は使えない)です。それと,カッコの位置変更は,結合法則ではなく,「量×数」の定義によります。
古い本ですが田村二郎『量と数の理論』を入手してご確認ください。「量×量」についても記されています。もし入手が困難でしたら,高木貞治『新式算術講義』という本もあります。
上のように今年1月,コメントしたところ,
で当ブログにリンクされていました.リンクを知ったのは,遅ればせながら今月になってからです.というのも,当ブログ(記事ではなく)にはてブがありまして,そこで「このエントリーを含むはてなブログ」を目にしたからなのでした.
id:nankaiさんが読まれたことは,次のページにも反映されています.
最初の段落に,『新式算術講義』や『量と数の理論』が挙げられています.またその少し上に書かれた式「(U6)8=U(6・8)=U(8・6)=(U8)6」は,冒頭で引用した自分のコメントの式や「数×数(交換法則が利用可能)」の記述と,重なっています.
1970年代に書かれ,かけ算を含む「量の理論」が整理されたものとして,次の書籍・論文があります.
- 小島順: 線型代数, 日本放送出版協会 (1976). asin:B000JA0OCK
- Nagumo, M.: Quantities and real numbers, Osaka Journal of Mathematics, Vol.14, No.1, pp.1-10 (1977). http://projecteuclid.org/euclid.ojm/1200770204
- 田村二郎: 量と数の理論, 日本評論社 (1978). asin:B000J8KINM
当ブログでは英文から学ぶ,数学者による「かけ算の順序」で見てきています.それと懐古趣味。 - 担当授業のこととか,なんかそういった話題。*1が読みやすいガイドとなっています.
『量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』と『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』は,上の3つの文献より少し離れたところで,高みの見物をしているかのような本です.『量の世界』は同時期だし,『線型代数』あとがきの参考文献リストにも入っているので,これも1970年代の量の理論に入れても良さそうですが,読み比べた感触として,線引きをしたほうがよさそうです.
量に対するかけ算と,線形性,そして量の構造については,『線型代数』(pp.44-45)で次のとおり明快に記されていました.
(4.1.4) 実数の発生学
量の空間そのものの抽象化として実数体があらわれるのではない.
実在とのつながりを考えると,まず同種類の量の空間Xが意識される.Xにおいては加法が意味をもつが,乗法は,例えば 3秒×4秒,3cm×4cmのように,少なくともXの中の積としては意味をもたない.しかし,Xの二つの元の比を考えると,この比はXに作用する.この作用(倍概念)の合成として,比の乗法が定義される.こうして一つの量の空間Xに対して倍変換の体End(X)が作られ,XはEnd(X)上の線形空間となる.さまざまな量の空間に対するEnd(X)の本質的な同一性を意識するとき,実数体Rが生まれる.
もちろん,今日の数学では普遍的な体Rから出発して公理的に線型空間を定義するが,実際には,量の構造についての認識の(歴史的,心理的な)過程は,まず量の1次元線型空間が,そしてその係数体の抽象としての実数体が,という順序になっている.“量の理論”にとって線形代数がその自然な枠組となるのは,以上のような理由からいっても当然のことである.“多次元の量”の理論が線型代数なのではなく,“1次元の量”から線型代数は始まる.
本日挙げてきた書籍や論文から,輪郭をつかむことのできる「乗法構造」は,量の空間における比の乗法です.*2
ですが,かけ算の式の書き方は,文献によって異なります.『量と数の理論』では,量Uのn倍をU×nと表記していますが,『線型代数』には3×1.5袋=4.5袋という式*3が見られます.
数学者の著述も,つぶさに見ていけば「かけ算の順序」が出てくるわけです.それは,「かけ算の順序論争」に答えを出すため(に読むべき)ではなく,著述の一貫性,もしくは各著者の知的誠実さによるものなのでしょう.
(最終更新:2013-10-23 朝.タイトルを「もう一つの,1970年代の乗法構造」から変更したほか,本文を少し書き換えました)