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数の構成及び分解〜昭和初期の「さくらんぼ」

さくらんぼ計算を支えているものは,「加数分解」です.
冒頭の9+4の計算について,9+4=9+(1+3)=(9+1)+3=10+3=13と書くことができます(略).4は加数と呼ばれ,これを1+3と分解するので,加数分解となります.
加数分解では,被加数(この例では9)をもとに,「足したら10になるもの」を加数から取り分けることになります.「足したら10になるもの」は,10の補数といいます.

さくらんぼ計算

演算として見ると,加数分解と呼ばれる上記の手続きが,さくらんぼ計算の基礎となっているのですが,もう一つ,基礎があることに気づきました.現在では「数の合成と分解」と呼ばれるものです.
Webだと啓林館の用語集で見ることができます.

小学校学習指導要領解説 算数編にも当たっておきます.「合成」を探すと,p.63に2つ出てきて,「...,一つの数を合成や分解により構成的にみることができるよう,活動を通して学んでいくようにする。この数の合成や分解を理解するということは...」とあります*1
この「数の合成と分解」のルーツと言ってよさそうなものが,昭和はじめに書かれていました.本文はWebで読むことができます.

この文献を読む際に,一つ注意すべきことがあります.「尋常小学算術書」とあるので,「黒表紙教科書」のことかと勘違いしそうになるのです.しかし序の中で「本書は(略)尋常小学算術第一学年下巻の指導研究書である」とあります.http://library.miyakyo-u.ac.jp/Outline/Activity/josetu/H18/kaisetsu2.htmlから確認できるように,「尋常小学算術」とあればこれは「緑表紙教科書」です.そして刊行時期も合致します.そうしてみると,本書のタイトルの「尋常小学算術書」は誤解しやすいのですが,当時は「書」の有無は重要視されていなかったのかなと推測します.
さて,この中のp.31,なのですが近代デジタルライブラリーで見るなら,コマ番号24の右側です.「数の構成及び分解」という小見出しを設けて,2から10までの各整数に対し,次のとおり,組合せを例示しています.

「10」のところをTeX記法にすると,次のとおりです.

10\left{\begin{array}{ccccc}1&2&3&4&5\\9&8&7&6&5\end{array}\right.
しかし,さくらんぼの形状にはなっていません.縦横が反対です.
上下関係で,数の合成と分解を示した図は,p.250(コマ番号134)にあります.

p.262(コマ番号140)にもあります.丸囲みの数と丸囲みだけの間は,バネのようですが,拡大すれば「タス」と書かれているのが分かります.

とはいえいずれも,現在見かけるさくらんぼの図とは違いがあります.
もしかして当時「さくらんぼ」がなかったのかなと,wikipedia:サクランボを起点に調べたところ,佐藤錦の品種は大正11年に実ができ,昭和3年命名されたとのこと.出回っておらず,算術の教具にならなかった,といったところでしょうか.
さくらんぼ」については,緑表紙と現在の算数との間に,もう一つ,挙げておきたい本があります.『算数に強くなる水道方式入門 (1961年)』です.p.95には《10に対する補数》として,以下のように,文章と,さくらんぼの並びがあります*2

算数の「さくらんぼ」の品種改良,そして普及については,本日の冒頭の引用でリンクした先にて紹介していますので,どうぞご覧ください.


以下は高木の書籍に関する自分用メモです.

  • p.44(コマ番号31):和が10(まで)のたし算;p.65(コマ番号41):「2数の和11以上となるものは行わない」;p.129(コマ番号73):和が20まで,繰り上がりなし;足して10や20になるのは繰り上がりと見なさなかったらしい.
  • p.72(コマ番号45):5ヒキ+2ヒキ=7ヒキ,名数式の筆算
  • p.63(コマ番号40):「3+1 ヲ「3 タス 1」ト ヨミマス。」
  • p.104(コマ番号61):10の分解を●○で
  • p.115(コマ番号66):「個物単位(不連続単位)」「測定単位(連続単位)」
  • p.247(コマ番号132):被加数分解

この記事のリリースに先立って以下のページを読み,はてブしました.

*1:「合成」は,p.118にもあります.「そろばんによる計算の仕方」で,5の分解や合成の話です.

*2:1971年に出た新版では,さくらんぼの図が見当たりませんでした.